【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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【新婚旅行編】十日目:今までになかった衝動

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 鉄板の上で香ばしい香りと素敵な音を立てているハンバーグへとナイフが何の抵抗もなく、スッと入れられていく。食べやすいよう小さめの一口で、かつデミグラスをたっぷり纏わせてから俺の口元へと差し出された。

「では、どうぞ、アオイ。お熱いので気を付けて下さいね」

「うんっ、ありがとう、バアル」

 軽くふーっ、ふーっとしてから恐る恐る。フォークに刺さった一口サイズのハンバーグを口にすれば、すぐさまコクのあるデミグラスが口の中を喜ばせてくれた。

 まだまだ熱々なハンバーグをそっと噛めば、溶けてしまうようにホロホロとお肉が解れていってしまう。肉の旨味が広がっていく。

 ……染み渡る。そんなお味と美味しさだ。

「あー……美味しい……」

「それは何より」

 思っていた以上にお腹が空いていたらしい。交互のお約束なのにもうお代わりが、次の一口が欲しくなってしまっていた。

 俺のことを俺よりも分かってくれているバアルは予測済みだったよう。すぐさま二口目を差し出してくれていた。それはもう、心得ておりましたよ、とばかりの満面の笑みで。

「う……ズルい……」

 素直でない言葉を言いながらも欲求には抗えない。しっかりと開けてしまっている口に、そっとハンバーグが運ばれてくる。

「どうぞ……私めは、後でゆっくり頂きますので」

「んぅ……ありふぁと……おいひいよ」

「ふふ、いえいえ。では、お次はチキンに致しましょうか?」

「うん、お願い」

 そうしてご満悦そうなバアルによって、チキンにパンにサラダと、次々にあーんをしてもらってから、俺の腹が程よく満たされたところで選手交代。俺がナイフとフォークを手にした。

 もう、ほとんど半分になってしまっているチキンをカットしていく。

 鉄板のお陰だけでなく、保温の術がかけられているからだろう。皮がパリッと焼けているチキンは俺が食べた時と何ら変わらずに熱々だ。しっかりとバーベキューソースを絡ませてから、いっぱい待たせてしまっていたバアルに差し出す。

「はいっ、バアル、あーん」

「頂きます」

 律儀に会釈をしてから微笑んで、バアルがその形のいい唇を開く。大きめに切ってしまったチキンに合わせて豪快に開いてくれた口、見えてしまった白い牙。肉食獣を思わせる鋭く尖ったそれを、目が捉えてしまった途端に鼓動が大げさなくらいに跳ねてしまっていた。

 こんなこと、今までなかったのに。そりゃあ、カッコいいなって、ときめいちゃったりはしていたけれども、これほどまでじゃあ。

 動揺からか、顔に集まっていく熱がいつもよりも熱い気が。それどころか、首の周りまでもが熱くなってしまう。俺が噛まれちゃう訳じゃあないのにさ。

 幸いなことにバアルは気付かなかったみたい。差し出していたフォークから大きなチキンはすでに消えていた。バアルは瞳を細めながら白い頬をもくもくと動かしている。

「ん……美味しいですね。皮はパリッとしていながら、お肉はしっとりと柔らかく……アオイ?」

「あ、ぇ……な、なに? バアル……」

 鮮やかな緑の瞳が見つめている。俺の心を、俺が考えてしまったことを見通そうとしているのかのように真っ直ぐに。

 それはほんの数秒だった。

 その僅かな間にバアルは俺が誤魔化そうとしていたことに辿り着いてしまったんだろうか。羽をはためかせながら、嬉しそうに目尻のシワを深めたんだ。

「お顔が真っ赤ですね……誠に愛らしい……何か、お可愛らしい事柄でも考えてしまわれましたか?」
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