1,143 / 1,566
【新婚旅行編】十日目:やっぱり、バアルも寂しかったんだ
しおりを挟む
「バアルっ! ねぇ、バアルっ!」
寂しそうな眼差しが俺の方を向いてくれるまで何度も、何度も。
バアルはまだ俺達の方を向いてくれる気配がない。それどころか、俯くように頭を下げたまま目を閉じてしまった。
でも、コルテには。小さな彼は何かを感じ取ってくれたのだろうか。瞬く光が強くなっているような。
鏡に映るコルテがバアルの肩から飛び立った。バアルの高い鼻先にまで近づいて、忙しなく揺れるように飛んでいる。小さな彼が鳴らす音が、鈴のように高い音が俺達の方にまで聞こえてきた。
一方通行なんかじゃない。ちゃんと繋がっていて。
「バアルっ!!」
力の限り呼びかけた後だった。ガラス細工のように透き通った小さな羽をはためかせて先ずはコルテが、続くようにバアルが駆け寄って来てくれて。
「アオイ……?」
やっと俺を見てくれた。やっと目が合えた。冷たく硬い鏡越しだとしても、彼とまた。
「良かった……バアルも気付いてくれたんだね。ありがとうコルテ、バアルを呼んでくれて」
最初こそバアルは驚いていたというか、冷静さをなくしているようだった。鏡の中の俺へと手を伸ばそうとまでしてくれるくらいには。
でも、すぐに元通り。鏡越しに手と手を合わせてお互いの状況を確認している間に、穏やかな笑顔に戻っていた。やっぱり、バアルも寂しかったんだ。少しでも早く、俺がぎゅってしてあげないと。
「……星の彫像か。ねぇ、バアルさん、俺達の方には無いよね?」
「ええ」
顔だけ振り向けば、バアルさんは小さく頷いた。そのしなやかな指先で俺の真正面にある壁を、扉の上を指し示した。
「そちらの壁と同じ方向であろう壁には、この通り何もございません。それから他の壁にも、それらしい彫像は此方の部屋には見当たりません。ですが」
「何か気になるものでも見つかった?」
「はい、此方を」
手のひらを上にして彼が指し示したのは壁の半分より下に描かれている模様。今までも散々見てきた、見慣れてしまったこちらの遺跡特有のものだった。ということは、もしかして。
「また、何か文字が隠されてるってパターン? 台座の時みたいに?」
「ええ、恐らくは。あちらの私とコルテの証言を聞いた限りでは、あちらの部屋の壁には模様は描かれてはいないようでございます故」
鏡に映っているバアルへと視線を戻せば、すぐに頷いてくれた。
「ええ、私とコルテが居る部屋の壁には何も」
引き離された俺とバアル、作りがそっくりの部屋、お互いの状況を教え合うことが出来る鏡。ああ、そうか。これもまたお馴染みな謎解きじゃあないか。
「よし、じゃあ壁の模様を調べてみよう。一番怪しいのは、やっぱり彫像が有ったっていう壁の方かな?」
「では、先ずは扉の両サイドに刻まれた模様を調べてみましょうか」
「バアル、コルテ、ちょっと待っててね」
「……ええ」
バアルは変わらずに緩やかな笑みを浮かべていた。でも、俺には。
「大丈夫、すぐに戻ってくるからね」
鏡に触れているバアルの手にもう一度だけ手を重ねてから、俺はバアルさんと部屋の奥へと向かった。鏡には映らない位置だから、早く戻ってあげないと。
「俺は右側を調べるから、バアルさんは」
「畏まりました。慎重に、ですがなるべく早く探しましょう」
「うん、お願い」
大きな扉が壁の三分の一を占めているとはいえ、模様が刻まれている範囲はそこそこ広い。でも、台座と同じ感じなら。
「あっ……」
一度同じ謎解きを経験したからだろう。あまり時間をかけずに俺は模様に紛れたこちらの文字らしきものを見つけることが出来た。
寂しそうな眼差しが俺の方を向いてくれるまで何度も、何度も。
バアルはまだ俺達の方を向いてくれる気配がない。それどころか、俯くように頭を下げたまま目を閉じてしまった。
でも、コルテには。小さな彼は何かを感じ取ってくれたのだろうか。瞬く光が強くなっているような。
鏡に映るコルテがバアルの肩から飛び立った。バアルの高い鼻先にまで近づいて、忙しなく揺れるように飛んでいる。小さな彼が鳴らす音が、鈴のように高い音が俺達の方にまで聞こえてきた。
