1,151 / 1,566
【新婚旅行編】十日目:寝室イコール
しおりを挟む
胸の内をそっと摘まれたような心地がする。口元がだらしなく緩んでしまう。きっと、今俺はでれっとした顔をしてしまっているに違いない。
良かった、バアルが抱きついてくれている時で。こんな顔すらも、きっとバアルなら、アオイは可愛いですね、って褒めてくれるんだろうけど。
彫りの深い顔に喜びを滲ませて、柔らかく微笑むバアルを思い浮かべたら、また笑みがこぼれてしまっていた。
浸ってしまっていると抱きついてくれている腕の力が強くなった。タンポポの綿毛のような感触が頬にちょこんっと触れてきた。
バアルの触角の先だった。ずっと俺を避けてくれていた二本の内の一本が、何かを訴えっているように触れてくる。遠慮がちなその動きは、構って欲しくてちょっかいを出しているようにしか。
もしかして……こんな時まで、分かっちゃったんだろうか。俺が何か考えごとをしているって。
試しに頭を撫でてみた。頭頂部から首筋の方へと、手のひら全体を使って優しく。ゆったりとひと撫でしただけでも、感情豊かな彼の触角と羽は分かりやすく喜びを示してくれる。
触角は頭の上でご機嫌そうにゆらゆらと、水晶のように透き通った羽はぱたぱたと。求めていたのは、これなんだとばかりにご機嫌そう。
じゃあ、今度はと柔らかな髪へと指を通してみる。場所を変えながら梳くように撫でていく。
光りに照らされると銀の糸のように煌めいて見える白い髪。艷やかな髪が指と指との間をスルリと通っていく度にも、ゆらゆら、ぱたぱた。こちらも気に入ってくれているのだと、触角と羽が教えてくれた。
「ふふ……可愛いね、バアル……でも……どうしたの? いっぱい甘えてくれるのは、嬉しいんだけどさ」
思わず尋ねてしまった後で気がついた。もしかしたら、言い辛いんじゃないかなって。
慌ててしまうと、いやそうでなくとも、思っていたことをそのまま口にしてしまうという悪癖が今日も遺憾無く発揮されてしまっていた。
「あ……えーっと……言い辛いんだったら……じゃなくてっ……ソファーっ、ソファーに行こうか? 座った方が、バアルものんびり甘えやすいだろうし、俺も撫でやす」
「……では、寝室へとお連れしても?」
「ふぇ」
自然と上目遣いになってしまっている眼差しに、ぽつりと発した単語に心臓がはしゃぐように飛び跳ねる。しゃべっている途中だった口から間の抜けた声が出てしまっていた。
……寝室。いっそのんびりするなら、その選択肢はアリだろう。眠くなったら眠れるし。もしバアルがソファーで微睡んでしまったら、俺ではまだ彼を運ぶことは出来ないし。
コルテに手伝ってもらえば大丈夫そうだけど。そんな理性的な考えが浮かんでいる間にも、厄介な期待がひょこりと顔を出してきてしまう。火照るように全身が熱くなって、ますます心音が煩く高鳴ってしまう。
それもこれも、この旅行中にとびきり甘やかな時間を何度も寝室で過ごさせてもらっているからだ。
おまけに旅行前は、結婚式を改めてやり直す前は、俺の体調が良くなるまでお互いに我慢をしていたってのもあるんだろう。余計に盛り上がってしまっているというか。一日中……なんてこともあった訳で。
だから頭の中で勝手に繋ぎ合わせてしまう。寝室イコールそういうことをするのでは、と。
いやいや、でも別に今までだって、そういうことばっかりしていた訳じゃないし? 今みたくバアルを撫でたり、撫でさせてもらったり……
「アオイ」
「ひゃいっ」
「ベッドで、愛しい妻に甘えさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「あ……ぅ、うん……宜しい、です……」
意味深に一つの単語だけを強調しながら、低い声に尋ねられただけで背筋に淡い感覚が走ってしまった。顔の中心が熱くなった。
良かった、バアルが抱きついてくれている時で。こんな顔すらも、きっとバアルなら、アオイは可愛いですね、って褒めてくれるんだろうけど。
彫りの深い顔に喜びを滲ませて、柔らかく微笑むバアルを思い浮かべたら、また笑みがこぼれてしまっていた。
浸ってしまっていると抱きついてくれている腕の力が強くなった。タンポポの綿毛のような感触が頬にちょこんっと触れてきた。
バアルの触角の先だった。ずっと俺を避けてくれていた二本の内の一本が、何かを訴えっているように触れてくる。遠慮がちなその動きは、構って欲しくてちょっかいを出しているようにしか。
もしかして……こんな時まで、分かっちゃったんだろうか。俺が何か考えごとをしているって。
試しに頭を撫でてみた。頭頂部から首筋の方へと、手のひら全体を使って優しく。ゆったりとひと撫でしただけでも、感情豊かな彼の触角と羽は分かりやすく喜びを示してくれる。
触角は頭の上でご機嫌そうにゆらゆらと、水晶のように透き通った羽はぱたぱたと。求めていたのは、これなんだとばかりにご機嫌そう。
じゃあ、今度はと柔らかな髪へと指を通してみる。場所を変えながら梳くように撫でていく。
光りに照らされると銀の糸のように煌めいて見える白い髪。艷やかな髪が指と指との間をスルリと通っていく度にも、ゆらゆら、ぱたぱた。こちらも気に入ってくれているのだと、触角と羽が教えてくれた。
「ふふ……可愛いね、バアル……でも……どうしたの? いっぱい甘えてくれるのは、嬉しいんだけどさ」
思わず尋ねてしまった後で気がついた。もしかしたら、言い辛いんじゃないかなって。
慌ててしまうと、いやそうでなくとも、思っていたことをそのまま口にしてしまうという悪癖が今日も遺憾無く発揮されてしまっていた。
