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未来
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立っている男たちは太郎たちから離れた場所で木の棒やボロボロの鎌を構えました。警戒されている事を感じた太郎は舟を降りた場所から動かずに男たちを見つめました。
「お前は鬼か?」1人の男が震える声で言いました。
「違う。オレは人間や」太郎が答えます。
「あの島から来たやろ。見とったんや!人間のフリをしとるんちゃうんか」また別の男が言いました。
「あのなぁ!」とサスケが怒って言うと、男はヒッ!と高い声を出し怯えました。
「サスケ、この人らには言葉は通じんのやで」ハナがそう言うと、サスケは「あっ」という顔をして口をつぐみました。「鬼は全部倒しました。そんで、あの島ももう沈みます」と太郎は男たちに説明しました。
男たちは顔を見合わせたりして信用していいか迷っているようです。太郎は島に行く前に、鬼が盗んだ物を舟から降ろした事を思い出し取りに行きました。そして、片手でいくつかの物を抱えて戻ってきました。
「これ、あなたたちの物ですか?」太郎が盗まれていた農具などを見せると、1人の男がよろよろと歩いて来て鍬を抱きしめ泣き崩れました。
「清兵衛・・・清兵衛・・・」男は繰り返し名前を呼び涙を流しました。太郎たちも他の男たちも何も言わずただ立ち尽くしていると、ゴゴゴという轟音が鳴り、海の方を見ると島がゆっくりと沈み始めました。波もほとんど立たず島は海の中へ消えていきます。やがて、島の1番高い岩も海面の下に入り「終わったんやな」と太郎は思いました。
島が沈んだのを見届けた太郎は、「死んだ男を上子村に連れて帰らんといけません。危害は加えませんから見逃してください」男たちにそう言って一斉の元へ行きました。
太郎が一斉の前に来ると、「サスケ、巾着の中の団子を松川殿に渡してくれ。おはぎは鬼倒す為に使ってもうたからもう無いんや」と言いました。
「いや、団子も全部使ったから無いで」サスケは答えます。
「え?何個もあったやろ」
「あったけど、身体に粉をまぶした後のやつは食べたからな」
「全部?」
「全部や」
それを聞いた太郎は少し笑って、「松川殿、団子もおはぎも無くなってしまいました。でも、鬼は倒したので許して下さい」と言いました。手を合わせた後、太郎は右腕だけで一斉を背中に担ぎ上げ、歩き出そうとしました。
「あの」そこへ泣いていた男がやって来て太郎に声を掛けました。「村の外れに荷車があります。あんたも怪我してるんやから乗っていってくれ」
太郎は少し驚きましたが、「かたじけない」と言い、荷車に乗せてもらう事にしました。複数の男たちが協力し、上子村まで運んでもらった太郎は礼を言い、道場に一斉を寝かせました。
「松川殿、道場に戻りましたよ」太郎の目から涙がこぼれました。
その後、吉之助やはつの手伝いもあり、一斉は墓地に埋葬されました。鬼の存在を知る者だけが手を合わせにやってきて、一斉は静かに眠っています。
一ノ江村は鬼に襲われ壊滅的な状況でしたが、村の男たちは太郎が上子村に滞在した間は毎日魚などを持ってきて、出来る限りの礼を尽くしました。太郎は何度も断りましたが、「オレらの気が済まんのや」と言い聞いてもらえませんでした。
足の傷が少し癒え、体力もかなり回復した太郎はおじいさんとおばあさんの元へ帰る事を決めました。左腕はまだあまり動かせませんが、はつの処置もあり、順調に回復しています。マルは上子村にそのまま残る事を選び、吉之助たちと生活していく事となりました。
ハナとサスケは太郎についていく事となり、太郎と一緒に村へ帰りました。出迎えたおじいさんとおばあさんは、太郎の怪我と犬と猿に大変驚きましたが、太郎が返ってきた喜びが何倍も勝り、ハナとサスケも家に招き入れました。
太郎は、母の記憶で見た赤鬼たちが現れ、その全ての鬼を倒した事、もう島は神様の力で海に沈んだ事などを話しました。おじいさんとおばあさんは太郎の話を聞き、信じられないような事ばかりでしたが、桃が流れてきた時から全てが夢のような事だったので納得しながら話を聞きました。
ハナとサスケは毎日山で遊んだり、おじいさんやおばあさんの手伝いをしたりして日々を過ごしていきました。太郎は建て直された道場にまた通い、強く成長した姿を見た師範は太郎に師範の座を譲り、今度は稽古をつける側として刀を振りました。
人を救うために己の強さを追求した一斉の剣を受け継ぎ、その思いと共に剣術を人々に教えた太郎は、命が果てるその時まで伝え続けました。
そして現在、太郎は一斉の隣で眠っており、その場所は今も村人や弟子たちの子孫によって綺麗に保たれています。
おしまい
「お前は鬼か?」1人の男が震える声で言いました。
「違う。オレは人間や」太郎が答えます。
