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【新婚旅行編】七日目:小さくなったからこその
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驚きのあまり俺は空中でバランスを崩してしまったのだけれども、そんな事態も承知の上だったらしい。
まるで不思議な引力に引っ張られているよう。バランスを取ろうと慌てなくとも勝手に俺の身体は、ちゃんとした着地姿勢を取れていた。足に痺れるような衝撃をもらうことすらもなく、ただの一歩を踏み出しただけかのようにストンと元のテーブルの上へと着地出来ていた。
あまりの急展開の連続に状況が飲み込めず、そのまま呆然と突っ立ってしまっていると肩を優しく抱き寄せられた。はたと見上げた俺に、バアルさんが柔らかく微笑みかける。
「それから、このように万が一のフォローも。仮にどこからか落ちてしまっても怪我なく着地出来るよう、術が施されているようですね」
「知ってたんだね」
「はい、大変でした。手を出してしまいたい衝動を堪えるのに」
声色は平然としているものの、表情からはあからさまな不満が滲み出てしまっている。苦虫を噛みつぶしたように顔のシワを濃くし、唇を引き結んでいる。
よっぽど俺のことを空中で抱き止めたくて仕方がなかったらしい。可愛い。
「ふふ、ありがとう、我慢してくれて。やっぱり実際に体験してみないと分からないもんね」
ついつい撫でたくなってしまった衝動のままに手を伸ばせば、バアルさんはスラリと伸びた背筋を曲げて手のひらに頬を寄せてきてくれた。萎れかけた花のように縮んでいた彼の羽が、元気にぱたぱたとはためき出す。
すっかり気持ちが和んだところで改めて、周囲をぐるりと見回してみる。
いつの間にやらテーブルの上には、先程はなかった木製のカゴが。そこには、リンゴやバナナにブドウと、さまざまな果物が零れ落ちんばかりに盛られていた。いつもは、ひょいっと一口だろうに、今の俺達ならあのブドウひと粒だけでもお腹いっぱいになれてしまいそう。
「ふわぁ……今なら、ティーカップがお風呂代わりになりそうですね」
「ふふ、実際にそのような体験が出来るメニューもあるようですよ?」
「えっ」
バアルさんが手のひらで指し示した先にあったのは、いかにも目立つようにピカピカと光っている看板。ボードだけが宙に浮いているそれは、俺達の声に反応したのかふわふわと近づいてきた。
「紅茶のお風呂や、牛乳のお風呂は、いかがで、しょうか? 水着の貸し出しや、瞬間お着替え、瞬間洗浄の術サービスも行っており、ますよ」
「おお」
他にも、光って喋れる看板さんがオススメしてくれたのは、好きなケーキやプリン、フルーツなどをこのサイズで楽しめるという夢のようなサービス。こちらも着ている服が汚れてしまっても、術でキレイにしてくれるサービスが付いているようだ。
「へぇ……折角だからティーカップのお風呂、やってみたいなぁ」
バアルさんの顔を窺ってみれば、すぐ微笑んで頷いてくれた。
「へへ、ありがとう。バアルは紅茶と牛乳どっちがいい?」
「ふむ、欲張りにミルクティーという手もございますが?」
「あっ、いいね! ミルクティーでお願い出来ますか?」
「畏まり、ました」
ロボットのようにカタコトで話す看板さんが、ペコリと頭を、いや板を下げるとすぐに何処からともなくティーカップがテーブルの上に現れた。
ホカホカと立ち上り、香ってくる湯気は甘くていい匂い。お茶菓子が欲しくなってしまう。
「お風呂上がりのデザートも、先に注文しておきますか?」
「ふぇ、あ、はい……」
あっさりと見抜かれてしまったのは、何も食欲だけではなかったみたい。
「では、チョコレートケーキをお願い致します」
「へっ?」
「畏まり、ました。保冷の術をかけております、ので、ごゆっくり、お楽しみ下さい」
