前世の記憶を持つセミの幽霊と少年の夏

なおちか

文字の大きさ
8 / 9

最後の笑顔

しおりを挟む
「洸、お父さんとお母さんに触れたいなら触れていい。」俺は言った。

「ダメだよ!僕が触ったらボロボロになっちゃうんでしょ?」

「うん。たぶん。だけど、また話せるようになる。」

「ホントに?」

「魂を引っ張り出せば、2人と洸は会って話せる。」

「ずっと一緒にいられるの?」

「それはわからない。どれくらいの時間3人でいられるかは。」

もし魂を抜き出す事が出来るなら、洸は両親とまた会う事が出来る。だけど、すぐに陰キャゼミみたいに成仏してしまう可能性が無いとは言えない。

それに、魂を抜き出せば、洸の両親は死ぬ。そんな事はわかってるけど、きっと洸は両親と会いたい、話したい、抱きしめて欲しいと思ってる。

だから洸はまだここにいるんだ。夏の思い出なんかよりも欲しいものがあるんだ。もし両親がすぐに成仏したとしても、この世界に両親がいなくなれば洸も成仏できると思う。

「洸、1階に降りよう。」

俺がそう言うと、洸は小さく頷いて歩き出した。扉をすり抜け階段を降り、また2人がいるリビングに行った。

2人を前にして正直俺はちょっと戸惑った。洸の為って思うけど、それが正しいのかわからないし、うまくいく保証もない。それに2人を殺してしまう可能性がある。

それでも、両親の憔悴した姿や成仏できない洸を見ると、きっとこれが正しいんだって思った。3人がまた一緒になれれば成仏できなかったとしても幸せだろうって。

洸が俺の方を見たから、俺は全身を使って頷いた。洸はゆっくりと歩き出し、母親の座る椅子の横に立った。そして右手を伸ばし触れようとした時、その手はピタっと止まり、その後ゆっくりと体の横に下りた。

「洸…?」

「セミさん…。」洸は背を向けたまま続けた。「セミさんは、生まれ変わったって言ってたよね?人間だったって言ってたよね?」

「うん」

「人間は、人間に生まれ変わる事は出来る?」

わからない。俺が次何に生まれ変わるのかもわからない。

「ねぇ、セミさん!」

知らない。わからないことだらけなんだ。

「僕はまた、人間になれる!?」

もしそうなれば、俺も嬉しいよ。

「また、お父さんとお母さんの子供に生まれたい!」

こちらを振り向いた洸の目は赤くなっていたけど、強い決意のような大きな思いを感じた。

そうか。一緒に死ぬ事じゃなく、また一緒に生きたいって思ったのか。こっち側じゃなくて、あっちの世界でまた生きたいって思ったんだな。

俺は、洸を成仏させてあげる事しか考えてなかった。魂があの世に行かなくちゃいけないなら、3人まとめてなんて酷いこと考えてたもんだ。

何もわからないし、幽霊に詳しくも無いし、生まれ変わりもよくわからない。でも、洸が望んでるようになってほしいと俺は思った。

「洸、なれるよ。またお父さんとお母さんの子に。」

「ホントに!?」

「うん。だって、洸がこんなにも強く願ってて、お父さんとお母さんは、こんなにも辛くて悲しいって思って、洸に会いたくて会いたくて仕方がないんだ。絶対に大丈夫。またここに戻って来れる。」

洸は笑った。その笑顔と同時に涙が落ちて、その涙は床に落ちるとスーッと消えた。涙が成仏したみたいだった。

そして洸はまた振り返ってお母さんの方を向いた。洸が両手を伸ばそうとした。

「ダメだよ洸!」俺は叫びながら洸の方へ飛んだ。

「あ、そうだ。抱きつこうとしちゃった。」そう言うと、洸は父親の前まで移動し、しゃがみ込んで顔をしばらく見ていた。

無言のまま数分が過ぎた時、何かを決意したように立ち上がると、洸は2人の丁度真ん中くらいに移動した。左右を見てブツブツ言いながら微調整して、父と母と同じ距離のポイントを見つけたようだった。そして、

「お父さんもお母さんもどっちも大好き。」洸は満面の笑みで言った。

「え?」両親が2人とも声を合わせ立ち上がった。

2人の反応にびっくりして、俺も「え?」ってなった。

「洸?いるのか」父親はそう言って部屋を見回した。母親も同じように壁や天井を見た。

だけど、洸はもういなくなってた。俺には何も言わずにあいつは消えた。まったく、最近の若いモンは礼の1つも言えんのかって思ったよ。いい顔で消えやがってよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。

あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

処理中です...