「あ……えーっと……言い辛いんだったら……じゃなくてっ……ソファーっ、ソファーに行こうか? 座った方が、バアルものんびり甘えやすいだろうし、俺も撫でやす」
「……では、寝室へとお連れしても?」
「ふぇ」
自然と上目遣いになってしまっている眼差しに、ぽつりと発した単語に心臓がはしゃぐように飛び跳ねる。しゃべっている途中だった口から間の抜けた声が出てしまっていた。
……寝室。いっそのんびりするなら、その選択肢はアリだろう。眠くなったら眠れるし。もしバアルがソファーで微睡んでしまったら、俺ではまだ彼を運ぶことは出来ないし。
コルテに手伝ってもらえば大丈夫そうだけど。そんな理性的な考えが浮かんでいる間にも、厄介な期待がひょこりと顔を出してきてしまう。火照るように全身が熱くなって、ますます心音が煩く高鳴ってしまう。
それもこれも、この旅行中にとびきり甘やかな時間を何度も寝室で過ごさせてもらっているからだ。
おまけに旅行前は、結婚式を改めてやり直す前は、俺の体調が良くなるまでお互いに我慢をしていたってのもあるんだろう。余計に盛り上がってしまっているというか。一日中……なんてこともあった訳で。
だから頭の中で勝手に繋ぎ合わせてしまう。寝室イコールそういうことをするのでは、と。
いやいや、でも別に今までだって、そういうことばっかりしていた訳じゃないし? 今みたくバアルを撫でたり、撫でさせてもらったり……
「アオイ」
「ひゃいっ」
「ベッドで、愛しい妻に甘えさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「あ……ぅ、うん……宜しい、です……」
意味深に一つの単語だけを強調しながら、低い声に尋ねられただけで背筋に淡い感覚が走ってしまった。顔の中心が熱くなった。
9
あなたにおすすめの小説
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
紳士オークの保護的な溺愛
こむぎこ7g
BL
■ 世界と舞台の概要
ここはオークの国「トールキン」。
魔法、冒険者、ギルド、ダンジョン、獣人やドラゴンが存在する、いわゆる“典型的な異世界”だが、この国の特徴はオークが長命で、理知的な文明社会を築いていることにある。
トールキンのオークたちは、
灰色がかった緑や青の肌
鋭く澄んだ眼差し
鍛え上げられた筋骨隆々の体躯
を持ち、外見こそ威圧的だが、礼節と合理性を重んじる国民性をしている。
異世界から来る存在は非常に珍しい。
しかしオークは千年を生きる種族ゆえ、**長い歴史の中で「時折起こる出来事」**として、記録にも記憶にも残されてきた。
⸻
■ ガスパールというオーク
ガスパールは、この国でも名の知れた貴族家系の三男として生まれた。
薄く灰を帯びた緑の肌、
赤い虹彩に金色の瞳孔という、どこか神話的な目。
分厚い肩と胸板、鍛え抜かれた腹筋は鎧に覆われずとも堅牢で、
銀色に輝く胸当てと腰当てには、代々受け継がれてきた宝石が嵌め込まれている。
ざらついた低音の声だが、語調は穏やかで、
貴族らしい品と、年齢を重ねた余裕がにじむ話し方をする。
● 彼の性格
• 極めて面倒見がよく、観察力が高い
• 感情を声高に表に出さないが、内側は情に厚い
• 責任を引き受けることを当然のように思っている
• 自分が誰かに寄りかかることだけは、少し苦手
どこか「自分は脇役でいい」と思っている節があり、それが彼の誠実さと同時に、不器用さでもあった。
⸻
■ 過去と喪失 ――愛したオーク
ガスパールはかつて、平民出身のオーク男性と結ばれていた。
家柄も立場も違う相手だったが、
彼はその伴侶の、
不器用な優しさ
朝食を焦がしてしまうところ
眠る前に必ず手を探してくる癖
を、何よりも大切にしていた。
しかし、その伴侶はすでにこの世を去っている。
現在ガスパールが暮らしているのは、
貴族街から少し離れた、二階建ての小さな屋敷。
華美ではないが、掃除が行き届き、静かな温もりのある家だ。
彼は今も毎日のように墓参りを欠かさない。
それは悲嘆というより、対話に近い行為だった。
⸻
■ 現在の生活
ガスパールは現在、
街の流通を取り仕切る代表的な役職に就いている。
多忙な職務の合間にも、
洗濯、掃除、料理
帳簿の整理
屋敷の修繕
をすべて自分でこなす。
仕事、家事、墓参り。
規則正しく、静かな日々。
――あなたが現れるまでは。
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました!
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
【完結】王子様たちに狙われています。本気出せばいつでも美しくなれるらしいですが、どうでもいいじゃないですか。
竜鳴躍
BL
同性でも子を成せるようになった世界。ソルト=ペッパーは公爵家の3男で、王宮務めの文官だ。他の兄弟はそれなりに高級官吏になっているが、ソルトは昔からこまごまとした仕事が好きで、下級貴族に混じって働いている。机で物を書いたり、何かを作ったり、仕事や趣味に没頭するあまり、物心がついてからは身だしなみもおざなりになった。だが、本当はソルトはものすごく美しかったのだ。
自分に無頓着な美人と彼に恋する王子と騎士の話。
番外編はおまけです。
特に番外編2はある意味蛇足です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる