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にじゅうはち、ご飯作り

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あらぬ世に 身はふりはてて 
大空も 袖よりくもる 初しぐれかな

……世の中は変わった。
お館様は相変わらず、和歌をよんだり
たびたび村を訪れ川柳などの言葉
遊びをしながら世の中を見ていた。

命やは うき名にかへて 何ならん
ま見えん為に おくる黒髪

とある女性は髪を切ってお館様に歌とともに
送りつけ、会わない事を誓った。
武家として生きていくことが
できなくなったお館様は、もう一つの名を
捨てた。とある山のの霊山に篭り、
人生のすべてを風雅の道に生きようとした。
お茶を嗜(たしな)み、器(うつわ)なども
作り、同時に何かに取り憑かれたかの
ように…か弱き者たちを救っていった。

    ***

無事に花嫁行列を終えた姫様たち。
一国の城持ちのお殿様となった
姫様の旦那様。
旦那様の側室となった元正室と
ひと段階落ちた側室。
姫様は正室として多くの侍女と
護衛をはべらすこととなった。
おりんと小助は本来なら部屋は別に
離れた場所に与えられていたが、
姫様のご好意なのか、周りからの
アレコレと要らぬお節介なのか……。
いずれかはわからないが
なぜか部屋は隣同士に与えられていた。
姫様は旦那様と共に初夜を過ごした。
「殿方との初めては、多少痛かったが
まあ、なんだ…。気持ち良かった。」
と、りんに言葉を残した。
りんの中では、初夜とは殿方と
"痛気持ちいい事をする日"と
インプットされたのだった。
初夜を終え何度か目の月の満ち欠けを
見つめていたが、姫様と旦那様との
間には子は出来なかった。
"歳の差が……。"
"夫婦仲が……。"
"気が強い女子(おなご)だから……。"
城の者たち、姫様のお人柄を知らない
者たちは口に色々なモノをのせ
ウワサを広めていった。
中には旦那様に側室を勧める者まで
現れたのだった。

「おりん、妾(わらわ)のウワサは聞いたか?」
「はい。良いのも悪いのもありますね。」
「ははは……。いいのもあるのかぇ?」
「はい。たくさんありますよ。」
「……。」
「姫様の容姿が美しいとか、あとは
立てば芍薬(しゃくやく)
座れば牡丹(ぼたん)
歩く姿はユリの花、匂いは
白檀(びゃくだん)で落ち着く匂いですね。
姫様は香モノを焚きしめてますものね。」
「後半はおりんらしいな……。」
姫様は照れ笑いをした。
「姫様の外見が素晴らしいのは間違い
ないんですが、中身は……。」
「……やはり、おりんも妾の中身が…。」
姫様はションボリしてしまった。
そんな姫様をしり目に、りんは
にぎり拳を作り話続けていた。
「姫様は人と話す時、目を合わせて下さいます。」
「……は?それは、当たり前じゃ。」
「いいえ。残念ながら当たり前では
ないんですよ。だって、姫様は
身分が高くて尊いお人なんですよ。」
りんは、姫様にニッコリ笑いかけていた。
「……?!」
「身分の高い人のほとんどは、偉い?
のかもしれませんが残念ながら
他の人たちにも偉ぶって、人を
問答無用で斬りつけたり、暴言、
暴力を振るう人…お方も多数いました。」
「……。」
「姫様は、身分も高いのに偉ぶらず
村の人や子と目線を合わせて
ひざを付き、抱きしめていらしたそうですし
私が居た所でも、立ち寄った村々でも
すごく評判良かったですよ。」
姫様は顔を赤くし照れていた。
「私がお茶屋で働いていた時ですら
私のようなものに、話しかけて
下さいました。しかもタメ口で
話して欲しいって言われたのには
驚きましたから。」
「……おりんには、そのまま
接して欲しかったんじゃ。」
「はい。ありがとうございます。
姫様は、優しいお人です。
身分の低いモノにも人として
みてくださる、素晴らしいお方です。」
「……おりん。」
りんは姫様を、真っ直ぐな視線でとらえていた。
「姫様の外見は言うことなしです。
きれいです。かわいいです。美しいんです。
あとは、物腰が丁寧で、多少お茶目な
ところはありますが、身分はかなり高いのに
なぜか安心して話せるんです。あとは
私みたいな者の話を聞いてくださるし、
口調もそこそこ穏やか、髪の毛や
お肌、爪などまでキレイ過ぎます!!」
りんは姫様がどんなに素晴らしい人なのか
一つ一つ細かく語り、姫様は完全に
照れてしまった。

