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【新婚旅行編】一日目:俺が思う、最高のバアルさんの笑顔をお返しに
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「バアルさん?」
「少々お待ち下さい」
「……はい」
取り敢えず座り直せば、何の前触れもなくテーブルの真ん中が淡い光を帯び始めた。光源は、硝子の花瓶に飾られていた水晶で出来た花だった。睡蓮のような形をした白い花達から、光で出来た蝶が現れ俺達の前へと飛んでくる。
前に見た、個室レストランの演出みたい。ということは、これも何らかの術なんだろう。
あの時は、いくつもの蝶達が部屋を縦横無尽に飛び回った後、集まってから大きな蝶へと、メニュー表へと変わっていったんだっけ。じゃあ、今回のもルームサービスのメニュー表だったり?
俺の予想は当たらずとも遠からず。集まった蝶達は此方の文字で「ようこそ」と形作ってから、再び一つに。反射的に目を瞑ってしまうほどの眩い光を放った。
収まった頃に見えたのは、大きめのグラスを満たしている緑とオレンジ。パイナップルや星の形をした果物など、南国を思わせるような瑞々しいそれらで飾られたトロピカルジュースが二つ、俺とバアルさんの前に置かれていた。
「ウェルカムドリンクです。此方の花瓶に魔力を込めることで、搾りたてのものが厨房から送られる仕組みになっております」
「へぇ……てっきりバアルさんの術かと。それにしてもキレイですね。演出もですけど、このドリンクも。飲むのが勿体無い……あっ」
「いかがなさいましたか?」
「写真! 飲む前に撮っておきましょうよ、記念に! ヨミ様達にも送りたいですし」
「ああ、でしたら問題ございませんよ。すでにいくつか撮って送っており、ま」
しまった、といった感じだった。
にこやかに話していた口を慌てて覆ったバアルさん。微笑んでくれていた眼差しが、バツが悪そうに逸らされる。
明らかに何か隠していらっしゃる。すでにって言っていたよな。まさか。
「……もしかして、探検の時から撮っていたってこと、ですか?」
図星らしい。落ち着きがなさそうに揺れていた触角が、片方だけぴくっと跳ねた。
新婚旅行なのだから、思い出を残しておくことはいいことだ。俺もいいスポットを見つけたら、記念に撮るつもりだったし。
じゃあ、なんでバアルさんがこっそりしていたかというと、思い当たる理由は一つしか。
「……どんな写真を送ったんですか? まさか、俺のばっかり送ったんじゃないですよね?」
「……共有したかったものですから……誠に愛らしい貴方様の御姿を、この目で拝見出来た喜びを……」
「もー……」
ズルい。降参するやいなや、耳心地のいい声で嬉しいことを言ってくれるなんて。そんなの、俺だって。
「一緒に撮りましょう? 俺だって、バアルさんの写真送りたいんですから。カッコいい俺のバアルさんを、皆さんと共有したいんですから」
「……畏まりました」
ほんのりと頬を染める彼の腕に抱きついて、新しい思い出を記録していく。甘酸っぱいジュースを飲みながら、何枚も。
後で見せてもらった、すでに送ったという写真は案の定、俺の笑顔ばっかりだった。だからお返しにいっぱい撮ってやった。俺が思う、最高のバアルさんの笑顔を。
「少々お待ち下さい」
「……はい」
取り敢えず座り直せば、何の前触れもなくテーブルの真ん中が淡い光を帯び始めた。光源は、硝子の花瓶に飾られていた水晶で出来た花だった。睡蓮のような形をした白い花達から、光で出来た蝶が現れ俺達の前へと飛んでくる。
前に見た、個室レストランの演出みたい。ということは、これも何らかの術なんだろう。
あの時は、いくつもの蝶達が部屋を縦横無尽に飛び回った後、集まってから大きな蝶へと、メニュー表へと変わっていったんだっけ。じゃあ、今回のもルームサービスのメニュー表だったり?
俺の予想は当たらずとも遠からず。集まった蝶達は此方の文字で「ようこそ」と形作ってから、再び一つに。反射的に目を瞑ってしまうほどの眩い光を放った。
収まった頃に見えたのは、大きめのグラスを満たしている緑とオレンジ。パイナップルや星の形をした果物など、南国を思わせるような瑞々しいそれらで飾られたトロピカルジュースが二つ、俺とバアルさんの前に置かれていた。
「ウェルカムドリンクです。此方の花瓶に魔力を込めることで、搾りたてのものが厨房から送られる仕組みになっております」
「へぇ……てっきりバアルさんの術かと。それにしてもキレイですね。演出もですけど、このドリンクも。飲むのが勿体無い……あっ」
「いかがなさいましたか?」
「写真! 飲む前に撮っておきましょうよ、記念に! ヨミ様達にも送りたいですし」
「ああ、でしたら問題ございませんよ。すでにいくつか撮って送っており、ま」
しまった、といった感じだった。
にこやかに話していた口を慌てて覆ったバアルさん。微笑んでくれていた眼差しが、バツが悪そうに逸らされる。
明らかに何か隠していらっしゃる。すでにって言っていたよな。まさか。
「……もしかして、探検の時から撮っていたってこと、ですか?」
図星らしい。落ち着きがなさそうに揺れていた触角が、片方だけぴくっと跳ねた。
新婚旅行なのだから、思い出を残しておくことはいいことだ。俺もいいスポットを見つけたら、記念に撮るつもりだったし。
じゃあ、なんでバアルさんがこっそりしていたかというと、思い当たる理由は一つしか。
「……どんな写真を送ったんですか? まさか、俺のばっかり送ったんじゃないですよね?」
「……共有したかったものですから……誠に愛らしい貴方様の御姿を、この目で拝見出来た喜びを……」
「もー……」
ズルい。降参するやいなや、耳心地のいい声で嬉しいことを言ってくれるなんて。そんなの、俺だって。
「一緒に撮りましょう? 俺だって、バアルさんの写真送りたいんですから。カッコいい俺のバアルさんを、皆さんと共有したいんですから」
「……畏まりました」
ほんのりと頬を染める彼の腕に抱きついて、新しい思い出を記録していく。甘酸っぱいジュースを飲みながら、何枚も。
後で見せてもらった、すでに送ったという写真は案の定、俺の笑顔ばっかりだった。だからお返しにいっぱい撮ってやった。俺が思う、最高のバアルさんの笑顔を。
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