前世の記憶を持つセミの幽霊と少年の夏

なおちか

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セミ、死す

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セミです。俺は、前世人間だった。

生まれてすぐって前世の記憶があるって言うでしょ。あれ本当。

さすがに生まれた直後は生きるのに必死な本能が勝つからなのか記憶も何も無かったんだけど、孵化して土にもぐって落ち着いてからだんだん色々と思い出してきてさ。

普通、人間ってそういう前世の記憶とかってだんだん薄れていって大きくなると覚えていないでしょ?

でもね、土の中でいるだけの生活ってやる事なくて、人間の頃の思い出とか振り返ってたら何も忘れずに月日が流れていった。

そんで4年くらい経ったころかな?いや、わかんないけどね。太陽とか無いし時計も無いし、西暦もわかんない。

とにかく体が急にムズムズしてきてさ。あ、これは地上に出てこの殻を破り羽を広げるんだ!って感じた。

そんで、上はさすがにわかるからどんどん土をかき分けて登っていったの。

でも、行き止まりだった。カッタいのよ。コンクリートだった。俺がもぐってる間に道が出来てたみたいでさ。俺のほっそい手じゃ傷1つ付かない。人間でも無理だしね。

でも俺は諦めなかった。なんてったって人間の記憶がある。そこらのセミとはレベルが違うわけ。

横へ移動して上がれるところを探そうって思った。方向は運まかせだ。

で、とりあえず迷ったら左だって記憶があったから左へ進んでいった。もう無心で掘り進めた。

そしたら途中で何かと出会った。セミだった。何も言わず動かずじっとそこにいた。

陰キャだよあいつは。絶望感を全身にまとってた。虫が本能を放棄して生きる事を諦めるってことは、あいつももしかしたら前世人間だったのかもしれない。

陰キャゼミを後方に置き去りにして俺は進んだ。

たまに上を触ってみるけど固い。まだコンクリートの下だとわかる。進む。ズンズンというよりモゾモゾだ。道具が欲しいとこれ程思った事はない。スコップをくれ。扱えないけど。

そして、どれくらい進んだかもわからない程に疲れて頭もボーッとしてきた時、突然それは訪れた。

全身の力が抜けるような不思議な感覚だった。背中が開いてそこから出る感覚。

これが羽化なのか。自分の事なのに神秘的に感じる。窮屈な世界から解き放たれる。

いや、ここは土の中だ。ここで羽化してもダメだって。止めろ!止めろ!BBBBBBBBB。

そんな事を思っていても、俺の体はどんどん殻を破る感覚で抜け出していく。

そして、完全に抜け出した時、俺はコンクリートを通り抜けて地上に出た。

「え?」って思ったよ。何が起こったかわからないから俺は戻った。

またコンクリートを抜けて戻ると、俺は死んでた。羽化してセミの抜け殻があるんじゃなくて、死んで魂の抜け殻があったんだ。

あ、死んだんだなって理解した俺はまた地上に出た。

コンクリートを見渡してみると、俺が進んできた方向とは反対の方にコンクリートの終わりがあって土が見えてた。

あの時、左じゃなくて右を選んでいたら俺は生きて地上に出られた。モグラみたいに動けてたら地上に出られた。ミンミン鳴けたんだ。そう思うと泣けてきた。涙は出ないけど。

とりあえず悔しかったから木の幹にくっついてみた。

俺はまだ幼虫の体だった。羽化じゃなくて魂が抜けただけだったから。

セミの体の感覚なんてわかんないし、死か羽化かの区別も出来なかったのは仕方ないって。

そう思ったから一か八か羽化してやろうと思った。そしたら出来たんだよ。セミってのは死んでからも進化できる生き物だった。

背中が開いてスワーッと体が出てくる。なんか軽いんだこれが。そのまま羽を広げるとどこまでも飛んで行けそうだった。自分の事なのに感動的だった。

それなら樹液も吸えるかなと思ったけどさすがに無理だった。

口をぶっ刺してやろうとしたけど手応えみたいなものはなくて、コンクリートを抜けてきたみたいに、木の中に口はあるのに刺さってない状態だ。例えるなら、雲に手を突っ込んでるみたいな感じだ。

という事は、俺は木にとまってると思い込んでたけど、これ木にとまってるんじゃなくて木の真横に浮いてる状態なのか。

木には触れないんだもんな。羽も別にいらねぇじゃねぇか。羽化しなくても飛べるんだわ。

もっと高い所に上がって世界を見渡してやろうと思った時、コンクリートの中からセミの幼虫が浮き上がってきたんだ。

陰キャゼミだ。コイツも死んだんだな。俺はそう思って見ていた。

絶望感なんてもう無くて穏やかな顔してた。セミの顔なんて見分けられないと思ってたけど、自分がセミになったらわかるもんなんだな。穏やかなんだよ。

死を受け入れたセミだった。陰キャなんて言って悪かったよ。あんたは高尚な魂の持ち主だったんだな。

そんな事を思いながら見てると、そのセミはセミの形がぼんやりとしていって球体となって空へ上がっていった。

魂の形になって成仏したんだなって思った。心の中で手を合わせた。

あいつは死を受け入れて未練なく死んでいったんだな。そう思った時、なんで俺は成仏してないんだって気付いた。

セミとして生きたセミ生に未練なんて無いって。なんなら早く生まれ変わりたいって。出来れば人間に産まれたいって。金持ちの家が良いって。「俺を置いて行くなよ!おーい!」って空に向かって叫びたかった。
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