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【新婚旅行編】七日目:唯一、この部屋に不自然なところがあるとすれば
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「っていうか、ヨミーン様達の立体映像でもホントに生きてるんじゃないってくらいに滅茶苦茶リアルだったじゃん。あのリアルさで、お化けとかゾンビとかに襲われでもしちゃったら俺……っ」
想像しただけで、身体が勝手に怖がっちゃって。
「大丈夫ですよ、アオイ」
凍えるような震えがあっさりと収まっていく。
目線を合わすように屈んでくれて、近くなれた優しい微笑みに胸が明るく高鳴っていく。
「バアル……ふわっ」
頬に添えられた温かい手のひらに手を重ねようとしたところで、見えている景色が少し高くなった。横抱きの形で彼に抱き抱えてもらえていた。
「万が一、そのような演出が起きてしまった場合は、終わるまでこうして私めが守って差し上げます」
安心させるみたいに微笑みかけてくれてから、バアルは俺の後頭部に手を添えた。ゆっくりと抱き寄せてもらえたからか、ホッとするハーブの匂いが強くなる。
柔らかくも弾力のある筋肉の感触が頬に触れた。視界には、逞しく厚い胸板しか映らない。こうしてもらえていれば、全然怖くなんてないだろう。びっくりもしないだろう。はしゃいでしまっている心音だけは、しっかり彼に伝わっちゃうけどさ。
「貴方様を怖がらせる全てがおしまいになられた際にはお声がけ致しますので、ご安心を。この老骨めが必ずや守り抜いてみせます故、どうか身を委ねていて下さい」
「うん……ありがとう、バアル。その時は、頼りにさせてもらうね」
「はいっ」
腕の力が緩んで、また柔らかな微笑みと会えた。今は大丈夫だよ、と伝えれば、バアルさんは金属のような光沢を帯びた触角を片方下げながら、名残惜しそうに俺を下ろしてくれた。踏み心地のいい絨毯の感触が、靴の裏からでも伝わってくる。
今度は俺の方から手を繋いだ。即座に手を握り返してもらえて、下がっていた触角が弾むようにぴょこんと元気を取り戻す。彼の背にある羽がはためく賑やかな音が、静かな室内に聞こえ始めた。
「でも、今のところは大丈夫そうっていうか、部屋の中自体も、普通っぽい……ですよね?」
「ええ」
改めてぐるりと見渡した室内は、どちらかといえば見慣れた、気品あふれる内装だった。
部屋を照らしている大きなシャンデリア、細かな装飾が施されているテーブル。アンティークっぽいそれを囲んでいるソファーも、見ただけで座り心地が良さそうだと分かるような上質な布地に覆われている。
横に長いチェストの上には花瓶が置かれている。真っ白な陶器で出来ており、開きかけのつぼみのような形をしたそれには、太陽と星をモチーフにしたであろう芸術的な模様が彫られていた。
美術館に飾られていそうなくらいに目を引く花瓶は、そのものだけでも十分に部屋を彩る調度品になりそうなのだけれども、活けられている青と白のバラがより華やかさを添えていた。
そんな、いかにも王族の方が住んでいらっしゃるような雰囲気にあふれているからだろう。こちらがヨミーン様やサターン様の自室です、と言われても納得しちゃう。
っていうか、実際絵になると思う。お二人でテーブルを囲みながら、紅茶やお茶菓子を楽しむ姿が今にも目に浮かぶ。
唯一、この部屋に不自然なところがあるとすれば、左の壁のほんとんどを覆っている大きくて広い鏡だろうか。
スポーツジムには必須な鏡の壁だけが、上品に統一された部屋の中で異彩を放っている。こういう部屋ならば、置いたとしても姿見や鏡台の方が似合いそうなもんだろうに。
異質な壁に、つい目を引かれていたからだろう。
「大きな鏡ですね」
「はい、何ていうか、不自然なくらい……あっ」
「いかがなさいましたか?」
「もしかして、鏡の中から何か出てきたりするんでしょうか? 例えば、俺達のそっくりさんとか」
想像しただけで、身体が勝手に怖がっちゃって。
「大丈夫ですよ、アオイ」
凍えるような震えがあっさりと収まっていく。
目線を合わすように屈んでくれて、近くなれた優しい微笑みに胸が明るく高鳴っていく。
「バアル……ふわっ」
頬に添えられた温かい手のひらに手を重ねようとしたところで、見えている景色が少し高くなった。横抱きの形で彼に抱き抱えてもらえていた。
「万が一、そのような演出が起きてしまった場合は、終わるまでこうして私めが守って差し上げます」
安心させるみたいに微笑みかけてくれてから、バアルは俺の後頭部に手を添えた。ゆっくりと抱き寄せてもらえたからか、ホッとするハーブの匂いが強くなる。
柔らかくも弾力のある筋肉の感触が頬に触れた。視界には、逞しく厚い胸板しか映らない。こうしてもらえていれば、全然怖くなんてないだろう。びっくりもしないだろう。はしゃいでしまっている心音だけは、しっかり彼に伝わっちゃうけどさ。
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「うん……ありがとう、バアル。その時は、頼りにさせてもらうね」
「はいっ」
腕の力が緩んで、また柔らかな微笑みと会えた。今は大丈夫だよ、と伝えれば、バアルさんは金属のような光沢を帯びた触角を片方下げながら、名残惜しそうに俺を下ろしてくれた。踏み心地のいい絨毯の感触が、靴の裏からでも伝わってくる。
今度は俺の方から手を繋いだ。即座に手を握り返してもらえて、下がっていた触角が弾むようにぴょこんと元気を取り戻す。彼の背にある羽がはためく賑やかな音が、静かな室内に聞こえ始めた。
「でも、今のところは大丈夫そうっていうか、部屋の中自体も、普通っぽい……ですよね?」
「ええ」
改めてぐるりと見渡した室内は、どちらかといえば見慣れた、気品あふれる内装だった。
部屋を照らしている大きなシャンデリア、細かな装飾が施されているテーブル。アンティークっぽいそれを囲んでいるソファーも、見ただけで座り心地が良さそうだと分かるような上質な布地に覆われている。
横に長いチェストの上には花瓶が置かれている。真っ白な陶器で出来ており、開きかけのつぼみのような形をしたそれには、太陽と星をモチーフにしたであろう芸術的な模様が彫られていた。
美術館に飾られていそうなくらいに目を引く花瓶は、そのものだけでも十分に部屋を彩る調度品になりそうなのだけれども、活けられている青と白のバラがより華やかさを添えていた。
そんな、いかにも王族の方が住んでいらっしゃるような雰囲気にあふれているからだろう。こちらがヨミーン様やサターン様の自室です、と言われても納得しちゃう。
っていうか、実際絵になると思う。お二人でテーブルを囲みながら、紅茶やお茶菓子を楽しむ姿が今にも目に浮かぶ。
唯一、この部屋に不自然なところがあるとすれば、左の壁のほんとんどを覆っている大きくて広い鏡だろうか。
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異質な壁に、つい目を引かれていたからだろう。
「大きな鏡ですね」
「はい、何ていうか、不自然なくらい……あっ」
「いかがなさいましたか?」
「もしかして、鏡の中から何か出てきたりするんでしょうか? 例えば、俺達のそっくりさんとか」
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