【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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【番外編】また、お休みを言い合えるまで8

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 あの後も、アオイはただひたすらに私を安心させようとしてくれた。彼とてまだ不安だろうに。本来ならば私が支えなければならないのに。

 不甲斐ないとは思うものの、止めることは出来なかった。彼の温もりを、彼の鼓動を感じている時だけが、今の私にとって唯一の安らぎなのだから。



 スヴェンさんがアオイの為にと、胃に負担をかけず、なおかつ疲労回復に良いとされる食材を用いて作ってくれた昼食。彩り豊かなそれらを、アオイはぺろりと平らげてくれた。

 これだけ食欲があればと、膨らんだ期待はすぐさま萎んだ。アオイが眠たそうに、うつらうつらと船を漕ぎ始めてしまったのだ。

 歯噛みする思いだったが、申し訳無さそうなアオイに気づかれる訳にはいかない。

 私は努めて冷静に、大丈夫ですよ、と彼に微笑みかけながら華奢な身体を寝かせた。

 ほとんど閉じかけているのに、アオイは懸命に瞼を開けようとしてくれている。眠りに落ちる寸前まで、私をその愛らしい瞳に映そうとしてくれている。

 その健気さが愛おしくて仕方がない。そんな彼に、眠らないで下さいと縋りたくなる自分が、情けなくて仕方がない。

「バアルさん……お願いが、あるんですけど……」

 か細い声に強請られて我に返る。久々の彼からのお願いだ。俯いている場合ではない。

「斯様に……遠慮がちに尋ねないで下さい……何でも仰って宜しいのですよ? 貴方様のお願いであればこの老骨、必ずや叶えて見せますので」

「ホント……ですか?」

「ええ」

 ……どのような願いでも叶えよう。

 期待に揺れる眼差しに、固く決意したハズなのに。

「じゃあ……俺とお昼寝、してくれませんか?」

「はい……?」

 私は、呆けた声を出してしまっていた。

 途端に愛らしい瞳が潤み出す。陽だまりのような笑顔が曇っていってしまう。

「十分でも……五分でもいいんです……眠れなくてもいい……一緒に横になって、目を閉じているだけでいいですから……」

 ベッドの端に腰掛ける私に向かって、か細い腕が伸びてくる。

 小さな手が、私の手を握り締めようとする。けれども震える指先では力が上手く入らないのか、ただ重ねられただけに終わった。

「バアルさんが、眠るのが、辛いの……分かってます……でも、俺……またバアルさんと一緒にお休みを言いたいんです……」

 ああ、これ程までに……これ程までに、彼に心配をかけていたなんて……泣かせてしまう程に私のことを……

「ちょっとずつでいいです……だから、俺と……」

「畏まりました……」

「良いんですか……?」

 花が咲くように、ぱぁっと晴れやかになった表情に安堵する。ベッドに潜り込み、小柄な体躯を抱き締めれば、喜び勇むように抱き締め返された。

 お互いの温もりを噛み締めてから、腕の力を緩める。背を丸め、小さな額へと重ねる。

 幸せそうに微笑む眼差しは、今にも閉じてしまいそう。しかし、不思議と恐れは感じなかった。

 今までが嘘のよう。魂が凍りついてしまいそうな、足元が崩れて底の見えない暗闇へと落ちてしまいそうな。そのような不安など、絶望など何も。

 ただただ温かくて、幸せで……ああ、こんなことで良かったのだ。こんな簡単なことだったのだ。

 擦り寄ってきた彼の手が、私の手に触れる。指を絡めて繋げば、可憐な唇に愛らしい笑みが浮かんだ。

「ありがとう……バアル……」

「お礼を言うのは、私の方でございます……それから、忘れ物がございますよ……」

 不思議そうに見つめている様が可愛らしい。私が横になったことで、すでに目的を果たしたつもりなのだろう。満足していらっしゃるのだろう。

 ……誠に欲のない御方だ。

「お休みなさい……アオイ」

 指通りの良い髪を梳くように撫でて、口づけて。そうして、ようやく気づかれたらしかった。

 大きく見開かれた瞳に、満天の星が煌めく。蕩けるような微笑みを浮かべながら、私にお返しをしてくれる。

「へへ……お休み……バアル」

 幸せそうに瞳を閉じた彼と共に、私も目を閉じた。愛しい彼を見えなくしてしまう暗闇を、私は久方ぶりに心穏やかな気持ちで受け入れることが出来た。
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