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【新婚旅行編】一日目:何もかもが眩しくて
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四方八方へと広がり、いくつもの筋を伸ばしながら真っ白に揺らめいている光。目指していたその明かりは、俺達にとって酸素とかと同じでなくてはならないもので、身近なものなのに。
青に染まった景色ばかりを見ていたからだろうか。新鮮さを覚えていた。眩しく感じていた。陽の光に包まれた、地上の景色を。
「アオイ、お加減はいかがでしょうか?」
深海へのダイビングを始めた直後と同じ質問が聞こえてきた。今回は頭の中で、ではない。ちゃんと隣で、自分の耳で聞き取ることが出来た。
身体は少しだけ冷えてはいたけれど、身震いしたりするほどでは。それ以外は特に異常を感じない。強いて言うならば、お腹が空いたくらいだろうか。
「はい、大丈夫で」
伝えようとして顔を向ければ、バアルさんが微笑んでいた。艷やかな髪から滴る海水がシャープな顎を伝って、浮き出た鎖骨へとポツポツ落ちている。
鼻筋の通ったお顔には、年を重ねた男性にしかない魅力的なラインが、目尻や頬骨あたりに刻まれているってのに。しっとりと濡れたお髭もカッコよさにあふれているってのに。均整な体躯は、透き通るような白い肌は、年齢を感じさせない。
何だか、バアルさんも眩しく見えて……
返事の途中だった口を開けたまま、つい俺は不躾に眺めてしまっていた。けれども、この透き通った海よりも心の広い彼に気にする様子はない。何やら擽ったそうに笑うばかりだ。
大きな手が、目元にかかっていた前髪を煩わしげに、荒っぽくかき上げた。ごく普通の仕草なのだけれど、バアルさんがしているってだけで絵になってカッコいい。
ますます見惚れてしまっていると、今度は俺に向かって伸びてきた。視界の端に映り込んでいたオレンジを、目元から頬にかけて張り付いていた髪を、白い指先が優しくはらって耳へとかけてくれた。
表面はほんのり冷たいけれども、確かに感じる温もりと柔らかさが、俺の輪郭をなぞるように優しく撫でてくれる。
「あ、ありがとうございます」
「いえ……お変わりはないようで何よりでございます。見たところ、問題はなさそうだと存じておりましたが……愛らしいお顔の色も、可憐な唇も、美しく色づいております故」
よくもまあ、スラスラと言えるもんだ。俺にとっては勿体ないくらいに嬉しい形容詞と、お褒めの言葉を。
……バアルさんにとっては、このくらいは序の口っていうか、平常運転なのかもしれないけどさ。
さり気ない優しさによって、はしゃぎ始めていた心音が小躍りし始める。そんな矢先に、ますます踊り狂わされることになろうとは。
「ああ、ますます赤く色づきましたね……はにかむ貴方様も、誠にお可愛らしい……」
うっとりとした声で指摘されてしまっただけじゃない。緩やかな笑みを形作った唇で触れてもらえてしまったのだ。海水で濡れたままの額に、頬にと躊躇なく。
ホントに序の口だったとは。柔らかな温度が肌を掠める度に、どんどん熱を持ってしまう。軽やかなリップ音を送られている顔どころか、身体まで。ひんやり真っ青な海に、肩まで浸かったままだってのにさ。
「ば、バアルしゃ……」
思いがけない大サービスに口が腑抜けになってしまっていた。思考もまともに追いつかない。
何で、こんなにキスしてもらえて……嬉しいけどさ。
情けない俺の声に気がついたのか、ひと通り触れて満足したのか。バアルさんは、はたと瞳を瞬かせてから俺の腰を支えてくれるように抱き寄せた。
「ああ、失礼致しました……年甲斐もなく衝動を抑えることが叶わずに……」
声色は申し訳無さそうだけれども、表情に悪びれた様子はない。分かっているんだろう。俺が喜んでいるって。
この時点でも、十分に俺は彼の手のひらの上だった。でも、俺の口は勝手に伝えていた。
「い、いえっ……嬉しかったですよ……いっぱいキス、してもらえて……」
仕方がないだろう。心底、彼に惚れてしまっているんだから。彼の笑顔が見たくて仕方がないんだから。
「……左様でございましたか」
たちまち、深くなった微笑み。水面のようにキラキラと煌めき出す瞳。お望み通り、いや……それ以上のご褒美をもらえてしまった。
二本の触角を弾むように揺らしながら、バアルさんが引き締まった身体を寄せてくる。鼻先に纏わりついていた海の香りが、彼から漂うハーブの匂いに上書きされた。
「お疲れでしょう? 取り敢えず、岸へと戻りましょうか?」
「そう、ですね……ちょっと、ゆっくりしたい……です……」
「畏まりました」
抱き合うように隙間なく密着したまま、バアルさんが器用に泳ぎ始める。
