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6 真剣な眼差し

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ライトは、ぶつかってしまった事に
罪悪感を感じながらも、目の前の
彼女にドキドキしていた。
初めてあったころより、ますます
好きになってしまった。
使用人が張り切ったのか、いつもと
違う者が彼女に化粧を施したのか、
濃すぎてせっかくの可愛らしさが
少なくなっていて、残念だ。
化粧を落とした顔は可愛いだろうなぁ。
ジーっと見つめられたフィリーは、
照れてしまい証書にある、騎士団長の
名前ライト・シェルビーの名前と
その下の名前を不思議そうに指で
なぞっていた。
ライトは、自分の名前を彼女の白くて
すぐ折れそうな細い指でなぞるのを
見て、にやける顔を必至に食いしばり
堪えていた。
「ビュレッド男爵?」
「ああ、押し付けられた貴族位だ。」

「ライト、名誉な事だからちゃんと
話をしなさい。」
伯爵夫人、俺の義理の母が優しく
おっしゃっていた……。
"目は口ほどに物を言う"と義理の母の
教えの一つだが、そのとおり
この笑顔が俺にとって、怖いものの
一つだった。義理の父もこの笑顔には
めっぽう弱かった。
照れ臭かったのと、なかなか言い出せない
俺に痺れを切らしたのか、姉や弟妹たちが
言葉を継ぎ足しながら、多少の身内びいきも
入りながら、説明してくれたのだった。
戦いを未然に防いだ?
あの時はたしか…鍛錬の為、魔物を
狩ろうとしていたら、たまたま他の国の
あやしい者がいたから、少し痛めつけ
弱いもの1人だけわざと逃し、あとは
捕まえただけだ。
数日後、またちょっかいをかけてきたから
同じ様にして、3回目以降は叩きのめし、
相手国に手紙を書いたりだけだ。
そう言えばあの国、もう遊びに来ていないなあ。
今は、名前が変更になったみたいだ。
あまり、興味がないからウロ覚えだ。
数分間、話し続けた姉や弟妹たちと
目の前の公爵令嬢は打ち解けていた。
可愛い笑顔だ。
俺にも笑顔を向けて欲しい。
俺だけに笑いかけて欲しい。
なんだか悔しくて、俺のつ、妻なのに…
姉や弟妹をつい、睨みつけてしまった。
「早く、サインを。」
ついつい、大きな声を上げて言ってしまった。
彼女や公爵たちも一瞬、びくっと
なっていた気がした。
「は、はい…すみません。」
さらさらと名前を書き、目を閉じて
指先に傷をつけ血を垂らすと、
今度は、ちゃんと証書が光っていた。

婚姻成立。
今日から俺たちは夫婦だ。
もう、離さない。
「領地は断ったが、家だけはある。
よ、よければ、そ、そこで一緒に…。」
「は、はい。不束者ですがよ、よろしく
お願いします。」
とろけそうになる顔を必至に我慢しながら
ライトはフィリーを抱き上げ、教会に
走り込み、婚姻の証書を提出したのだった。
「……すまない。」
「えっ?」
ベールを付けて、お披露目する隙も
与えられないまま、猛スピードの中
ライトにしがみつき、気付いた時には
婚姻の証書は提出されていたのだった。
教会には、親族の誰1人も居なかった。
「もう…ガマン出来ない。」
「……。」

ライトの足に追いつける親族は
誰一人、いなかったのだ。
フィリーはライトの言葉にショックを受けていた。
この時、まだ2人は気付いていなかった。
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