関西桃産太郎

なおちか

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太郎、産まれる

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昔々関西のあるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。2人には子供は居ませんでしたが、とても仲がよく毎日幸せに暮らしていました。

そんなある日の朝、おじいさんは山へ薪拾いに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。おばあさんが、おじいさんの靴下を念入りに洗っていると、川上の方から高さが1mくらいはある大きな桃が岩に当たったりして回転しながら流れてきました。

「なんやこれえええ!!」おばあさんは大きな声で叫ぶと、小走りで桃の方へ駆け寄りました。桃はたくさん岩に当たった為か傷だらけではありましたが、桃からは甘い香りがするので、おばあさんは葉っぱの部分を引っ張って川岸に上げました。上げたはいいものの、この大きな桃を担いで帰るのは無理だと判断したおばあさんは、山にいるおじいさんを呼びに行きました。

「おーい!じいさんやー!」薪を拾っているおじいさんを見つけると、おばあさんは大きな声で呼びました。「じいさん!川にこーんな大きな桃が流れてきたんよ。1人じゃ運ばれへんからちょっと手伝って」

「ついにボケたかばあさん」

「ボケてへんわ。ええからついて来て!」そう言うとおばあさんは早歩きで山を下りて行くので、おじいさんも後をついて行きました。

「ほらあれ」おばあさんが指さした方を見ておじいさんは驚きました。

「まじやん」

おじいさんは桃に駆け寄ると桃を触ってみました。手触りはちゃんとした桃だったので、家に持って帰る事にしました。

「こんな大きな桃は食べきられへんから、ご近所さんに持って行ってやろか」そう言いながらおじいさんは桃を持ち上げてみました。「軽っ。ばあさん、これ中身詰まってへんで」

「ほんまか。もう腐っとるんかな。ちょっと食べてみてや」

そうおばあさんに言われたおじいさんは、斧で少しだけ果肉を削って食べてみました。

「あ、うまいわ。ええ桃や。ばあさんも食べてみ」おじいさんはもう1度桃を削って、果肉をおばあさんに渡しました。

「あ、ほんま甘くて美味しいわ。表面しか実は無いかもしれんけど、こんだけ大きかったら結構な量食べれるやろ」

「せやな」そう言って、おじいさんは桃を両手で持ち上げると、おばあさんと2人で家まで運びました。

扉を開けて桃を家の中に運び込むと、2人は座って休憩する事にしました。会話が無くても気まずくなる事などない2人はゆっくりしていましたが、しばらくするとおばあさんは立ち上がりました。

「小分けにして配るから包丁取ってくるわ」

「おう」おじいさんはそう言うと、なんとなく桃に目をやりました。すると、カタッと桃が動きました。

「ん?」見間違いかと思いましたが気になったので、おじいさんは桃の目の前まで移動し、桃を良く見ました。すると、もう1度桃がカタッと動きました。

「ああああ・・・。ば、ばあさん・・・!」おじいさんは驚いて尻もちをつきました。

その声を聞いたおばあさんは、包丁を持って戻ってきました。「じいさんどうしたん?変な声出して」

「も、桃が動いたんやあ・・・」

「あんたこそボケたか」

「ほんまやて・・・。近くまで来てよう見ててみい」

おじいさんに言われたおばあさんは桃のそばまで来てじっと観察しました。すると、桃の中からドンッという音が鳴り、桃が揺れました。

「あぁ!ほんまや!」おばあさんは凄く驚きました。

「なんや、呪われた桃なんかもしれん。持って帰ってきたらあかんかったんや」おじいさんは険しい顔で呟きました。

「せやったら、もう1回川に流しに行こか?」

「あぁ。それがええわ。祟りにでも遭ったらたまらん」おじいさんがそう言うと、2人でもう1度桃を持ち上げようとしました。その時、おばあさんの手が果汁で滑り桃が転がってしまいました。

「あぁ!ばあさんなんちゅうことしたんや!」おじいさんは怒りました。

「滑ってもうたんや。堪忍してください」と桃にあばあさんは手を合わせました。すると、横向きになった桃の中から再びドンッという音がしました。2人が驚き桃を凝視していた次の瞬間!

ドンッ!という音と共に、おじいさんが削って薄くなっていた部分を蹴破って、小さな足が出てきました。

「うわああ!」2人は声を揃えて驚きました。

「あ、足や・・・」おばあさんは桃から出ている足を見て言いました。

「人が入っとるんか?」とおじいさん。

「子供の足やな。祟りとか言うてる場合ちゃうな。出したらんと」おばあさんはそう言うと、包丁を使って桃を切る事にしました。

「ほなら、ワシが押さえとくから」おじいさんは桃を両手で固定しました。おばあさんは中の子供を傷つけないように慎重に包丁で桃を切りました。

そして、中が見えるほどの穴が開いた時、桃は先端の部分からパカーンと開き男の子の赤ちゃんが産声をあげました。
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