確かに、少し疲れてはいた。けれども、まだ余裕はあった。一人で岸まで泳げるくらいには。
でも、俺は身を委ねてしまっていた。少しでも長く、この腕の中にいたいと甘えてしまっていたんだ。
青に染まった景色ばかりを見ていたからだろうか。新鮮さを覚えていた。眩しく感じていた。陽の光に包まれた、地上の景色を。
「アオイ、お加減はいかがでしょうか?」
深海へのダイビングを始めた直後と同じ質問が聞こえてきた。今回は頭の中で、ではない。ちゃんと隣で、自分の耳で聞き取ることが出来た。
身体は少しだけ冷えてはいたけれど、身震いしたりするほどでは。それ以外は特に異常を感じない。強いて言うならば、お腹が空いたくらいだろうか。
「はい、大丈夫で」
伝えようとして顔を向ければ、バアルさんが微笑んでいた。艷やかな髪から滴る海水がシャープな顎を伝って、浮き出た鎖骨へとポツポツ落ちている。
鼻筋の通ったお顔には、年を重ねた男性にしかない魅力的なラインが、目尻や頬骨あたりに刻まれているってのに。しっとりと濡れたお髭もカッコよさにあふれているってのに。均整な体躯は、透き通るような白い肌は、年齢を感じさせない。
何だか、バアルさんも眩しく見えて……
返事の途中だった口を開けたまま、つい俺は不躾に眺めてしまっていた。けれども、この透き通った海よりも心の広い彼に気にする様子はない。何やら擽ったそうに笑うばかりだ。
大きな手が、目元にかかっていた前髪を煩わしげに、荒っぽくかき上げた。ごく普通の仕草なのだけれど、バアルさんがしているってだけで絵になってカッコいい。
ますます見惚れてしまっていると、今度は俺に向かって伸びてきた。視界の端に映り込んでいたオレンジを、目元から頬にかけて張り付いていた髪を、白い指先が優しくはらって耳へとかけてくれた。
表面はほんのり冷たいけれども、確かに感じる温もりと柔らかさが、俺の輪郭をなぞるように優しく撫でてくれる。
「あ、ありがとうございます」
「いえ……お変わりはないようで何よりでございます。見たところ、問題はなさそうだと存じておりましたが……愛らしいお顔の色も、可憐な唇も、美しく色づいております故」
よくもまあ、スラスラと言えるもんだ。俺にとっては勿体ないくらいに嬉しい形容詞と、お褒めの言葉を。
……バアルさんにとっては、このくらいは序の口っていうか、平常運転なのかもしれないけどさ。
さり気ない優しさによって、はしゃぎ始めていた心音が小躍りし始める。そんな矢先に、ますます踊り狂わされることになろうとは。
「ああ、ますます赤く色づきましたね……はにかむ貴方様も、誠にお可愛らしい……」
うっとりとした声で指摘されてしまっただけじゃない。緩やかな笑みを形作った唇で触れてもらえてしまったのだ。海水で濡れたままの額に、頬にと躊躇なく。
ホントに序の口だったとは。柔らかな温度が肌を掠める度に、どんどん熱を持ってしまう。軽やかなリップ音を送られている顔どころか、身体まで。ひんやり真っ青な海に、肩まで浸かったままだってのにさ。
「ば、バアルしゃ……」
思いがけない大サービスに口が腑抜けになってしまっていた。思考もまともに追いつかない。
何で、こんなにキスしてもらえて……嬉しいけどさ。
情けない俺の声に気がついたのか、ひと通り触れて満足したのか。バアルさんは、はたと瞳を瞬かせてから俺の腰を支えてくれるように抱き寄せた。
「ああ、失礼致しました……年甲斐もなく衝動を抑えることが叶わずに……」
声色は申し訳無さそうだけれども、表情に悪びれた様子はない。分かっているんだろう。俺が喜んでいるって。
この時点でも、十分に俺は彼の手のひらの上だった。でも、俺の口は勝手に伝えていた。
「い、いえっ……嬉しかったですよ……いっぱいキス、してもらえて……」
仕方がないだろう。心底、彼に惚れてしまっているんだから。彼の笑顔が見たくて仕方がないんだから。
「……左様でございましたか」
たちまち、深くなった微笑み。水面のようにキラキラと煌めき出す瞳。お望み通り、いや……それ以上のご褒美をもらえてしまった。
二本の触角を弾むように揺らしながら、バアルさんが引き締まった身体を寄せてくる。鼻先に纏わりついていた海の香りが、彼から漂うハーブの匂いに上書きされた。
「お疲れでしょう? 取り敢えず、岸へと戻りましょうか?」
「そう、ですね……ちょっと、ゆっくりしたい……です……」
「畏まりました」
抱き合うように隙間なく密着したまま、バアルさんが器用に泳ぎ始める。
確かに、少し疲れてはいた。けれども、まだ余裕はあった。一人で岸まで泳げるくらいには。
でも、俺は身を委ねてしまっていた。少しでも長く、この腕の中にいたいと甘えてしまっていたんだ。
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