一方通行なんかじゃない。ちゃんと繋がっていて。
「バアルっ!!」
力の限り呼びかけた後だった。ガラス細工のように透き通った小さな羽をはためかせて先ずはコルテが、続くようにバアルが駆け寄って来てくれて。
「アオイ……?」
やっと俺を見てくれた。やっと目が合えた。冷たく硬い鏡越しだとしても、彼とまた。
「良かった……バアルも気付いてくれたんだね。ありがとうコルテ、バアルを呼んでくれて」
最初こそバアルは驚いていたというか、冷静さをなくしているようだった。鏡の中の俺へと手を伸ばそうとまでしてくれるくらいには。
でも、すぐに元通り。鏡越しに手と手を合わせてお互いの状況を確認している間に、穏やかな笑顔に戻っていた。やっぱり、バアルも寂しかったんだ。少しでも早く、俺がぎゅってしてあげないと。
「……星の彫像か。ねぇ、バアルさん、俺達の方には無いよね?」
「ええ」
顔だけ振り向けば、バアルさんは小さく頷いた。そのしなやかな指先で俺の真正面にある壁を、扉の上を指し示した。
「そちらの壁と同じ方向であろう壁には、この通り何もございません。それから他の壁にも、それらしい彫像は此方の部屋には見当たりません。ですが」
「何か気になるものでも見つかった?」
「はい、此方を」
手のひらを上にして彼が指し示したのは壁の半分より下に描かれている模様。今までも散々見てきた、見慣れてしまったこちらの遺跡特有のものだった。ということは、もしかして。
「また、何か文字が隠されてるってパターン? 台座の時みたいに?」
「ええ、恐らくは。あちらの私とコルテの証言を聞いた限りでは、あちらの部屋の壁には模様は描かれてはいないようでございます故」
鏡に映っているバアルへと視線を戻せば、すぐに頷いてくれた。
「ええ、私とコルテが居る部屋の壁には何も」
引き離された俺とバアル、作りがそっくりの部屋、お互いの状況を教え合うことが出来る鏡。ああ、そうか。これもまたお馴染みな謎解きじゃあないか。
「よし、じゃあ壁の模様を調べてみよう。一番怪しいのは、やっぱり彫像が有ったっていう壁の方かな?」
「では、先ずは扉の両サイドに刻まれた模様を調べてみましょうか」
「バアル、コルテ、ちょっと待っててね」
「……ええ」
バアルは変わらずに緩やかな笑みを浮かべていた。でも、俺には。
「大丈夫、すぐに戻ってくるからね」
鏡に触れているバアルの手にもう一度だけ手を重ねてから、俺はバアルさんと部屋の奥へと向かった。鏡には映らない位置だから、早く戻ってあげないと。
「俺は右側を調べるから、バアルさんは」
「畏まりました。慎重に、ですがなるべく早く探しましょう」
「うん、お願い」
大きな扉が壁の三分の一を占めているとはいえ、模様が刻まれている範囲はそこそこ広い。でも、台座と同じ感じなら。
「あっ……」
一度同じ謎解きを経験したからだろう。あまり時間をかけずに俺は模様に紛れたこちらの文字らしきものを見つけることが出来た。
9
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりました。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います
黄金
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻!
だったら離婚したい!
ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。
お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。
本編61話まで
番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。
※細目キャラが好きなので書いてます。
多くの方に読んでいただき嬉しいです。
コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる