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第14話

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「……我の言葉が、原因なのか?」

 俺が思わずマロンに聞き返すと、マロンは申し訳なさそうに頭を下げる。

「いえ、問題は私にあるのです」

「それでは良く分からない。詳細を聞こうか。言ってみよ」

 内心は動揺しつつも偉そうに言う俺。
 けど、俺が原因の悲しい気持ちって何?

 ……。
 俺、ワカラナイ。
 女心、ワカラナイ。

 何かしたかな?
 もしかしてあれか?
 ガーゴイルを助けなかったからか?

 でもあれは、そんな余裕が無い突然の事だったし。
 あの男に対しては、ガーゴイル達だけでも余裕かなって思ったんだよ。

 その余裕が甘さであり油断だったわけだが……。
 『共に生きていく人が、そんな甘い考えでがっかりです。残念すぎて悲しいです』という、あれか?

 『あなたには失望しました』的なあれかな?

 だったら聞きたくない!
 聞きたくないったら、聞きたくない!

 俺は拒絶系の言葉は苦手なのだ!

 やはり時間をつくって改めて聞くことにする、と口に出そうとしたところで、

「我が君が仰いました、かわいい我が配下では無いと……。眷属の分際で図々しくも、そのお言葉にショックを受けてしまいました。……申し訳ございません」

「んっ……?」

 予想とは違う答えだぞ。
 しかし、かわいい我が配下では無い?
 俺そんな事を言ったか?
 
 『彼らは我が君のものです。……そして、この私も……』

 『確かにな。しかしわれは少し思い違いをしていた。かわいい我が配下達ではないようだ』

 言ったな。
 確かに言った。
 ガーゴイルが倒されたあと、確かに言った。

 あの時は目の前で起きている事に気を取られていたが、聞き方によっては、

 『我が君のものです。……そして、この私も……』
 『かわいい我が配下ではない』

 とも聞こえる。

 おおっ! 何となく分かってきたぞ。
 なるほど、そういう事であれば、

「いや、我はマロンの事は可愛いと思っている」

「ふえっ……」

 俺がそう言うと、マロンが嬉し恥ずかしそうな表情をする。
 と同時に、俺は自分が言葉の選択に間違った事にすぐ気が付いた。
 俺はマロンに対しては、他のモンスターとは違う感覚を持っている事を言いたかったのだが、

「いや、そういう意味では……」

 無いと言いかけて、……そういう意味でも可愛いと思い直す。
 しかし、だとすると何と言えばいいか分からない。

 否定したいが、否定出来ない真実もある。
 だがしかし!

『マロンの事は可愛いと思っている』

 おうっ! 

 まるでドンファンやジゴロの台詞だ。

 自分で自分に呆然とする!
 よくそんな台詞を真顔で言えたな!

 かと言って『やっぱり間違った。お前は可愛くない』と言うのか?

 マロンの方を見ると、顔が赤くなって固まっている。

 ……とても言えない。
 どういえば良いか……?

「……ところでマロンよ。一つ聞きたいのだが」

「はい、我が君」

「お前は食事が必要か?」

 俺の突然の問いに、一瞬虚を付かれたようにキョトンとしたあと、眷属は顔を赤くし

「はい、必要です……恥ずかしながら……」

 と恥じ入った様子で小声で答える。
 ……可愛い。
 その表情もまた可愛いな。

 しかし、あとで確認するつもりではあったが予想通りか……。
 どちらだろうとは思っていたが……やはりマロンは俺にとって他のモンスターとは違う存在のようだ。

 と言うのも、ダンジョンで生まれたモンスターは基本的には食事の必要が無い。
 なぜならダンジョンに生まれるモンスターは基本的にダンジョンコアと繋がりを持って生まれてくる。
 そしてダンジョンコアは常に一定の魔力供給をダンジョンマスターから受けており、この魔力をモンスターが使えるエネルギーに返還して供給するからである。

 この理論で行けば、ダンジョンで生まれたモンスターは食事が要らないのだから、もしかしたら『眷族の卵』も……。
 とも考えたが、マロンは食事が必要なようである。

 と言う事は、マロンはダンジョンモンスターとは違う存在と推測出来る。

 さらに、俺は人間としての特性を残している為か、食事を必要とする。
 恐らくマロンは俺の特徴を引き継いでいるのだ。
 この事からも、眷属であるマロンはダンジョンの下に生まれたと言うよりも、俺個人の下に生まれたと考えていいだろう。

 魂の繋がりがあるからそうかなとは思っていた。

 今後、食事を必要としない眷属が生まれるかもしれないが、結局ダンジョンモンスターにはない特徴のある存在だろう。

 そうであれば『眷属の卵』から生まれる者と、他のモンスターに対する感覚が違うのも当然だ。

 もっとも煎じ詰めればダンジョンコアは俺の一部だし、ダンジョンも俺自身の一部といえる。
 ゆえにダンジョンコアに繋がりを持って生まれるモンスターも、俺の下に生まれたともいえる。

 しかし、両者の俺との繋がり方は違う。

 ダンジョンモンスターはダンジョンコアを通して俺と繋がる。
 眷属は俺と直接、魂で繋がる。

 簡単に言えば、俺が会社の社長なら、ダンジョンモンスターは会社の社員。
 眷属は俺の家族と言ったところだろうか。

 言い換えれば『眷族の卵』と俺の魂は、鳥の卵と精の関係のようなものだろうか。
 俺の魂を得て、受精卵となる、と言ったところか。

 長々とした俺が思う方程式の証明ではあったが、ゆえに俺はマロンに対して他のモンスターより想い入れが強いのは不思議ではない。
 よって、マロンは可愛い! という結論に至るのだが……。

 が、細々と説明したほうが良いのだろうか。
 女心に対する正解がワカラナイ……。

「マロンよ」

「は、はい我が君」

 俺は別な言葉で言い直す事にした。

「可愛いというかだな。俺が言いたいのは……」

 マロンが少し不安気に、上目遣いになる。

「……はい、我が君?」

「我はお前の事を大切に想っている、と言いたかったのだ」

 やっと適切な言葉が出て来た。
 ……相手に可愛いと直接言うのは、流石に恥ずかしい。
 マロンも恥ずかしかったのだろう。

 大切な眷属。
 良い言葉だ。
 今後はこれでいこう。

 お互いの為にも良かったと、俺はホッと胸を撫でおろし……。

 んっ?

 俺がマロンの様子を見ていると、マロンが先程にも増して、赤くなり硬直する。
 
 あれっ? ……俺、また言葉の選択を間違えたのかな?
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