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終わった世界にて
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「私達って、どうして生きてるのかな?」
車が一生通る事の無いアスファルトの上を歩きながら、ルーチェは疑問を口にした。
雪原の白を思わせる、美しく長い髪。容姿はまだ幼く、両手で大事そうに持っている一丁の拳銃を持っているその姿は、とても現実のとは思えないものだった。
「何もしなくても食べ物は手に入る。欲しい物も手に入る。これから生活していくのに、何の不自由も無い。ただ毎日空を眺めているだけでいい。寿命っていうゴールが訪れる……その時まで」
「…………」
ルーチェの三歩後ろからついて来ている長身の女性イヴは、一言も発さず、ただ金色に輝く髪を靡かせながら、彼女の言葉に耳を傾けていた。
「ねぇイヴ。そんな人生に、一体どんな価値があるんだろうね?」
不意に立ち止まり、橙色に染まる空を見上げた。
「これはあくまで持論だけれど。人生はきっと、辛い事や悲しい事があるから楽しいと思えるんだよ。でも今の私達にはそういった事が無い。イヴが居るから辛くないし、悲しくない。ただただ楽しくて愉快で、そして何より幸福。
……でも幸福だけが満ち続ければ、きっとそれを当たり前だと感じてしまう日が必ず来る。それはつまり、一生自分が幸せであるという事を自覚出来なくなってしまうって事なんだよ。なら私は、ある意味最も不幸な人間と言えるんじゃないかな?」
「……つまり主人は、何を言いたいのかしら」
ようやくイヴが、その沈黙を破った。
「つまり私は、これから死ぬまで不幸な人間って事だよ」
「……よく解らないわ。だって私は人間じゃない。人の姿をしているけれど、人間とは、まったく別の存在。だから純粋な人間である主人の言ってる事が、アタシにはよく解らないわ」
ルーチェは振り返ると、背伸びをしてイヴの頭を撫でた。
「解らなくても良いよ。あなたはただ、私を不幸にし続けてくれれば良いだけなんだから」
「……アタシは、主人を不幸じゃなくて幸せにしたいわ」
「その必要は無いよ。私は十分以上に幸せ。パーセントで表すなら一万パーセント……ってところかな? でもだからこそ、私は十分に不幸なんだよ」
「?」
それまで無表情だったイヴが、僅かに眉を顰めた。
……数週間前。とある研究所から、あるウイルスが漏れ出してしまった。
それは人間を確実に死に至らしめ、理性の無い怪物へと変貌させた。
それは空気感染せず、感染者に噛まれたりする事でのみ感染した。
それはどんな薬を使っても、治す事が出来なかった。
それは僅か数週間で、世界中に広がった。
それはほぼ全ての人間を殺し、世界を容易く終わらせてしまった。
しかし世界で一人だけ。たった一人だけ、人類の歴史を終わらせたウイルスに、強い耐性を持つ少女が居た。それがルーチェだ。
そしてもう一人。いや、一体。何処かの組織が開発していたらしい人型兵器のイヴも、体の中身が機械なので感染する事すら無く、この終わった世界に取り残された。
ウイルスに感染しない少女と人間兵器。
二人は偶然にもこの無駄に広い世界で出会い、運命共同体となった。
「まだ、歩くの?」
イヴが尋ねる。
「歩くよ。止まる理由も歩き続ける理由も特に無いけれど、何もしないよりは、何かしていた方が得でしょ?」
「……目的なんて何も無いのに?」
「うん、無いね。でも目的が無いという事を、歩かない理由にする訳にはいかないよ」
くるりと踵を返し、イヴに背を向ける。そして歩き始めた。イヴは何も文句を言わずに、黙ってついて行く。
「さて。今日はあとどれくらい進めるかな」
彼女達は、今日も歩き続ける。
何もかもが終わった世界を歩き続ける。
一歩も前に歩けなくなる、その時が来るまで。
車が一生通る事の無いアスファルトの上を歩きながら、ルーチェは疑問を口にした。
雪原の白を思わせる、美しく長い髪。容姿はまだ幼く、両手で大事そうに持っている一丁の拳銃を持っているその姿は、とても現実のとは思えないものだった。
「何もしなくても食べ物は手に入る。欲しい物も手に入る。これから生活していくのに、何の不自由も無い。ただ毎日空を眺めているだけでいい。寿命っていうゴールが訪れる……その時まで」
「…………」
ルーチェの三歩後ろからついて来ている長身の女性イヴは、一言も発さず、ただ金色に輝く髪を靡かせながら、彼女の言葉に耳を傾けていた。
「ねぇイヴ。そんな人生に、一体どんな価値があるんだろうね?」
不意に立ち止まり、橙色に染まる空を見上げた。
「これはあくまで持論だけれど。人生はきっと、辛い事や悲しい事があるから楽しいと思えるんだよ。でも今の私達にはそういった事が無い。イヴが居るから辛くないし、悲しくない。ただただ楽しくて愉快で、そして何より幸福。
……でも幸福だけが満ち続ければ、きっとそれを当たり前だと感じてしまう日が必ず来る。それはつまり、一生自分が幸せであるという事を自覚出来なくなってしまうって事なんだよ。なら私は、ある意味最も不幸な人間と言えるんじゃないかな?」
「……つまり主人は、何を言いたいのかしら」
ようやくイヴが、その沈黙を破った。
「つまり私は、これから死ぬまで不幸な人間って事だよ」
「……よく解らないわ。だって私は人間じゃない。人の姿をしているけれど、人間とは、まったく別の存在。だから純粋な人間である主人の言ってる事が、アタシにはよく解らないわ」
ルーチェは振り返ると、背伸びをしてイヴの頭を撫でた。
「解らなくても良いよ。あなたはただ、私を不幸にし続けてくれれば良いだけなんだから」
「……アタシは、主人を不幸じゃなくて幸せにしたいわ」
「その必要は無いよ。私は十分以上に幸せ。パーセントで表すなら一万パーセント……ってところかな? でもだからこそ、私は十分に不幸なんだよ」
「?」
それまで無表情だったイヴが、僅かに眉を顰めた。
……数週間前。とある研究所から、あるウイルスが漏れ出してしまった。
それは人間を確実に死に至らしめ、理性の無い怪物へと変貌させた。
それは空気感染せず、感染者に噛まれたりする事でのみ感染した。
それはどんな薬を使っても、治す事が出来なかった。
それは僅か数週間で、世界中に広がった。
それはほぼ全ての人間を殺し、世界を容易く終わらせてしまった。
しかし世界で一人だけ。たった一人だけ、人類の歴史を終わらせたウイルスに、強い耐性を持つ少女が居た。それがルーチェだ。
そしてもう一人。いや、一体。何処かの組織が開発していたらしい人型兵器のイヴも、体の中身が機械なので感染する事すら無く、この終わった世界に取り残された。
ウイルスに感染しない少女と人間兵器。
二人は偶然にもこの無駄に広い世界で出会い、運命共同体となった。
「まだ、歩くの?」
イヴが尋ねる。
「歩くよ。止まる理由も歩き続ける理由も特に無いけれど、何もしないよりは、何かしていた方が得でしょ?」
「……目的なんて何も無いのに?」
「うん、無いね。でも目的が無いという事を、歩かない理由にする訳にはいかないよ」
くるりと踵を返し、イヴに背を向ける。そして歩き始めた。イヴは何も文句を言わずに、黙ってついて行く。
「さて。今日はあとどれくらい進めるかな」
彼女達は、今日も歩き続ける。
何もかもが終わった世界を歩き続ける。
一歩も前に歩けなくなる、その時が来るまで。
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