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歌?

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愛されたかった
愛してるといいながら
キズつくこの痛みに
誰にも気づかれないなら
早く楽(らく)になりたい
夢も希望もない場所に落ちるなら
感情ってものを先に消したい
渇望 絶望 忌み嫌われるモノになるなら
初めから存在したくなかった
いきたいのか死にたいのかわからない
こんな事になるなら
誰にも気づかれず
存在すらしたくない
このまま消えたい
消したい
神様なんかいない
いない

棺(ひつぎ)を用意しよう
みっともない自分を入れるために
消したい自分を入れるために
必要ない自分を入れるために
バカな自分をぶちこんで
さあ旅立ちだ



心が沈んでいくような歌詞を、澄んだ声の誰かが歌っていた。
何もかもあきらめたように冷たく感じる歌。
初めて聞いた時、よくわからない感情が湧き上がり、そして何かが心を引っかいた。
流行りの歌。
繰り返し聞こえてくる歌。
顔出ししてないボーカル。
その時は、なぜこの歌が流行ったのかがわからなかった。
だけど今ならわかる気がした。
私は捨て子の双子だった。兄と妹。施設育ち。
仲良くなったかもしれない人に、自分のことを話すとなぜか同情されながら離れていった。
かわいそう?とか、あわれみの言葉をよく言われたきがする。
あれは、なんでだろう?
私は"かわいそう"でも、"あわれ"でもないのに。
恋愛未経験、恋人いない歴イコール年齢だった私。
三十路突入。
豆腐やもやし並みのか弱さはなくなり、ずっしりとした桜島大根のようなたくましさはあるはず……。
たくましいから私、1人でも大丈夫だよ?
わずらわしい人間関係もあまりないし、いいよ?
このままだと40代になっても今の状態のような気がする。双子の兄は優しく可愛い感じ。
か弱いとかピュアという言葉は兄にピッタリかもしれない。
背の高さも私と同じ位だった。
平均?そう、平均身長よ?!たぶん。
んっ?よし、平均としとこう。
兄と違うところは、私はBL好きの腐女子でネガティブなところもあるし、たくましい精神あるはず?の矛盾した自分でもわからない感じの人間。
ついでに人見知り。
コミュ障ともいう、たぶん。
私だって……。
もう恋愛なんてこりごり……。
(うそつき、本当は……。)
でも、またあんな事になれば……。
(相手が悪かったとか見る目なかっただけ……。)
もう何もかもが億劫(おっくう)だわ……。
とある事があり、自分自身たくましくなったと思う。

「……**、あんな顔のやつ付き合えねーよ。ゲームに負けたからしゃーなしだし、お可哀想だから付き合ってやっただけ。」
「あはは、可哀想ー。」
「そうそう、俺って優しいから損な役回りばかりでお可哀想だろう。それに、あいつ……。」
数人の男女の笑い声が聞こえていた。
何かのゲームをし負けたから、嫌々私に告白したらしい。まだ、付き合い始めたばかりで2回目のデートだった。
私は"かわいそう"なの?
生まれ育ったところまでバカにされてしまった。
施設の保護者さんたちは、厳しくもあり優しく必要最低限の"あたりまえ"だとされる礼儀・マナーなどおしえてくれた。それなのに、私だけではなく色々な事をバカにされたのだった。
これは怒るべきなの?
でも、この人たちに関わるのはしんどい。
ほっといてもいいよね?
突然告白されてから約2ヶ月に入った所だったはず?
同じ仕事場だったが部署も違い、出会いもなかった。
年に数回の会社のイベントも最低限にか参加してない私は、その最低限に参加した会社のイベント帰りにいきなり告白されたのだった。
知らない人だったが、初めての事に戸惑いながらも嬉しいと思った。
「……。」
戸惑っているうちに、いつのまにか携帯番号やアドレス交換までしてしまっていた。
毎日のように数件の何気ないメールになんとなく喜びながらも、少しめんどくさいと思いながら最低限の返信をしていた。
数週間でやっと覚えたフルネームの人。
数人の男女の笑い声の中には、私の外見や内面、携帯のやり取りまで相手に話しながら笑っていた。
残業しているはずの"彼氏"だと思っていた人は、横にいた人に肩を抱き寄せながらキスをしていた。
「……っ!!」
あれ?なぜ"私"客観的に自分を見えてるの?

