【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

文字の大きさ
707 / 1,566

【新婚旅行編】四日目:確かに、こんな中なら目立たないだろうけどさ

しおりを挟む
 入場ゲートをくぐってすぐの道のりには、レストランっぽいお店やお土産屋さん、ひと息つけそうな休憩所などなど。外観がおもちゃのように可愛らしいログハウスが大きな通りの左右に並んでいた。

 が、さらにもう一つ。入場ゲートよりひと回り小さなゲートをくぐった途端に世界が一変した。

「スゴい……何処までも続いていそうですね……」

 まるで、一瞬の内に自然豊かな草原へとワープしてきたような。別のゾーンへと導いてくれる順路であろう青いレンガ道。先の見えない、長くて幅の太い線以外は文明の痕跡が一切見えない。海原のように延々と緑の大地が広がっていた。

 ところどころに背の高い木が密集して出来た小さな森が、少し遠くには色とりどりの水晶の花畑が煌めいている。あそこは池? いや、湖だろうか? 透き通った緑がかった青色がスゴくキレイだ。

 俺達よりも先に入場したであろう皆さんが、思い思いに楽しんでいる。

 そのまま順路に沿ってのんびり進んでいる方々もいれば、少しそれたところへと。草花を愛でていたり、木陰で腰を下ろしていたり、草原に寝転がっていたり。あんなに沢山の方々がいらっしゃったのに、その影はぽつりとぽつりとしか見えない。

 よっぽどここが広いのかな? それとも他のゾーンへと魔法陣で移動したんだろうか。

 入り口付近だからだろう、まだ生き物達の姿は見えない。きょろきょろと見回していると手を引かれた。

「では、私達も参りましょうか」

「はいっ、バアルさ、ん?」

 デジャヴだ。また視界がブレたかと思えば、今度は穏やかな微笑みでいっぱいになっていた。バアルさんに、横抱きの形で抱き抱えてもらえていた。

 さらには額をくっつけて、甘えるように高い鼻先を擦り寄せてくれている。なんだ? この突然の大サービスは。

「えっと……これは、どういうことでしょうか?」

「まだまだ先は長うございますので、可憐なアオイの足腰に負担をかけぬようにと……お嫌でしたか?」

「ひぇ……いっ、いやいや、全然っ、目茶苦茶嬉しいですけど……ただ……」

 一応、広いし、皆さん周りの景色に夢中になられているとはいえ、人の目が多いんですけど?

 こういう場所では弁えないといけないんじゃ? いや、まぁ、俺もすでに結構な頻度で抱きついちゃってはいたんだけどさ。

 憂いを帯びていた表情から、ぱぁっと上機嫌になったバアルさん。そのしなやかな指で、俺の髪を梳くように撫でてくれている。察し良く、素直になれない俺の気持ちを見抜いたんだろう。少し先を行く家族を見つめながら、安心させるような声色で話し始めた。

「ああ、大丈夫ですよ、アオイ。ほら、ご覧になって下さい、あちらの方々は肩車をしてお散歩を楽しんでおりますよ」

「いや、乗っている方はお子さんですし!」

「手を繋いでいらっしゃる方々も、肩を抱き合っていらっしゃる方々も大勢いらっしゃいますよ?」

 確かに、さっきは景色ばかりに注目していたが、いざ恋人同士か夫婦らしき皆さんへと注目してみれば、どなたもそなたも距離が近い。ほとんど抱き合っているような密着具合だ。

 元々リゾート地であり、新婚さんにはサービスをするくらいに大歓迎なだけはある。皆さん大っぴらだ。お熱い雰囲気を隠そうともしない。確かに、こんな中なら目立たないだろう。っていうか、そもそも皆さん景色かお互いしか見ちゃあいない。でも、だからといって。

