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【新婚旅行編】七日目:なんか、苦手なだけだから……だから、もっと、くっついても……いいよね?
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彫りの深い顔を包み込むように両手を添えると、彼の方から近づいてきてくれた。背を屈めて額をくっつけ、擦り寄せて甘えてくれる。
「バアル……」
高い鼻を俺の鼻にちょこんとくっつけてくれてから、バアルさんは顔を離した。遠退いてしまったハーブの匂いと大好きな温もりが名残惜しい。
もうちょっと……あと、ちょっとだけ……
我儘な気持ちに唆されるように、俺は彼の胸元に抱きついてしまっていた。バアルさんは少しだけ驚いたように長い睫毛を瞬かせて、けれどもすぐに微笑んでくれる。俺の背を抱き締めてくれる。
「ね、もうちょっと、このままで居てもいい? 演出だって分かってても、やっぱり、ちょっとだけ怖くてさ……」
他のお客さん達の座席とすでに離れているのをいいことに、俺は強請ってしまっていた。
でも、嘘は言っていない。事実、時々俺の方へと手を伸ばそうとしてくる影が今にも俺の腕や顔を掴んできそうで、ドロリと濁った暗闇へと引きずり込もうとしているようでちょっぴり怖いのだ。
ああ、ほら、飛ばないと思っていたら、大きな虫やカラスが急にこちらへと飛んできた時みたいな? そういう、びっくりドッキリ感に定期的に襲われてしまっている。だから、バアルっていう癒やしが必要なんだ。必要だろう?
俺が、心の中の俺自身に対して言い訳をする。そんな訳の分からないことをやってしまっていると、くすくすと押し殺して笑う声によって現実へと引き戻された。俺を見つめているバアルさんの眼差しは、いつも以上に優しげだ。
何やら誤解をされてしまっていそうだ。それも、男としての沽券に関わるような。流石にこれは弁明させてもらわないと。バアルさんが思ってくれている、彼の心の中にいるカッコいい俺の像が残念なことになってしまう。
「ホントに、ちょっとだけなんだよ? ちょっぴり怖いだけなんだからね?」
言い訳にしか聞こえない言い分を主張してしまっていると、宥めるような手つきで頭を撫でられた。
しなやかな指で髪を梳くように撫でられると心地がいい。さっきまで必死にこだわっていたことが、優しい指の動きに解されて蕩けていってしまう。どうでもよくなってしまいそう。このまま浸っていたいけれども、誤魔化されてしまう訳には。
「ふふ、分かっておりますとも。確かに此方の影は、何とも言い難い香りと音楽も相まって、より不気味に見えております故。苦手意識を持たれてしまうのは致し方がないかと」
「そうそうっ、それそれっ」
彼が代わりに言語化してくれた、スゴく納得のいく弁明に俺は嬉々として飛びついていた。
「……なんか、苦手なだけだから……だから、もっと、くっついても……いいよね?」
「ええ、構いませんよ。大歓迎でございます」
「へへ……ありがとう、バアル」
「いえ」
嬉しくて、思わず口元がふにゃりと綻んでしまう。そんな俺を見て、またバアルさんが擽ったそうに笑う。緩やかに上がった口角と一緒に楽しそうに笑っている渋いお髭を、俺は見て見ぬフリをした。
広い背中に腕を回して、逞しい胸板に顔を埋めた。ふわりと香ってきたハーブの匂い。彼が淹れてくれる紅茶の香りも好きだけれども、やっぱりこの香りが一番落ち着く。大好きだ。
「アオイ」
「……ん? なぁに、バアル?」
日だまりのように温かい彼の体温を抱き締めながら尋ねれば、また頭を撫でてもらえた。大きな手のひらに擦り寄ろうとして、思いがけない言葉を頂いてしまう。
「アオイは、私の愛しい妻は、いつもお可愛らしくカッコいいですよ」
「っ……あ、ありがと」
「いえ」
それだけ伝えて満足したのか、バアルさんは俺を甘やかしてくれることに専念し始めた。温かい手のひらが、ゆるゆると頭や背中を撫でてくれる。
