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4、冷静に

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冷静に冷静になるのよ、私。
すぅーはぁー、すぅーはぁー。
心の中で何度も何度も深呼吸していた。
落ち着くどころか私の心臓はドキドキし過ぎて、なかなかドキドキだけはなおせなかった。
建前だけはなんとかなったと思う……ハハハ。
私たちは冷静になって会話を試みた。
艶々した長い黒髪に赤い瞳。
ルビーとかガーネット?炎の石、紅い宝石、メルヘンちっくに言うならば、可愛いうさぎちゃんのお目めってかんじのお目め。
語彙力(ごいりょく)がない私だけど、とにかく紅い系のすっこく綺麗な目ってこと。
瞳の奥まで澄んでいて、キレイでずっと見ていたくなる瞳だった。
長い艶々した黒髪に触れてもいいかな?
声かけていいよって許可してもらってからよね。
ドキドキドキドキ。
脈が半端ないほどの動きをしていた。
リアルに長髪はなかなか居なかったし、艶々の黒髪自体あまりいなかった。
イケメンって言葉はこの人の為の言葉だわ。
イケメン、超超超イケメン。
超がメガ盛り?のイケメン。
きれいな男の人で無味無臭。
いや、あれ?無味無臭っ、いや、味見はしてない。
うん、変な意味はない。
とにかく、嫌な匂いはしない。
澄んでいる空気ってこんな感じかなって感じ?
自分でも何を言ってるか、わからなくなってきたわ。
色々考えていたのとあまりにも集中していたからか、相手が身動ぎするまで相手を見つめすぎていたことに気づかなかった。
相手のキレイな瞳、そこに私が写っていた。
お人形さんの様な可愛い顔立ち。
自画自賛。やばっ、あの神様のようになってしまう。
だけど、私が手を動かすとその通り動くし、柔らかな旨、くびれた細い腰、触り心地の良い柔らかなほっぺは前世ではありえない感じだった。
「うっ…そ、そんな至近距離で見つめないでくれ、それに…………。」
「ご、ごめんなさい。あ、あの~あまりにもキレイな目というか、あ、あなたの瞳がキレイだったし、手触り抜群の長い髪の毛も最高で、つい……。」
「!!!」
少し離れた場所からでも、彼の身体がビクッとしたのがわかった。
「ご、ごめんなさい。いきなり触ってしまって、本当ごめんな。最高でした。」
「……。」
冷静に、冷静にならなきゃいけないのに、私はやらかしてしまったことに気づかないまま、変な謝罪をした。そして相手が言葉を失っているのを良いことに、相手をガン見しながら、ぎこちない会話を一方的にしたのだった。

怪我をしていないか確かめるための先程の私の発言の誤解もとけたと同時に、会話も態度もぎこちなかったがそこそこ出来たと思うわ、うふふ。
初対面で身体を見せてって感じのセリフは、おかしいよね。まさか変態と思われてるかもしれない。
背中に冷や汗が滝の様に流れた気がした。
うわぁ、私のやばい冷や汗でこのきれいな人汚れないよね?汚れないでぇー。
なんとか挽回しなければ、言葉使いは品行方正おしとやかなお嬢様っぽい喋り方をしなければ……。
ん?あれ?それってどんな喋り方?
丁寧語、敬語……とりあえず気をつけよう。
よし、私なら大丈夫、かも…。

「お怪我がなくて良かったです。改めまして私レイチェル・ベルローズと申します。」
「アーテル・ネーロ・フォルブランだ。」
すっっっごいイイ声。
私鼻血だしてないわよね?
やばい、やばい、声までイイなんて神様はなんちゅう事したんだ、神の域のすごさよ。
「フォル、ブラン様。」
「アーテルでいいベルローズ嬢。」
フォーーーーーって叫びたい!!!
「フォ、アーテル様私のことも名前であるレイチェルかレイとお呼びください。」
「……レイ。」
「アーテル様。」
「アーテル」
ああああああああああああ……!!!
「アーテルさ…」
「アーテル!」
「ア、アーテル(様)。」
「…まあ、いいだろう。」
なんなの、なんなの、なんなのよぉー!!
鼻血で出血死とか、ドキドキしすぎて心臓麻痺とか、冷や汗たらたらで乾燥してカピカピに干からびて死んじゃうの私?
はあ~っとアーテル様に小さくため息をつかれてしまった。
あってまだ1日も経っていないのに、呼び捨てでの名前呼びゲットしました。
ちなみに私(わたくし)レイチェル・ベルローズ、ベルローズ家は公爵、王族の次に来る高位貴族である。
アーテル・ネーロ・フォルブランであるアーテル様はフォルル家という伯爵家だったけれども、貴重な闇属性でしかも魔力量も国一番で強力という事で、かなりの昔、その当時の国王がアーテル様に一代限りで領地無しのフォルブランという男爵位を与えたのだった。
魔術塔の魔法省筆頭、今では男爵から侯爵にまでなっているアーテル・ネーロ・フォルブラン様。
魔物退治はお手のもので、国の有事や結界や魔道具まで幅広く手がけている凄腕の持ち主。
国王ですら一目おくすごい人物にお姫様抱っこされたワタクシ……。なぜここに残念なイケメン神様は私を放りだしたのだろうか?
アーテル様のイケメン。
「……素晴らしいとしか言えないわ。」
「んっ?」
「な、なにもございませんわ、オホホのホ。」
えーと、ここってアーテル様の私室なの?
研究室?
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