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【新婚旅行編】三日目:意味はないのだけれど譲れない攻防
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急に声を上げたからだろう。彼の手が飛び退くように離れていく。目を丸くして、幅広の肩を縮めていた。
ただただ俺を見つめるだけな、無防備な彼へと手を伸ばす。白い頬を包み込むように両の手を添えてから、薄く開いた唇に口を押しつけてやった。
ついでに彼がしてくれるように、軽く食んでやった。リップ音を鳴らすのも忘れない。今日は鈍い音じゃなくて、それっぽい音を鳴らすことが出来た。
「ん……あれ、どうしたの? 俺のカッコいいバアル」
珍しいな、まだ状況を把握出来ていないみたい。きょとんとした顔で、まじまじと俺を見つめている。レアな彼を前にしているからだろう。ただただ達成感に満ちていた胸の内に、悪戯心がひょこりと顔を出してきてしまう。
何だかチャンスっぽいし……もうちょっと、押してみちゃう? 上手く出来れば、もっと俺にドキドキしてくれるかも。
すっかり調子に乗ってしまった俺は早速行動に移していた。
挨拶代わりに彼の滑らかな頬に口を押しつけてから、耳元に口を寄せた。トーンの低い彼の声を意識しながら、俺が思う精一杯のカッコいい声で囁いてみる。
「……バアル、大好きだよ」
すぐに聞こえた良いリアクション。息を飲むような音と、風を切るような羽の音。表情は見えないけれども感じた確かな手応えに、ますます高揚感が高くなっていく。何だか楽しくなってきちゃった。
じゃあ次は、いつもしてくれるみたいに耳を撫でてみようか。それとも首にキスしちゃおうかな?
まだ成してもいないのに、笑みが勝手にこぼれてしまう。それも、この時までだった。更に一歩前進した企みを思い浮かべながら、ほくそ笑んでいられたのも。
「どわっ」
前触れもなく俺の身体を襲ったのは、身に覚えのあり過ぎる浮遊感。広いベッドが悲鳴を上げたかと思えば、ひんやりとした肌心地のいいシーツが手に触れていた。
「え……」
ブレていた視界が戻ったのも、眩いシャンデリアと高い天井と一緒に俺を見下ろす彼が映ったのもつかの間。柔らかな笑みの形で開いた唇から、真っ赤な舌と鋭く白い牙が覗く。狙いすましたように首元へと迫ってくる。
声を上げる間もなかった。肩を掴まれベッドへと押し倒されていた俺には、甘んじて受け入れるしかすべはなかった。
「ひゃっ、わっ、バア、ル……」
食いつかれるような勢いは、俺の首元へとつく寸前で大失速。当たり前だがスプラッターな音など聞こえてくる訳もなく、柔らかな唇が立てる可愛らしい音だけがちゅっちゅと鳴っている。
肌に触れてくる、しっとりと柔い感触には胸が高鳴る。けれども擽ったい。絶妙に産毛を掠めるように、繰り返し触れてくるからだろう。どうやら、これが彼なりのお返しらしい。やり過ぎだったかな。
「あっ、うひゃっ、ご、ごめんなさ……ははっ、ごめんってば……」
首元へと埋めている頭を撫でてみても、もうギブアップだと頼もしい背をぽんぽんと叩いてみても、許してはくれないみたい。それどころか、今度はふわふわなお髭まで参戦してしまった。擦り寄ってくれるのは嬉しいんだけどさ。
許してもらえたのは、目の前が滲んできて、震える腹筋が痛くなってきた頃。ひぃひぃと笑い転げている俺の頬に口づけてから、バアルさんが離れていく。
膝立ちで、俺の腰を跨いで見下ろす彼の頬は桜色に染まっていた。金属のような光沢をもつ触角が片方だけ下がっている。ブツブツと呟く声は、少し拗ねているようにも聞こえた。
「貴方様がいけないのです……可愛らしいことばかり、なさるから……あまり煽らないで頂きたいと、幾度となくこの老骨めはお頼み申し上げておりますのに……」
それはこっちのセリフなんだけど。いっつも俺を喜ばせることばっかりしてくれちゃうくせに。
まだ先程の高揚感が燻っていたんだろうか。今日の俺はアグレッシブらしい。うっかり口から出ることはなかったが、手は伸ばしていた。腹筋に力を込めて上体を起こし、身体を痛めてしまいそうな体勢になるのも構わずに、彼の首に腕を絡めていた。
「アオイ……っ」
慌てた様子でバアルさんが俺の背を支えてくれる。どうやって体勢を整えてくれたのかは分からない。けれども、気がつけば俺は彼の腕の中にいた。横抱きの形で抱き抱えられていた。
これは都合がいい。ここぞとばかりに頬へとやり返したけれども、俺の好きにはさせてくれないらしい。すぐさま彼も俺の首を食んできた。そっちがその気なら、と今度は額に口を押しつけてみる。
いつぞやの撫で合い合戦を思い出すような、意味はないのだけれども譲れない攻防の果て。俺達は息を乱しながら、ベッドの上で寄り添い合うように転がっていた。またしても、笑い疲れてしまっていた。
「は、ははっ……はぁ……ねぇ、バアル……やっぱり、俺、お水も欲しい……」
「私も……そう提案しようかと、存じておりました……」
さり気なく俺を抱き寄せてくれながら、バアルさんが気怠そうに腕を持ち上げる。招くように指先を動かすと、なにもない宙に突然ティーセットとレモンが浮かんだピッチャー、ペアのグラスが現れた。
勝手に動くピッチャーが二つのグラスにレモン水を注ぎ、白い陶器のティーポットも続く。花柄のペアカップを鮮やかな赤で満たしていく。花のような甘い香りが寝室に漂い始めた。
ただただ俺を見つめるだけな、無防備な彼へと手を伸ばす。白い頬を包み込むように両の手を添えてから、薄く開いた唇に口を押しつけてやった。
ついでに彼がしてくれるように、軽く食んでやった。リップ音を鳴らすのも忘れない。今日は鈍い音じゃなくて、それっぽい音を鳴らすことが出来た。
「ん……あれ、どうしたの? 俺のカッコいいバアル」
珍しいな、まだ状況を把握出来ていないみたい。きょとんとした顔で、まじまじと俺を見つめている。レアな彼を前にしているからだろう。ただただ達成感に満ちていた胸の内に、悪戯心がひょこりと顔を出してきてしまう。
何だかチャンスっぽいし……もうちょっと、押してみちゃう? 上手く出来れば、もっと俺にドキドキしてくれるかも。
すっかり調子に乗ってしまった俺は早速行動に移していた。
挨拶代わりに彼の滑らかな頬に口を押しつけてから、耳元に口を寄せた。トーンの低い彼の声を意識しながら、俺が思う精一杯のカッコいい声で囁いてみる。
「……バアル、大好きだよ」
すぐに聞こえた良いリアクション。息を飲むような音と、風を切るような羽の音。表情は見えないけれども感じた確かな手応えに、ますます高揚感が高くなっていく。何だか楽しくなってきちゃった。
じゃあ次は、いつもしてくれるみたいに耳を撫でてみようか。それとも首にキスしちゃおうかな?