「あの島から来たやろ。見とったんや!人間のフリをしとるんちゃうんか」また別の男が言いました。
「あのなぁ!」とサスケが怒って言うと、男はヒッ!と高い声を出し怯えました。
「サスケ、この人らには言葉は通じんのやで」ハナがそう言うと、サスケは「あっ」という顔をして口をつぐみました。「鬼は全部倒しました。そんで、あの島ももう沈みます」と太郎は男たちに説明しました。
男たちは顔を見合わせたりして信用していいか迷っているようです。太郎は島に行く前に、鬼が盗んだ物を舟から降ろした事を思い出し取りに行きました。そして、片手でいくつかの物を抱えて戻ってきました。
「これ、あなたたちの物ですか?」太郎が盗まれていた農具などを見せると、1人の男がよろよろと歩いて来て鍬を抱きしめ泣き崩れました。
「清兵衛・・・清兵衛・・・」男は繰り返し名前を呼び涙を流しました。太郎たちも他の男たちも何も言わずただ立ち尽くしていると、ゴゴゴという轟音が鳴り、海の方を見ると島がゆっくりと沈み始めました。波もほとんど立たず島は海の中へ消えていきます。やがて、島の1番高い岩も海面の下に入り「終わったんやな」と太郎は思いました。
島が沈んだのを見届けた太郎は、「死んだ男を上子村に連れて帰らんといけません。危害は加えませんから見逃してください」男たちにそう言って一斉の元へ行きました。
太郎が一斉の前に来ると、「サスケ、巾着の中の団子を松川殿に渡してくれ。おはぎは鬼倒す為に使ってもうたからもう無いんや」と言いました。
「いや、団子も全部使ったから無いで」サスケは答えます。
「え?何個もあったやろ」
「あったけど、身体に粉をまぶした後のやつは食べたからな」
「全部?」
「全部や」
それを聞いた太郎は少し笑って、「松川殿、団子もおはぎも無くなってしまいました。でも、鬼は倒したので許して下さい」と言いました。手を合わせた後、太郎は右腕だけで一斉を背中に担ぎ上げ、歩き出そうとしました。
「あの」そこへ泣いていた男がやって来て太郎に声を掛けました。「村の外れに荷車があります。あんたも怪我してるんやから乗っていってくれ」
太郎は少し驚きましたが、「かたじけない」と言い、荷車に乗せてもらう事にしました。複数の男たちが協力し、上子村まで運んでもらった太郎は礼を言い、道場に一斉を寝かせました。
「松川殿、道場に戻りましたよ」太郎の目から涙がこぼれました。
その後、吉之助やはつの手伝いもあり、一斉は墓地に埋葬されました。鬼の存在を知る者だけが手を合わせにやってきて、一斉は静かに眠っています。
一ノ江村は鬼に襲われ壊滅的な状況でしたが、村の男たちは太郎が上子村に滞在した間は毎日魚などを持ってきて、出来る限りの礼を尽くしました。太郎は何度も断りましたが、「オレらの気が済まんのや」と言い聞いてもらえませんでした。
足の傷が少し癒え、体力もかなり回復した太郎はおじいさんとおばあさんの元へ帰る事を決めました。左腕はまだあまり動かせませんが、はつの処置もあり、順調に回復しています。マルは上子村にそのまま残る事を選び、吉之助たちと生活していく事となりました。
ハナとサスケは太郎についていく事となり、太郎と一緒に村へ帰りました。出迎えたおじいさんとおばあさんは、太郎の怪我と犬と猿に大変驚きましたが、太郎が返ってきた喜びが何倍も勝り、ハナとサスケも家に招き入れました。
太郎は、母の記憶で見た赤鬼たちが現れ、その全ての鬼を倒した事、もう島は神様の力で海に沈んだ事などを話しました。おじいさんとおばあさんは太郎の話を聞き、信じられないような事ばかりでしたが、桃が流れてきた時から全てが夢のような事だったので納得しながら話を聞きました。
ハナとサスケは毎日山で遊んだり、おじいさんやおばあさんの手伝いをしたりして日々を過ごしていきました。太郎は建て直された道場にまた通い、強く成長した姿を見た師範は太郎に師範の座を譲り、今度は稽古をつける側として刀を振りました。
人を救うために己の強さを追求した一斉の剣を受け継ぎ、その思いと共に剣術を人々に教えた太郎は、命が果てるその時まで伝え続けました。
そして現在、太郎は一斉の隣で眠っており、その場所は今も村人や弟子たちの子孫によって綺麗に保たれています。
おしまい
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退会済ユーザのコメントです
こちらも返信が遅くなりすみません。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
また、宜しくお願いします!
退会済ユーザのコメントです
ありがとうございます!
もう終盤に入ってきましたが最後まで楽しんで頂けるよう頑張ります!
かがわけんさんの作品も楽しみにしています!
退会済ユーザのコメントです
感想ありがとうございます!
これからも楽しんで頂けるように書いていきますので、最後まで太郎の旅を見守っていただければ幸いです!