その後もトントンと。バアルさんは、着替えと洗浄に関しては問題ございませんので、と断って、看板さんは、御用の際にはお呼び下さい、とピカピカ眩しい姿を消した。
まるで不思議な引力に引っ張られているよう。バランスを取ろうと慌てなくとも勝手に俺の身体は、ちゃんとした着地姿勢を取れていた。足に痺れるような衝撃をもらうことすらもなく、ただの一歩を踏み出しただけかのようにストンと元のテーブルの上へと着地出来ていた。
あまりの急展開の連続に状況が飲み込めず、そのまま呆然と突っ立ってしまっていると肩を優しく抱き寄せられた。はたと見上げた俺に、バアルさんが柔らかく微笑みかける。
「それから、このように万が一のフォローも。仮にどこからか落ちてしまっても怪我なく着地出来るよう、術が施されているようですね」
「知ってたんだね」
「はい、大変でした。手を出してしまいたい衝動を堪えるのに」
声色は平然としているものの、表情からはあからさまな不満が滲み出てしまっている。苦虫を噛みつぶしたように顔のシワを濃くし、唇を引き結んでいる。
よっぽど俺のことを空中で抱き止めたくて仕方がなかったらしい。可愛い。
「ふふ、ありがとう、我慢してくれて。やっぱり実際に体験してみないと分からないもんね」
ついつい撫でたくなってしまった衝動のままに手を伸ばせば、バアルさんはスラリと伸びた背筋を曲げて手のひらに頬を寄せてきてくれた。萎れかけた花のように縮んでいた彼の羽が、元気にぱたぱたとはためき出す。
すっかり気持ちが和んだところで改めて、周囲をぐるりと見回してみる。
いつの間にやらテーブルの上には、先程はなかった木製のカゴが。そこには、リンゴやバナナにブドウと、さまざまな果物が零れ落ちんばかりに盛られていた。いつもは、ひょいっと一口だろうに、今の俺達ならあのブドウひと粒だけでもお腹いっぱいになれてしまいそう。
「ふわぁ……今なら、ティーカップがお風呂代わりになりそうですね」
「ふふ、実際にそのような体験が出来るメニューもあるようですよ?」
「えっ」
バアルさんが手のひらで指し示した先にあったのは、いかにも目立つようにピカピカと光っている看板。ボードだけが宙に浮いているそれは、俺達の声に反応したのかふわふわと近づいてきた。
「紅茶のお風呂や、牛乳のお風呂は、いかがで、しょうか? 水着の貸し出しや、瞬間お着替え、瞬間洗浄の術サービスも行っており、ますよ」
「おお」
他にも、光って喋れる看板さんがオススメしてくれたのは、好きなケーキやプリン、フルーツなどをこのサイズで楽しめるという夢のようなサービス。こちらも着ている服が汚れてしまっても、術でキレイにしてくれるサービスが付いているようだ。
「へぇ……折角だからティーカップのお風呂、やってみたいなぁ」
バアルさんの顔を窺ってみれば、すぐ微笑んで頷いてくれた。
「へへ、ありがとう。バアルは紅茶と牛乳どっちがいい?」
「ふむ、欲張りにミルクティーという手もございますが?」
「あっ、いいね! ミルクティーでお願い出来ますか?」
「畏まり、ました」
ロボットのようにカタコトで話す看板さんが、ペコリと頭を、いや板を下げるとすぐに何処からともなくティーカップがテーブルの上に現れた。
ホカホカと立ち上り、香ってくる湯気は甘くていい匂い。お茶菓子が欲しくなってしまう。
「お風呂上がりのデザートも、先に注文しておきますか?」
「ふぇ、あ、はい……」
あっさりと見抜かれてしまったのは、何も食欲だけではなかったみたい。
「では、チョコレートケーキをお願い致します」
「へっ?」
「畏まり、ました。保冷の術をかけております、ので、ごゆっくり、お楽しみ下さい」
その後もトントンと。バアルさんは、着替えと洗浄に関しては問題ございませんので、と断って、看板さんは、御用の際にはお呼び下さい、とピカピカ眩しい姿を消した。
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