【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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【新婚旅行編】十一日目:心を射抜く言葉とは

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 バアルがそう言うんだったらと、思いたい気持ちはある。

 でも、こういう時の彼の答えは鵜呑みには出来ない。俺に心配させないようにって、頑張ってくれちゃっている場合もあるからな。

 改めて問いかけるよりも前に、疑いの眼差しで見てしまっていたんだろう。バアルは手にしていた包丁をシンクで丁寧に洗ってから包丁立てに置くと、観念したように両手を上げた。

 僅かに歪んだ形のいい唇から小さな吐息がこぼれる。物憂げな表情は渋いお髭も相まってカッコいい。見惚れちゃっている場合じゃないんだけれども。

「何も、誤魔化してはおりません。誠に疲れてはいないのです……ただ」

「うん」

「少々……格好つけたかった、と申しますか……」

「はい?」

 思いも寄らない答えに、肩の力が抜けていく。

 カウンターテーブルに手をつきながら、前のめりに上げてしまっていた腰が椅子へとストンと落ち着いていく。

 ほんのちょっぴりの沈黙の後、バアルは白い頬を赤く染めながらも誠意を示すように話し続けた。

「私めの手元を見つめる貴方様の眼差しが、あまりにも眩く、愛らしく……もっとそのような目で見つめられたいと……浅ましい考えを抱いてしまっている内に、自然と手が動いておりまして……」

「は……」

 胸の奥に、熱く鈍い衝撃が走ったような。咄嗟に口を開いても上手く言葉が出て来ない。

 心を射抜く言葉とは、こういうものなんだと。身体に直接叩き込まれたような。

「……アオイ?」

 キッチンからカウンターへと軽く身を乗り出すように、真っ直ぐな背筋を曲げながらバアルが俺を見つめている。白い睫毛に縁取られた緑の瞳は心配からか、いつもの鮮やかさはない。

 そうやって、どんな時でも俺のことを一番に考えてくれちゃってさ。そんなところもさ。

「……ズルい」

「はい……?」

「もー……ズルいっ、可愛いっ! 俺のバアルが今日も滅茶苦茶カッコいいのに、すっごく可愛いんだけど!?」

 驚きに長い睫毛を瞬かせたのもそこそこに、バアルは目尻のシワを深くした。

 緩やかな笑みを浮かべながら、白いシャツ越しでも分厚い胸板へと手を添えて、恭しく会釈を返す。その洗練された仕草も上品でカッコいい。

「ふふ……お褒め頂き光栄に存じます」

「可愛いっ……照れずに素直に喜んでくれるのも可愛いよ!」

 流石の包容力である。込み上げてくる愛おしさをそのままぶつけてしまっても、バアルは擽ったそうな笑みをこぼすだけ。おまけに、お返しとばかりに微笑みかけてくるのだ。

「ありがとうございます。お顔を真っ赤にされて照れていらっしゃるアオイもお可愛らしいですよ」

 また胸の辺りがきゅっとなって、言葉も詰まりそうになってしまう。俺も何か返さないと。バアルみたいにスマートに。

「こ、こちらこそ、ありがとうっ」

「いえ。私の妻はどのような時でもお可愛らしいという事実を述べたまででございます故」

「っ……」

 あー……もう、負けだ、負けっ! いや、そもそもが勝った負けたの話じゃあないんだけどさ。

 だとしても、煩いくらいに高鳴る胸の内に込み上げてきているのは確かな敗北感で。やっぱりこの人には敵わないんだなと、改めて思い知ってしまう。

 でも、どうにかと。ちょっとくらいはバアルにも照れた顔をさせたくて、俺はズルい手を使ってしまっていた。

「……そ、それで? バアルはさ、俺にカッコいいなって思ってもらいたくて、こんなに切っちゃってたの?」
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