翌日から仕事場には早く行き遅くまで仕事をした。
もともと半ブラックな職場だったけど、自主的にも朝早くから仕事し夜遅くまで仕事をしていた。
接客も積極的にした。
「*****株式会社、お品代で領収書切って下さい。」
「えっ?」
舌を噛みそうな会社名役職を述べても、一度で聞ける店員さんはなかなかいない。
目の前のアルバイトらしき若い店員さんに何度も言ったが通じなかった。
メモ書きしようかしたが
「君、名前が上様、あとはお品代でいいよ。」
会社の経理課の先輩が店員さんに言うと焦りながらも書いていた。
他の部署からも人気ある先輩。
あの事があったから、会社の人たちとは仲良くなりたくないと思っていた。
押し付けられた幹事は引き受けたけど、最低限の事はしたからもう解放して欲しかった。
「三次会行くだろう?早くしないと、皆行ってしまうよ?」
身体は疲れてるし、はっきり言って家に帰って寝たかった。解放されたい、行きたくない、イヤだ。
だけど、行かない事によって私のある事ない事言われるのが怖かった。
もう……言われたくない。
「……はい。」
しばらくして、店員さんが来た。
領収書を確認すると、一瞬何も考えれなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
"上様 死なないで"
\98.477-
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
お店の記名が入った手書きの領収書。
あり得ない。
ドウイウコト?
上様って名前が?えっ?ええっ??
先輩が上様でいいと言ったからヨシとして、死なないで?ってナニ?
しなないで→シナナイデ→品ないで?お品代?
上様、お品代が変化して名前に?
ありえない。
「書き直してください。」
店員さんは、私と領収書に何度も視線を送っていたから、今度こそ、メモ書きし領収書の書き方を教えながら、店員さんに書き直してもらった。
あまりにも遅かったからか、また先輩が来た。
理由を話、破棄する領収書を見せると爆笑していた。
それをネタに、遅い私をその場で叱責(しっせき)する者はいなかったが、後々言われ続けることとなった。
"死なないで"
ウワサは尾ひれや腹びれ、ヒレとつくならなんでもついて行った。
"別れた男に未練タラタラで、自殺紛(まが)いのことをし、必死にひきとめてる"
"死なないで"と言ってもらいたんじゃない?と。
ウワサは面白いほど飛び交っていた。
彼だった人からの連絡には一切応じず、会社内でも顔を合わさないよう気をつけた。
自分の睡眠時間を削れば削るほど、仕事の成績だけはグングン上がった。
そんな毎日の私の祐逸(ゆういつ)の癒しは、携帯アプリの恋愛ゲームだけ。
性別関係なしのBL要素ありの甘い言葉をささやいてくれるゲーム。
少し課金すれば、おやすみからおはようのモーニングコールも設定可能なアプリ。
ちょっぴり課金もしてどっぷりハマってしまった腐女子ゲーム。
このゲーム、幼い頃にみた可愛い感じの夢の雰囲気ににていた。
だからなのか、普段節約を心がけている私が、ハンバーガーのセットをワンセット買えるくらいの課金を毎月し、楽しむくらいハマっていた。
終電に間に合う様に設定した時間、マナーモードの携帯が震えた。
無視し続けた同僚、あの日まで彼だと思ってた人の名前が表示されていた。
携帯が震え終わるのを、視線を外しながら待った。
震え終わると、設定した恋愛ゲームアプリの今の推しからのメッセージだった。
"普通の人?"からの電話もメールもいらない。
私には必要かないから。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
**ちゃん、今日もお疲れ様。
毎日頑張ってるね。
そんな**ちゃんを応援したいけど、
今日はもう遅い時間だよ。
それに、私もさみしいから
そろそろ逢いにきて欲しいな。
待ってるよ。
早く、逢いにきてね。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ゲームキャラからのメッセージを読みながら、現実ではあり得ないよねーと思いながら、心が軽くなった気がした。
早く帰って、(ゲーム)逢いに行こう。
毎日、サッとシャワー、たまのお風呂も早め、そして最低限の食事と最低限の事をしながら携帯ゲームをしながら寝落ち。
私の最後の記憶だった。
あぁ、まともにご飯食べたのはいつだったかなぁ。
だけど、推しのあの人今日も優しい声だったわ。
もう、思い残す事ないわ。
ああ"私"やっと死ねたのね。
よかった……。
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