「お散歩って言ってたじゃないですか……バアルさんと一緒に歩きたいんですけど」

「……左様で、ございましたね」

 意外にもすんなりと。大きく広がった羽を落ち着きなく揺らしながら下ろしてくれた。ただ、いつものエスコートと比べたら、身を寄せ合うような形になってはいるけれども。

「……あの」

「はい、アオイ」

「もし、その……ぎゅってしたくなったら言って下さいね……俺も……したくなったら、言いますから……」

 いくらなんでもはっちゃけ過ぎただろうか。バアルさんは、その長い足をピタリと止めてしまったどころか瞬きすらしていない。

「ご、ごめん……やっぱナシで」

「今、抱き締めさせて頂いても?」

「へ?」

「御身を抱き締めさせて頂いても宜しいでしょうか?」

 前のめりな姿勢で俺の手を取ってくれたバアルさんは、いつもと変わらず渋くてカッコいいのに、何だかとっても可愛くて。

「ふふ、いいですよ。あ、でも、もうちょっと入口から離れたところ、でっ」

 つい、さっきぶり。またしても俺は彼の腕の中に抱き抱えられてしまっていた。

 しかも、今回はすんなりとは。彼が満足してくれるまでの間、俺は彼から香るハーブの匂いに包まれながら緑の景色を楽しむこととなった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する

竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。 幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。 白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

紳士オークの保護的な溺愛

こむぎこ7g
BL
■ 世界と舞台の概要 ここはオークの国「トールキン」。 魔法、冒険者、ギルド、ダンジョン、獣人やドラゴンが存在する、いわゆる“典型的な異世界”だが、この国の特徴はオークが長命で、理知的な文明社会を築いていることにある。 トールキンのオークたちは、 灰色がかった緑や青の肌 鋭く澄んだ眼差し 鍛え上げられた筋骨隆々の体躯 を持ち、外見こそ威圧的だが、礼節と合理性を重んじる国民性をしている。 異世界から来る存在は非常に珍しい。 しかしオークは千年を生きる種族ゆえ、**長い歴史の中で「時折起こる出来事」**として、記録にも記憶にも残されてきた。 ⸻ ■ ガスパールというオーク ガスパールは、この国でも名の知れた貴族家系の三男として生まれた。 薄く灰を帯びた緑の肌、 赤い虹彩に金色の瞳孔という、どこか神話的な目。 分厚い肩と胸板、鍛え抜かれた腹筋は鎧に覆われずとも堅牢で、 銀色に輝く胸当てと腰当てには、代々受け継がれてきた宝石が嵌め込まれている。 ざらついた低音の声だが、語調は穏やかで、 貴族らしい品と、年齢を重ねた余裕がにじむ話し方をする。 ● 彼の性格 • 極めて面倒見がよく、観察力が高い • 感情を声高に表に出さないが、内側は情に厚い • 責任を引き受けることを当然のように思っている • 自分が誰かに寄りかかることだけは、少し苦手 どこか「自分は脇役でいい」と思っている節があり、それが彼の誠実さと同時に、不器用さでもあった。 ⸻ ■ 過去と喪失 ――愛したオーク ガスパールはかつて、平民出身のオーク男性と結ばれていた。 家柄も立場も違う相手だったが、 彼はその伴侶の、 不器用な優しさ 朝食を焦がしてしまうところ 眠る前に必ず手を探してくる癖 を、何よりも大切にしていた。 しかし、その伴侶はすでにこの世を去っている。 現在ガスパールが暮らしているのは、 貴族街から少し離れた、二階建ての小さな屋敷。 華美ではないが、掃除が行き届き、静かな温もりのある家だ。 彼は今も毎日のように墓参りを欠かさない。 それは悲嘆というより、対話に近い行為だった。 ⸻ ■ 現在の生活 ガスパールは現在、 街の流通を取り仕切る代表的な役職に就いている。 多忙な職務の合間にも、 洗濯、掃除、料理 帳簿の整理 屋敷の修繕 をすべて自分でこなす。 仕事、家事、墓参り。 規則正しく、静かな日々。 ――あなたが現れるまでは。

処理中です...