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★【新婚旅行編】九日目:貴方様の目から、そのように見えているのでしたら何より
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いざ始める段になっても俺は勇気を出せないままで、そんな俺の心の準備が出来るのをバアルは気にせず待ってくれていた。
甘やかすように頭を頬を優しく撫でてくれながら、目と目が合えば目尻のシワを深くして額に慈しむようなキスをくれる。そうやって優しく気遣ってくれるのは嬉しいんだけれども。
「バアルはさ……いつも堂々としてるよね……」
「私が、ですか?」
「うん……どんな時でも冷静っていうか、余裕たっぷりっていうか……そういうところも好きだし……いつも頼りにしてるんだけどさ」
止まることがなかった手が止まってしまう。俺のせいなんだけれども。またしても俺が拗ねたようなことを言ってしまったから。
「ふふ……」
何がおかしいんだろうか。バアルが声を抑えて笑っている。それも渋いお髭を蓄えた口元まで手で覆ってしまって。
「余裕たっぷり、でございますか」
しなやかな指の合間から、僅かに見えた微笑みはどちらかといえば自嘲気味に見えて、何だか不思議な気分になってしまう。胸の辺りがそわそわするような。
「う、うん……俺には、そう見えてるけど……?」
大きな手を退けてから、見せてくれた微笑みはすでにいつもと変わらない穏やかなものになっていた。違いがあるとすればちょっとだけ、ほんのちょっとだけ満足そうに見えるくらいだろうか。
分厚い胸板に手を当てながら、バアルが薄く口を開く。
「貴方様の目から、そのように見えているのでしたら何より。私と致しましても安心致しました。まだ、愛しい妻の前で年上としての威厳を保てているようで」
柔らかな声は本当に安堵しているようで、今度は胸の辺りが擽ったくなってしまう。つい言わなくてもいいことまで口にしてしまっていた。
「何だよ、それ……まるで、俺の前ではいっつも余裕がないみたいな」
「ございませんよ?」
「え」
見つめてくる眼差しは冬の空のように澄んでいた。見惚れてしまっていると白い睫毛に縁取られた緑の瞳がゆるりと微笑んで、骨ばった男の手が俺の手を恭しく握ってくる。
「幾度となく自白しているではないですか。実際に示してみたこともあるでしょう? ……ほら」
包み込むように握ってもらえている手が、彼の胸板へと引き寄せられる。手のひらへと吸い付くような柔らかさに触れて、すぐに伝わってきた鼓動は俺のものかと勘違いしてしまいそうなくらいに早い。
「あ……」
「貴方様に焦がれていない時などないのだと……お教えしたではございませんか……」
「あ、ぅ……」
何も言えなくなってしまった。いや、言いたくても言葉が出てこない。浮かんでこない。胸の中がいっぱい過ぎて。
「ああ、誠に堪らない……お可愛らしいですよ、アオイ……」
緩やかに上がった口角が艶っぽい。整えられたお髭も一緒に笑っているような、危ういカッコよさが滲んでいる微笑みに目も心も釘付けになってしまう。
「ん、ふ……」
見惚れている内に口づけられていた。柔らかな唇から優しく優しく食まれる度に、自分の顔がどれだけ熱を持ってしまっていたのかを分からせられる。それでもまだまだ伸びしろがあるみたい。このまま交わしてもらっていたら、嬉しい熱さですぐにでものぼせてしまいそう。
いや、それよりも、もっとマズくなっちゃうことがあったんだった。
「ふぁ……だ、め……ダメだよ、バアル……見せてあげられなく、なっちゃ……」
甘やかすように頭を頬を優しく撫でてくれながら、目と目が合えば目尻のシワを深くして額に慈しむようなキスをくれる。そうやって優しく気遣ってくれるのは嬉しいんだけれども。
「バアルはさ……いつも堂々としてるよね……」
「私が、ですか?」
「うん……どんな時でも冷静っていうか、余裕たっぷりっていうか……そういうところも好きだし……いつも頼りにしてるんだけどさ」
止まることがなかった手が止まってしまう。俺のせいなんだけれども。またしても俺が拗ねたようなことを言ってしまったから。
「ふふ……」
何がおかしいんだろうか。バアルが声を抑えて笑っている。それも渋いお髭を蓄えた口元まで手で覆ってしまって。
「余裕たっぷり、でございますか」
しなやかな指の合間から、僅かに見えた微笑みはどちらかといえば自嘲気味に見えて、何だか不思議な気分になってしまう。胸の辺りがそわそわするような。
「う、うん……俺には、そう見えてるけど……?」
大きな手を退けてから、見せてくれた微笑みはすでにいつもと変わらない穏やかなものになっていた。違いがあるとすればちょっとだけ、ほんのちょっとだけ満足そうに見えるくらいだろうか。
分厚い胸板に手を当てながら、バアルが薄く口を開く。
「貴方様の目から、そのように見えているのでしたら何より。私と致しましても安心致しました。まだ、愛しい妻の前で年上としての威厳を保てているようで」
柔らかな声は本当に安堵しているようで、今度は胸の辺りが擽ったくなってしまう。つい言わなくてもいいことまで口にしてしまっていた。
「何だよ、それ……まるで、俺の前ではいっつも余裕がないみたいな」
「ございませんよ?」
「え」
見つめてくる眼差しは冬の空のように澄んでいた。見惚れてしまっていると白い睫毛に縁取られた緑の瞳がゆるりと微笑んで、骨ばった男の手が俺の手を恭しく握ってくる。
「幾度となく自白しているではないですか。実際に示してみたこともあるでしょう? ……ほら」
包み込むように握ってもらえている手が、彼の胸板へと引き寄せられる。手のひらへと吸い付くような柔らかさに触れて、すぐに伝わってきた鼓動は俺のものかと勘違いしてしまいそうなくらいに早い。
「あ……」
「貴方様に焦がれていない時などないのだと……お教えしたではございませんか……」
「あ、ぅ……」
何も言えなくなってしまった。いや、言いたくても言葉が出てこない。浮かんでこない。胸の中がいっぱい過ぎて。
「ああ、誠に堪らない……お可愛らしいですよ、アオイ……」
緩やかに上がった口角が艶っぽい。整えられたお髭も一緒に笑っているような、危ういカッコよさが滲んでいる微笑みに目も心も釘付けになってしまう。
「ん、ふ……」
見惚れている内に口づけられていた。柔らかな唇から優しく優しく食まれる度に、自分の顔がどれだけ熱を持ってしまっていたのかを分からせられる。それでもまだまだ伸びしろがあるみたい。このまま交わしてもらっていたら、嬉しい熱さですぐにでものぼせてしまいそう。
いや、それよりも、もっとマズくなっちゃうことがあったんだった。
「ふぁ……だ、め……ダメだよ、バアル……見せてあげられなく、なっちゃ……」
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