            **

「おりんは、子作りの事に関して
何かわかるか?」
「ひ、姫様?!」
「なかなか子どもが出来ぬ状態だから
まわりから、やんや言われておるんじゃ。」
「……。」
「姫様と、大殿のとこで先生に
習った程度の知識しかありません。
あとは、子を産んだ方がおっしゃって
いた事によると、身体は冷やしたらダメとか
帯をキツく締め過ぎたらダメだとか、
あとは食べ物は、刺激物?辛い物とか
味が濃過ぎるのはダメとかですかねぇ?」
りんの言葉に、姫様は考えていた。

「……おりん、以前のようにしばらく
おりんのご飯が食べたい。出来れば
微力ながら妾も手伝うぞ。」
「……えっ?」
「我が旦那様も、体調があまり
よろしくない時があっての、身体の
震えやら痛みもあるそうなんじゃ。」
「震えや、痛み?」
りんは、考えてしまった。
きのこ類や毒草などをなんらかで
間違えて食べてしまったのか?
ここは大きなお城だし、しっかりした
料理番がご飯を作ってるはず……。
身分の高いものは、毒を心配しなければ
ならないから毒見を介してるうちに
温かなご飯が冷めきり、冷たいご飯しか
食べれないとか……。
身分があっても、温かな美味しいものが
食べれないなんてかわいそうっと
黙って考えているりんがそう思っている
事を、姫様は知らなかった。

毒見役が姫様と姫様の旦那様それぞれ
お二人に付いているので、姫様の旦那様が
そういう症状なら、毒見役の方も
きっと同じ症状が出るはず……。
だけど、幸いなことに毒見役の方は
ずっと同じ方で元気らしい。
あとは、稀(まれ)にあるという
身体に合わない食べ物なのか?
(アレルギー)
「姫様?それは特定の食品を
お召し上がりになられた時に
それらはおこりますか?」
「いや?婚儀が終わってからは
2人とも忙しくて食事を摂るのも
邪魔くさい時もあるくらいで……。
それでも、一汁一菜は心がけてる
つもりじゃ…、一人で食べる
食事はわびしくてな……。」
「……姫様。わかりました。
台所を使わしていただけるなら
また、お作りしますよ。」
姫様の表情は見違えるように
明るくなっていた。
「ありがとう、おりん。
それでは、早速……。」
「えっ?えっ?!えぇぇ~!!」
姫様にがっしりと手を引かれながら、
いつぞやの行列の様に、旅のメンバーである
侍女たちとせつとあきも一緒に
ぞろぞろと台所までの道のりを
笑顔で歩いていったのだった。

「本日の妾(わらわ)と妾の旦那様の
食事を作ってくれる、大切なおりんじゃ。
皆の者、仲良くしてくれ!!」
「……!!」
言葉は出ないまま、ペコリと頭を下げては
見たが、料理番の数人に屈強な
体つきをした男性もいたのだった。
そして、なぜか怖く感じてしまった
りんであった。

台所にさまざまな食材があり、
調理に使用する調理器具など
睨みつけるような鋭い目で説明を受けた。

ナッツ類:アーモンド、落花生など
さまざまな緑黄色野菜、アボカド、春菊、
かぼちゃ、ほうれん草、ニラなど
魚貝類、うなぎ、あこうだい、牡蠣、
いわし、ししゃも、にしん、さば
金目鯛、サンマ、いわしなど
穀類:小麦胚芽、胚芽米など
レバー類:豚レバー、牛レバーなど
いも類:山いも、里いもなど
海藻類:ひじき、わかめ、昆布など

「具だくさんのお味噌汁と混ぜごはんの
おにぎり、あとはお野菜のごま和え
甘味は、よもぎ団子作りましょうか。」
「「「「「「わぁー!!」」」」」」
姫様と侍女たちが喜んだのを見て
その場にいた食事係たちは
苦々しい表情をしたが、それに
気付かないりんだった。
「妾(わらわ)も手伝うぞ!!」
そう言って豪華で重そうな着物を
数枚脱いだ姫様に、お城の食事番たちは
驚き、また顔をしかめたのだった。
りんたちにとっては、見慣れた光景
だったので、特に気にすることなく
以前の配置で調理に取り掛かったのだった。

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