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8 リリーとラド

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「リリーお嬢様、ここは冒険者に
とって最初の場所、リリーお嬢様の
冒険者としての原点です。」
「は、はい。」
「初心を忘れないで下さいね。」
「はい。」
ラドさん…様はまるで、先生みたいだわ。
だって金のプレートだし強いのね。

「ところでリリーお嬢様は、なぜ
冒険者になりたいのですか?」
「毎日、平凡な生活をしたくないの。
刺激ある生活、座学や貴族の地位では
味わえない生活、世の中の勉強と
色々な人の手助けをしたいの。」
「……。」
ラドは微笑んでいるのに、なぜか
りりーには、泣き顔に見えてしまったのだった。
リリーは、慌てて話題を変えようとしたが
慌てすぎて何も思いつかなかったのだ。

「あっ、つい力説しちゃったわ。
あとラドさん、私の事はリリーって
呼び捨てにしてください。」
「それは無理です。リリーお嬢様こそ
私の事"ラド"と呼び捨てにして下さい。」
「えー、それは私こそ無理よ。だって……。」
こんなにも素敵なイケてる男性を
呼び捨てなんか出来ないわ。
ラド様。様…そうよ、様よ。ラドさんじゃなく
様づけをしてもいいくらいだわ。
そのほうが、なんだかしっくりくるわ。

「だって、なんでしょうか?
……リ、リリーお嬢様?」
顔を赤く染め照れてるリリーを
ただならぬ雰囲気にラドは、少しひき気味だが
心配なので声をかけてみた。
「…あっ、ごめんなさい、ラド様。
どうかなされましたか?」
「…っ。それは、こちらのセリフです。
しかもなぜ、様づけなんですか?
あと…リリーお嬢様、お加減は大丈夫ですか?」
柔らかい口調でゆっくり話すラド。ラド
「お嬢様呼ばわりはやめて頂戴、ラド様。」
「その様呼びをやめて頂ければ、
善処します。」
「じゃぁ、ラドさ…ん。」
「使用人と公爵令嬢ですし、呼び捨てで
お願いします。」
「それはできないわ。無理よ。」
「では、私もリリーお嬢様の事、リリー様か
リリーお嬢様としか呼べません。」
「……うっ。頑固者。」
「ふっ、リリーお嬢様も…ですね。」
「んんっ。」
膨れてしまったリリーを見て、ラドは
眩しいものを見る様な目をしていた。

                 ***

数年前、ラドは双子の護衛として
ギルドを通して雇われた。
今までの仕事は、優秀な後輩たちに
任せあっさり引退してしまったのだ。
後輩たちに嘆かれながらも独り身のラドは、
気ままに冒険者をしていたが、
あまりにも早くレベルをあげてしまったので
ハッキリいって飽き飽きしていた。
それなりのお金は稼いだが、強い魔物は
遠くに行かないと、居なくなって
しまったのだ。狩り尽くした魔物が
増えるのも、時間の問題だ。
遠くに行くのもめんどくさがるラド。
ギルドの掲示板を見て、双子の護衛、
住み込み、期間、要相談と書いていた
メモを手にしたのだった。
そして、気まぐれに面談を申し込んだのだった。

髪の毛を染め子どもに恐れられないように、
ちょっと剣や魔法の稽古をつける気で、
気軽な気持ちで面談を受けた。
「12歳の双子の女の子ですか?」
ラドは少し落胆した。

「そうだ。私にはバレてないと思ってる
みたいなんだが……。特に姉のリリーは、
冒険者に憧れていて、独自で勉強しているが、
2人は兄弟の中でも破格に、魔力も強く、
特に姉のリリーは、頑固でおてんばだ。」
「はあ~、そうなんですね。」
彼女たちを、こっそりみるまでは
親の欲目だと思っていた。
庭で遊んでいるのかキャッキャと
子ども独特の声が響いていた。

異なる種類の魔力を全身に纏わせながら
見た目そっくりな2人は、木の剣で
打ち合いをしていた。
それも、猛スピードで互角。
しかも、隠密スキルも発動させていた。
こっそり練習?たしかに、見た感じは
木の剣の打ち合いも、他の者には
ゆっくりみえているはず。あれも、
彼女たちの意思なのか、無意識なのかは
わからないが、そう"'見せて"'いるのだ。
公爵も魔力は高いが、平均的な貴族の
魔力量より少し上って感じだ。
この双子の公爵令嬢は、平均を遥かに
上回っているし、新人の騎士以上だ。
このまま鍛錬を続ければ、いずれ
宮廷魔術師レベルになりそうだ。
将来が楽しみになってきた。

さあ、どのように関わろうか?
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