俺は顔を上げられなくなってしまっていた。別に、彼はこんな俺でも可愛いと、カッコいいと微笑んでくれるのだろう。でも、せめてこの湯気が出ていそうな熱が収まるまでは。ふにゃふにゃになってしまった表情筋が戻るまでは、このまま。
「バアル……」
高い鼻を俺の鼻にちょこんとくっつけてくれてから、バアルさんは顔を離した。遠退いてしまったハーブの匂いと大好きな温もりが名残惜しい。
もうちょっと……あと、ちょっとだけ……
我儘な気持ちに唆されるように、俺は彼の胸元に抱きついてしまっていた。バアルさんは少しだけ驚いたように長い睫毛を瞬かせて、けれどもすぐに微笑んでくれる。俺の背を抱き締めてくれる。
「ね、もうちょっと、このままで居てもいい? 演出だって分かってても、やっぱり、ちょっとだけ怖くてさ……」
他のお客さん達の座席とすでに離れているのをいいことに、俺は強請ってしまっていた。
でも、嘘は言っていない。事実、時々俺の方へと手を伸ばそうとしてくる影が今にも俺の腕や顔を掴んできそうで、ドロリと濁った暗闇へと引きずり込もうとしているようでちょっぴり怖いのだ。
ああ、ほら、飛ばないと思っていたら、大きな虫やカラスが急にこちらへと飛んできた時みたいな? そういう、びっくりドッキリ感に定期的に襲われてしまっている。だから、バアルっていう癒やしが必要なんだ。必要だろう?
俺が、心の中の俺自身に対して言い訳をする。そんな訳の分からないことをやってしまっていると、くすくすと押し殺して笑う声によって現実へと引き戻された。俺を見つめているバアルさんの眼差しは、いつも以上に優しげだ。
何やら誤解をされてしまっていそうだ。それも、男としての沽券に関わるような。流石にこれは弁明させてもらわないと。バアルさんが思ってくれている、彼の心の中にいるカッコいい俺の像が残念なことになってしまう。
「ホントに、ちょっとだけなんだよ? ちょっぴり怖いだけなんだからね?」
言い訳にしか聞こえない言い分を主張してしまっていると、宥めるような手つきで頭を撫でられた。
しなやかな指で髪を梳くように撫でられると心地がいい。さっきまで必死にこだわっていたことが、優しい指の動きに解されて蕩けていってしまう。どうでもよくなってしまいそう。このまま浸っていたいけれども、誤魔化されてしまう訳には。
「ふふ、分かっておりますとも。確かに此方の影は、何とも言い難い香りと音楽も相まって、より不気味に見えております故。苦手意識を持たれてしまうのは致し方がないかと」
「そうそうっ、それそれっ」
彼が代わりに言語化してくれた、スゴく納得のいく弁明に俺は嬉々として飛びついていた。
「……なんか、苦手なだけだから……だから、もっと、くっついても……いいよね?」
「ええ、構いませんよ。大歓迎でございます」
「へへ……ありがとう、バアル」
「いえ」
嬉しくて、思わず口元がふにゃりと綻んでしまう。そんな俺を見て、またバアルさんが擽ったそうに笑う。緩やかに上がった口角と一緒に楽しそうに笑っている渋いお髭を、俺は見て見ぬフリをした。
広い背中に腕を回して、逞しい胸板に顔を埋めた。ふわりと香ってきたハーブの匂い。彼が淹れてくれる紅茶の香りも好きだけれども、やっぱりこの香りが一番落ち着く。大好きだ。
「アオイ」
「……ん? なぁに、バアル?」
日だまりのように温かい彼の体温を抱き締めながら尋ねれば、また頭を撫でてもらえた。大きな手のひらに擦り寄ろうとして、思いがけない言葉を頂いてしまう。
「アオイは、私の愛しい妻は、いつもお可愛らしくカッコいいですよ」
「っ……あ、ありがと」
「いえ」
それだけ伝えて満足したのか、バアルさんは俺を甘やかしてくれることに専念し始めた。温かい手のひらが、ゆるゆると頭や背中を撫でてくれる。
俺は顔を上げられなくなってしまっていた。別に、彼はこんな俺でも可愛いと、カッコいいと微笑んでくれるのだろう。でも、せめてこの湯気が出ていそうな熱が収まるまでは。ふにゃふにゃになってしまった表情筋が戻るまでは、このまま。
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