関西桃産太郎

なおちか

文字の大きさ
上 下
33 / 35

ワケブシの神

しおりを挟む
鬼が消えるのを見た太郎は身体を起こし座りました。そして「よっしゃ」と右手の拳を握り横にいたマルに「ありがとうな」と言いました。マルは頷くと飛び上がり、ハナの元へ行き、ハナを掴んでサスケと一緒に戻ってきました。

「やったな!太郎はん!」サスケは満面の笑みで言いました。

「おう!ありがとうな!でもお前やりすぎやぞ!」太郎はそう言ってサスケの左の肘の辺りをポンと叩きました。

するとサスケは「痛っ」といって左手を引きました。

「手、怪我してんのか?見して」と太郎は言い、サスケは少しためらった後、手を前に出すと指が1本なくなっていました。

「お前・・・」太郎はその手を見て言葉に詰まりました。

「鬼に岩を砕かれた時、コイツは反応が遅れたオレをかばって岩に指を潰された。そして、このままだと動けないからと言って、クチバシで指を切断してくれと頼んできた。オレがすぐに決断できずにいると、鬼みたいな顔で『早くしろ!』って言ってきてな。その後、オレたちが岩に登るとハナが掴まれた状態だった」マルが説明しました。

「サスケ・・・すまない」太郎はサスケの指を見て言いました。

「そんな血だらけの身体で何を言うてるんや。物は掴めるし問題ないわ」サスケがそう言った時、気を失っていたハナが目を覚ましました。

「あれ・・・?勝ったん?」ハナはボーッとした顔で言いました。

「気が付いたか。せやぞ!みんなで力合わせて勝ったぞ!」太郎はハナの首筋を撫でました。

「そっか良かった・・・。でも、ワイは寝てただけやし大事な時に力になれんかったんやな・・・」とハナは俯きました。それを聞いたマルは「フッ」と鼻を鳴らして飛び上がり、太郎とサスケは笑いました。なぜ笑っているかわからないハナは困惑した表情で太郎たちを見つめました。

「鬼の弱点を暴いたのはハナなんやぞ」

太郎は赤鬼をどうやって倒したのかをハナに説明しました。ハナは驚きながらもケラケラと笑って「ワイのおかげやん」と言いました。

それを聞いて太郎がほほ笑んで頷いた時、マルが空から降りてきました。「見える範囲では鬼は島にはいない。ただ、島の中央に洞窟の入口のようなものがあった」

「その中にまだ鬼がいる可能性はあるのか」太郎は呟き、また緊張が高まりました。

「確認せずには帰れんよなぁ」サスケも呟きます。

太郎たちは刀を回収し少しの間休むと、すぐに洞窟の近くまで移動しました。少し離れた所から見てみると、入口の穴は大きく、赤鬼でも楽に出入りできるような大きさでした。

「もし中に鬼がいたとしても穴に入って戦う選択肢はない。石を投げ入れて出てきたところを仕留める。ええな?」太郎が言うとハナとマルは頷きました。

しかし、サスケは穴を凝視しながら、「中にいっぱい鬼がおったらどうするんや?」と言いました。

「その可能性は低いやろ。あれだけ騒がしく戦ってたのに出てこんかったんや。大丈夫や」太郎は穴のそばまで移動し、手頃な石をさがしました。その時、ある石が目に留まりました。よく見てみると、その石には焦げた縄の跡のような物がついていて、不思議に思った太郎は、その石を手に取ろうとしました。そして、その石に指先が触れた時、目の前に1人の女が現れました。女の髪は黒く長くボサボサとしていて、着物もボロボロになっている為、袖の部分がほぼ無くなっていました。そして、その女は右腕がありませんでした。

「よく、やってくれました。」女はそう言うと優しくほほ笑みました。

「お主は何者や・・・」太郎は驚きましたが、落ち着いてもいました。なぜなら、桃の木に触れた時の感覚と近い物を感じたからでした。

「ワケブシの神と呼ばれておりました。あなたがよく知る『何も祀られていない社』にいた者です」

「じゃあ、盗まれた神様いうことか」太郎は呟きました。

「ええ。我はその石に宿る神です。動物たちにも話を聞いてもらいたいので、太郎殿の身体に触れるよう促して頂けますか?」

そう言われた太郎はハナたちに自分の身体に触れるよう言いました。聞いたハナたちは順番に太郎の身体に触れました。すると、女の姿が全員見えるようになりました。急に現れた女に驚いたハナたちでしたが、鬼ではなかった為、安心しました。

「なんや、汚い女やな」サスケが言いました。

「おいこら!神様になんちゅうこと言うねん!」太郎が叱りました。

「いえ、良いですよ」と女は笑い「ハナ、サスケ、マル、あなたたちも良くやってくれました。鬼はもうこの世界にいません」と言いました。

「ほんまに!?」ハナが太郎に聞きました。

「神様は嘘つかんで」と太郎。

「やった!勝ったでー!」ハナとサスケは大きく喜び合いました。
しおりを挟む

処理中です...