まだ成してもいないのに、笑みが勝手にこぼれてしまう。それも、この時までだった。更に一歩前進した企みを思い浮かべながら、ほくそ笑んでいられたのも。
「どわっ」
前触れもなく俺の身体を襲ったのは、身に覚えのあり過ぎる浮遊感。広いベッドが悲鳴を上げたかと思えば、ひんやりとした肌心地のいいシーツが手に触れていた。
「え……」
ブレていた視界が戻ったのも、眩いシャンデリアと高い天井と一緒に俺を見下ろす彼が映ったのもつかの間。柔らかな笑みの形で開いた唇から、真っ赤な舌と鋭く白い牙が覗く。狙いすましたように首元へと迫ってくる。
声を上げる間もなかった。肩を掴まれベッドへと押し倒されていた俺には、甘んじて受け入れるしかすべはなかった。
「ひゃっ、わっ、バア、ル……」
食いつかれるような勢いは、俺の首元へとつく寸前で大失速。当たり前だがスプラッターな音など聞こえてくる訳もなく、柔らかな唇が立てる可愛らしい音だけがちゅっちゅと鳴っている。
肌に触れてくる、しっとりと柔い感触には胸が高鳴る。けれども擽ったい。絶妙に産毛を掠めるように、繰り返し触れてくるからだろう。どうやら、これが彼なりのお返しらしい。やり過ぎだったかな。
「あっ、うひゃっ、ご、ごめんなさ……ははっ、ごめんってば……」
首元へと埋めている頭を撫でてみても、もうギブアップだと頼もしい背をぽんぽんと叩いてみても、許してはくれないみたい。それどころか、今度はふわふわなお髭まで参戦してしまった。擦り寄ってくれるのは嬉しいんだけどさ。
許してもらえたのは、目の前が滲んできて、震える腹筋が痛くなってきた頃。ひぃひぃと笑い転げている俺の頬に口づけてから、バアルさんが離れていく。
膝立ちで、俺の腰を跨いで見下ろす彼の頬は桜色に染まっていた。金属のような光沢をもつ触角が片方だけ下がっている。ブツブツと呟く声は、少し拗ねているようにも聞こえた。
「貴方様がいけないのです……可愛らしいことばかり、なさるから……あまり煽らないで頂きたいと、幾度となくこの老骨めはお頼み申し上げておりますのに……」
それはこっちのセリフなんだけど。いっつも俺を喜ばせることばっかりしてくれちゃうくせに。
まだ先程の高揚感が燻っていたんだろうか。今日の俺はアグレッシブらしい。うっかり口から出ることはなかったが、手は伸ばしていた。腹筋に力を込めて上体を起こし、身体を痛めてしまいそうな体勢になるのも構わずに、彼の首に腕を絡めていた。
「アオイ……っ」
慌てた様子でバアルさんが俺の背を支えてくれる。どうやって体勢を整えてくれたのかは分からない。けれども、気がつけば俺は彼の腕の中にいた。横抱きの形で抱き抱えられていた。
これは都合がいい。ここぞとばかりに頬へとやり返したけれども、俺の好きにはさせてくれないらしい。すぐさま彼も俺の首を食んできた。そっちがその気なら、と今度は額に口を押しつけてみる。
いつぞやの撫で合い合戦を思い出すような、意味はないのだけれども譲れない攻防の果て。俺達は息を乱しながら、ベッドの上で寄り添い合うように転がっていた。またしても、笑い疲れてしまっていた。
「は、ははっ……はぁ……ねぇ、バアル……やっぱり、俺、お水も欲しい……」
「私も……そう提案しようかと、存じておりました……」
さり気なく俺を抱き寄せてくれながら、バアルさんが気怠そうに腕を持ち上げる。招くように指先を動かすと、なにもない宙に突然ティーセットとレモンが浮かんだピッチャー、ペアのグラスが現れた。
勝手に動くピッチャーが二つのグラスにレモン水を注ぎ、白い陶器のティーポットも続く。花柄のペアカップを鮮やかな赤で満たしていく。花のような甘い香りが寝室に漂い始めた。
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