関西桃産太郎

なおちか

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旅立ちの日

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太郎は家に帰ると、おじいさんとおばあさんに今日あった事を話しました。そして、師範に松川一斉の元へ修行に行くようにと言われたことも伝えました。2人は驚きましたが、太郎が目指す物、知りたい物を見つける為に自分が行きたいと決めたと聞き、反対はしませんでした。嵐の被害があったので、太郎は数日間は家の周りの掃除や修復をしました。倒木の撤去や畑の手入れ、家の補強などを手際よくこなして、あっという間に家の周辺は綺麗なり、ほぼ元通りになりました。

太郎が出発する日の朝、おばあさんはきび団子を太郎に持たせる事にしました。最初に作った団子を神棚にお供えし、太郎の無事を祈りました。おばあさんは、お守りになるだろうと桃石を神棚から下ろし、太郎に渡すために机の上に置きました。それからたくさんのきび団子を作り、きんちゃく袋いっぱいに入れました。

支度を済ませた太郎が戸口にやってきました。「それでは、行ってきます」

「うん。待っとるからな。強なって帰って来い」おじいさんは言いました。

「きび団子、ぎょうさん作っといたからな。ほんで、この石をお守りに持っていき」おばあさんはそう言って、きび団子の入った巾着と、桃石の入った小さな布の袋を太郎に手渡しました。

「ありがとう。2人とも元気で待っててな」太郎は笑顔でそう言うと、歩き出しました。しばらく歩いた所で振り返ると、2人はまだ並んでこちらを見ていたので、太郎は大きく手を振り、2人が振り返すのを見ると、木々の中に消えていきました。

太陽はまだ高くはなく、木々を揺らす風は少し冷たさを感じます。そんな中、太郎は1歩1歩進み、斜面を登って行きました。一斉の所へ行く前に太郎は、桃の木と神社にお参りと挨拶をしに行きました。先に神社に行き手を合わせた後、裏の家を覗きに行きましたが神主の姿は見えませんでした。そして、その後に太郎は桃の木へ行き、小さな石碑に手を合わせ、目を閉じて「見守っていてね」と小さく呟きました。

拝み終わりゆっくりと立ち上がった太郎は、少し伸びをして「行ってきます」と言い、歩き出そうとしました。しかし、背後になんとなく気配を感じたので振り返ってみると、1匹の犬がこちらを向いて立っていました。

「ワン!」犬はひとつ吠え東の方向に少し走ると、また太郎の方を向いて止まりました。

「なんや?」太郎は気になったので少し歩み寄ると、また犬は少し走って止まり太郎の方を見ます。

「ついて来いって言うんのか?」そう太郎は話しかけつつ犬の方へ歩いて行きました。

犬が走っては止まりを繰り返しそれを太郎がついて行くと、犬は何の変哲もない雑草の上に立ち止まりました。そして、そこでまた「ワン!」とひとつ吠えました。

「ん?なんや」太郎は犬に語りかけつつ、周りを見ました。しかし、普通の木や小さめの岩があるくらいで、特に目に留まる物はありませんでした。何なのかよくわからない太郎は犬に近付きしゃがんで頭を撫でようとしました。すると、犬はまた「ワン!」と吠え、真下の地面を少し掘りました。

その様子を見た太郎は「ここを掘れって言うてんのか?」と言い少し戸惑いながらも同じ場所を掘りました。石や木の枝などを使いながら20cm程掘り進めましたが特に何も出てきません。「何もないやん」そう言って太郎が掘るのをやめると、犬がまた掘り始めました。

「もっと深く掘れってか」太郎は呟くと、また石を使って掘っていきました。そして、穴の深さが30cm程になった時に硬い感触を太郎は感じました。

「ん?」太郎が手で土をはらうと、木の板のような物がありました。周りをもう少し掘ると、それは細長い木の箱だとわかりました。長さがあったので時間は掛かりましたが、掘り出してみると幅が20cm長さは1m程の箱でした。太郎は箱を地面に置き、紐の結び目をほどこうと触れました。すると、紐はポロポロと崩れました。次に太郎は箱の蓋に触れ軽く持ち上げてみると、簡単に浮いたので、そのまま蓋を開きました。

「刀や・・・」太郎は箱の中身を見て言いました。刀を持ち上げ鞘からスーッと抜き出すと綺麗な刃の刀が一振り入っていました。太郎は箱から取り出し柄の部分を握ってみると、物凄く手にフィットし、とても軽く感じました。

「この刀は、お母はんの思いの中でお父はんが言うてた刀かもしれん」太郎は刀を鞘に戻し、犬の前でしゃがみ頭を撫でました。
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