【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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【新婚旅行編】八日目:今日一日の中でも大勝利と言っていい成功体験

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 今日は、珍しいバアルでいっぱいだな。

 嬉しさのあまり、また彼の頭を撫で回してしまっていると、長い睫毛をぱちぱち瞬かせながらも擦り寄ってくれていた。調子に乗って頬も撫でようとしていたところで、突然飛び上がるように俺の上から離れていってしまった。

「申し訳、ございません……私としたことが、とんだ粗相を……」

 急展開にぽかんとしてしまっている俺を、長い腕が軽々と抱き上げてくれる。逞しい膝の上へと優しく乗せてくれる。

 かち合った瞳は心配そうに細められていて、リラックスしきっていた笑顔はすっかり曇ってしまっていた。大きな手が労わるように俺の胸元やお腹を撫で始める。

「大丈夫ですか? どこか痛いところはございませんか?」

 どうやら、ずっと俺にのしかかったまま眠っていたことを気にしているらしい。

「ふふ、大丈夫だよ。重くなかったし……むしろスゴく嬉しかったよ」

「左様で、ございますか……」

 まだバアルの眉間に刻まれたシワは深い。凛々しい眉も下がったまま、触角と羽も元気がないままだ。

「ねぇ、バアル……起きたばかりでお願いするのは」

「遠慮なさらず、何でもこの老骨めに仰って下さいっ」

 食い気味に乗ってくれた彼の羽が大きく広がり始める。先がくるりと反った触角も、金属のような光沢を取り戻しつつある。良かった、上手くいったみたい。

「ありがとう。ちょっと喉が乾いちゃって……お水と、バアルが淹れてくれる紅茶が飲みたいな」

「畏まりました」

 小さく頷く彼の表情には柔らかな微笑みが戻っていた。



 温かい紅茶を飲んだからかお腹の虫が騒ぎ始めてしまったので、俺は早めの夕食をバアルに提案した。バアルもお腹が空いていたみたいで、ルームサービスで注文したステーキは普段の彼が頼むグラム数よりも大きめだった。

 俺としては大満足なひと時を過ごせたのだけれども、まだ彼は俺の胸元で寝ていたのを申し訳なく思っていたらしい。今朝よりも張り切って食べさせてくれようとするもんだから、今回ばかりは俺も有り難く甘やかしてもらうことにした。

 ご飯を済ませた後、少しゆっくりしてから一緒にお風呂へ。そこでも、まだ俺を甘やかしたいというスイッチが入ってしまっていたが、お背中を流させてもらう権利だけはどうにか勝ち取ることが出来た。

 風呂上がりのルーティンも、彼の羽と触角のお手入れもいつも通り俺に任せてもらえた。

 すっかり俺は調子づいてしまっていた。バアルの珍しい姿を見れただけじゃない。いつも俺や周りの大切な人を優先してしまう彼が、自分のしたいことを優先してくれたのが嬉しかったのだ。

 だって、それだけ俺に甘えてくれたってことだろう?

 今日一日の中でも大勝利と言っていい成功体験は、俺を欲張りにしていた。もっと自分の好きにして欲しい。もっと見たことのない彼を見たいと思ってしまっていたんだ。

 早速俺は実行に移そうとした。ちびちびと楽しんでいたノンアルコールワインの最後の一口を飲み干してから、グラスを静かにテーブルへと置く。勇気を出して発した声は俺にしては低い声だった。

「ね、バアル……」

 騒がしい胸の高鳴りが、一気に駆け足になってしまった。呼んだ途端に深められた目尻のシワに喜びが滲んでいるように見えて。

「はい、アオイ、お代わりをおつぎ致しましょうか?」

 空になったグラスを音も立てずに置いてから、バアルはテーブルの真ん中にあるワインボトルに手を伸ばそうとする。

「ありがとう。でも、ワインはもういいかな……」

「左様でございましたか。では、いかがなさいましたか?」
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