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【新婚旅行編】十日目:ささやかで可愛らしい反応は……俺のせい
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珍しく彼は饒舌ではなかった。
好物のハンバーグを口にした時も、瑞々しいサラダを口にしても、アプリコットジャムをたっぷり塗ったパンを頬張っても。その美味しさを、自身が感じた喜びを、共感しかない表現で歌うようにツラツラと紡ぐことはなかった。
ただ、俺が差し出した料理を口にしては耳心地のいい穏やかな低音で、美味しいですね、と。白い頬を桜色に染めたまま、小さく微笑むだけだった。
そんなささやかで可愛らしい反応はデザートを口にしても変わらなかった。
全ての料理のお皿を空にしてから見計らっていたようにテーブルの上へと追加で現れた二つ。
細長い花のようなグラスにたっぷりと詰められたいくつもの甘い幸せ。チョコレートアイスに、チョコレートプリン、チョコレートのソースがたっぷりかけられた生クリームなどなど。まさにチョコレートパフェの名に相応しい、チョコレート尽くしな一品。
見た目はシンプル。けれども紅茶の香りは華やかな、見るからにふわふわそうな薄茶色のシフォンケーキに、生クリームを添えて。
それらをスプーンで、またはフォークで差し出してもやっぱり。美味しいですね、と柔らかな笑みを深めるだけだった。
まぁ、俺のせいなんだけど。
パフェとシフォンケーキも二人で食べ終えて、ごちそうさまをしたところで空になったそれらが淡い光に包まれていく。光の中へと溶けるように消えていく。
テーブルの上に残された食事の名残りは、二人分のグラスと半分ほどなくなったピッチャーだけ。何となく寂しさを感じる光景を、俺はぼんやりと眺めてしまっていた。
「アオイ……」
隣へと視線を向ける前に肩を抱き寄せられていた。感じたのは安心する温かさ、それからちょっぴりな浮遊感。瞬きの間に俺は筋肉質な腕に軽々と抱き抱えられていた。
顔を上げれば、柔らかく微笑む瞳とかち合う。その鮮やかな緑をずっと見つめていたい。ずっと俺だけを映していてほしいのに、何でか俺は咄嗟に逃げてしまっていた。分厚い胸板へと額を押し付けしまっていた。
くすくすと頭の上の方で小さく笑う気配がする。大きな手のひらが、背中を優しく撫でてくれる。ぴったりとくっついている長身がゆっくりと動き始めた。
立ち上がった彼のしなやかな足が向かう先は一つしかない。
運んでくれている俺を一切揺らさないような、ゆったりとした足取りだった。けれども、そこにはすぐに辿り着いた。撫でてくれていた手が、ぽん、と優しく背を叩く。
「アオイ」
下ろしてもいいか、ということだろうか。俺としては、このままくっついていたいんだけど。
頼もしい胸元に擦り寄ったままになってしまっていると、言葉で伝えなくとも優しい彼は察してくれたようだった。
「……承知致しました」
ベッドが軋む音がして、次に衣擦れの音が。のそのそとシーツの上を這っていくような音はすぐに止んだ。
また撫でてくれていた手が止まって、ぽん、ぽんっと幼子を寝かしつけているかのように優しく背を叩く。
「アオイ……まだこのままでいらっしゃるのでしょうか? 私は構いませんが……ですが、この体勢ですと貴方様が望んでくれていた口づけを交わすことは出来ませ」
「しますっ、したいっ! して下さいっ!」
好物のハンバーグを口にした時も、瑞々しいサラダを口にしても、アプリコットジャムをたっぷり塗ったパンを頬張っても。その美味しさを、自身が感じた喜びを、共感しかない表現で歌うようにツラツラと紡ぐことはなかった。
ただ、俺が差し出した料理を口にしては耳心地のいい穏やかな低音で、美味しいですね、と。白い頬を桜色に染めたまま、小さく微笑むだけだった。
そんなささやかで可愛らしい反応はデザートを口にしても変わらなかった。
全ての料理のお皿を空にしてから見計らっていたようにテーブルの上へと追加で現れた二つ。
細長い花のようなグラスにたっぷりと詰められたいくつもの甘い幸せ。チョコレートアイスに、チョコレートプリン、チョコレートのソースがたっぷりかけられた生クリームなどなど。まさにチョコレートパフェの名に相応しい、チョコレート尽くしな一品。
見た目はシンプル。けれども紅茶の香りは華やかな、見るからにふわふわそうな薄茶色のシフォンケーキに、生クリームを添えて。
それらをスプーンで、またはフォークで差し出してもやっぱり。美味しいですね、と柔らかな笑みを深めるだけだった。
まぁ、俺のせいなんだけど。
パフェとシフォンケーキも二人で食べ終えて、ごちそうさまをしたところで空になったそれらが淡い光に包まれていく。光の中へと溶けるように消えていく。
テーブルの上に残された食事の名残りは、二人分のグラスと半分ほどなくなったピッチャーだけ。何となく寂しさを感じる光景を、俺はぼんやりと眺めてしまっていた。
「アオイ……」
隣へと視線を向ける前に肩を抱き寄せられていた。感じたのは安心する温かさ、それからちょっぴりな浮遊感。瞬きの間に俺は筋肉質な腕に軽々と抱き抱えられていた。
顔を上げれば、柔らかく微笑む瞳とかち合う。その鮮やかな緑をずっと見つめていたい。ずっと俺だけを映していてほしいのに、何でか俺は咄嗟に逃げてしまっていた。分厚い胸板へと額を押し付けしまっていた。
くすくすと頭の上の方で小さく笑う気配がする。大きな手のひらが、背中を優しく撫でてくれる。ぴったりとくっついている長身がゆっくりと動き始めた。
立ち上がった彼のしなやかな足が向かう先は一つしかない。
運んでくれている俺を一切揺らさないような、ゆったりとした足取りだった。けれども、そこにはすぐに辿り着いた。撫でてくれていた手が、ぽん、と優しく背を叩く。
「アオイ」
下ろしてもいいか、ということだろうか。俺としては、このままくっついていたいんだけど。
頼もしい胸元に擦り寄ったままになってしまっていると、言葉で伝えなくとも優しい彼は察してくれたようだった。
「……承知致しました」
ベッドが軋む音がして、次に衣擦れの音が。のそのそとシーツの上を這っていくような音はすぐに止んだ。
また撫でてくれていた手が止まって、ぽん、ぽんっと幼子を寝かしつけているかのように優しく背を叩く。
「アオイ……まだこのままでいらっしゃるのでしょうか? 私は構いませんが……ですが、この体勢ですと貴方様が望んでくれていた口づけを交わすことは出来ませ」
「しますっ、したいっ! して下さいっ!」
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