4 / 65
第一話 暴れん坊王子は麻薬栽培を許さない
1−4
しおりを挟む
コンコン、とドアがノックされるが返事をする間もなくドアは開けられる。
スープの匂いと馴染み深い気配が寝室に入ってきたことで僕は少しホッとしてしまった。
「レプラ……」
「事情は承っております。
災難でしたね」
王宮内で過ごすレプラの立場は僕の近侍、有り体に言えば専属の世話係である。
他の女給たちと同様にメイド服に身を包み、金色の癖毛をバレッタで後ろにまとめている。
彼女は淡々とそう言うと、食事の乗ったお盆をテーブルに置き、ベッドで布団をかぶってうずくまっている僕に横にどっかりと腰を下ろした。
「聞いておくれ、レプラ。
僕は————」
愚痴を吐こうと口を開くと同時に、レプラは僕の頭を抱き寄せ自分の膝に載せた。
「聞いてあげますよ。
そして甘やかして差し上げます。
だから思ったこと感じたこと、全部私に吐き出してください」
彼女の細長い指が僕の前髪を掻き分ける。
耳と頬に柔らかく張りのある太ももの感触を感じていると、幼子に返った気分になる。
「ねえさま……」
ふと、僕はもう二度と呼ぶことができない人のことを口走ってしまう。
だけどレプラは聞かなかったフリをして僕の肩を撫でてくれた。
レプラに全部吐き出した。
サイサリスが悪と報じられていないことの怒りも、父上を怒らせてしまったことの申し訳なさも、民に嫌われてしまった自分はどうなってしまうのかという不安も。
相槌を打ちながら聞くだけだったレプラが、ふと僕に語りかける。
「後悔、なされているのですか?」
「後悔?」
「悲しい。悔しい。怖い。恥ずかしい。ムカつく。
得たくない感情を得てしまったのです。
無かったことにしてしまいたいものではないですか?」
レプラはやさしい。
けどいじわるな時がある。
なかったことにしたいかって?
そりゃあそうしたい。
父上に怒られることもなく、新聞にあんなひどい書かれ方をしなくて済むなら。
だけど、僕がああしなければ今でもラクサスは私欲のために悪事を働いていただろうし、何人もの命が奪われていた。
なかったことにするというのは、彼らを救わなかったことにするということだ。
「ううん……後悔なんてあるわけない。
だって僕は民を救ったんだ。
憲兵や他の貴族は見過ごして動こうとしなかった。
僕にしかできない務めをやり遂げたんだ」
「そのとおりでございます。
たしかに敵に回した者もいるでしょうが、あなたの行いに感謝している者も必ずいます。
殿下は正しいことをされたのですから」
「そっか……」
僕はレプラの言葉を信じることにした。
彼女の体温や声が僕に優しいまどろみをくれる。
毛羽だった心が落ち着いて、穏やかに眠りにつくことができた。
スープの匂いと馴染み深い気配が寝室に入ってきたことで僕は少しホッとしてしまった。
「レプラ……」
「事情は承っております。
災難でしたね」
王宮内で過ごすレプラの立場は僕の近侍、有り体に言えば専属の世話係である。
他の女給たちと同様にメイド服に身を包み、金色の癖毛をバレッタで後ろにまとめている。
彼女は淡々とそう言うと、食事の乗ったお盆をテーブルに置き、ベッドで布団をかぶってうずくまっている僕に横にどっかりと腰を下ろした。
「聞いておくれ、レプラ。
僕は————」
愚痴を吐こうと口を開くと同時に、レプラは僕の頭を抱き寄せ自分の膝に載せた。
「聞いてあげますよ。
そして甘やかして差し上げます。
だから思ったこと感じたこと、全部私に吐き出してください」
彼女の細長い指が僕の前髪を掻き分ける。
耳と頬に柔らかく張りのある太ももの感触を感じていると、幼子に返った気分になる。
「ねえさま……」
ふと、僕はもう二度と呼ぶことができない人のことを口走ってしまう。
だけどレプラは聞かなかったフリをして僕の肩を撫でてくれた。
レプラに全部吐き出した。
サイサリスが悪と報じられていないことの怒りも、父上を怒らせてしまったことの申し訳なさも、民に嫌われてしまった自分はどうなってしまうのかという不安も。
相槌を打ちながら聞くだけだったレプラが、ふと僕に語りかける。
「後悔、なされているのですか?」
「後悔?」
「悲しい。悔しい。怖い。恥ずかしい。ムカつく。
得たくない感情を得てしまったのです。
無かったことにしてしまいたいものではないですか?」
レプラはやさしい。
けどいじわるな時がある。
なかったことにしたいかって?
そりゃあそうしたい。
父上に怒られることもなく、新聞にあんなひどい書かれ方をしなくて済むなら。
だけど、僕がああしなければ今でもラクサスは私欲のために悪事を働いていただろうし、何人もの命が奪われていた。
なかったことにするというのは、彼らを救わなかったことにするということだ。
「ううん……後悔なんてあるわけない。
だって僕は民を救ったんだ。
憲兵や他の貴族は見過ごして動こうとしなかった。
僕にしかできない務めをやり遂げたんだ」
「そのとおりでございます。
たしかに敵に回した者もいるでしょうが、あなたの行いに感謝している者も必ずいます。
殿下は正しいことをされたのですから」
「そっか……」
僕はレプラの言葉を信じることにした。
彼女の体温や声が僕に優しいまどろみをくれる。
毛羽だった心が落ち着いて、穏やかに眠りにつくことができた。
0
あなたにおすすめの小説
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
誰からも食べられずに捨てられたおからクッキーは異世界転生して肥満令嬢を幸福へ導く!
ariya
ファンタジー
誰にも食べられずゴミ箱に捨てられた「おからクッキー」は、異世界で150kgの絶望令嬢・ロザリンドと出会う。
転生チートを武器に、88kgの減量を導く!
婚約破棄され「豚令嬢」と罵られたロザリンドは、
クッキーの叱咤と分裂で空腹を乗り越え、
薔薇のように美しく咲き変わる。
舞踏会での王太子へのスカッとする一撃、
父との涙の再会、
そして最後の別れ――
「僕を食べてくれて、ありがとう」
捨てられた一枚が紡いだ、奇跡のダイエット革命!
※カクヨム・小説家になろうでも同時掲載中
※表紙イラストはAIに作成していただきました。
神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです
珂里
ファンタジー
ある日、5歳の彩菜は突然神隠しに遭い異世界へ迷い込んでしまう。
そんな迷子の彩菜を助けてくれたのは王国の騎士団長だった。元の世界に帰れない彩菜を、子供のいない団長夫婦は自分の娘として育ててくれることに……。
日本のお父さんお母さん、会えなくて寂しいけれど、彩菜は優しい大人の人達に助けられて毎日元気に暮らしてます!
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
追放された荷物持ち、【分解】と【再構築】で万物創造師になる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~
黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーから「足手まとい」と捨てられた荷物持ちのベルク。しかし、彼が持つ外れスキル【分解】と【再構築】は、万物を意のままに創り変える「神の御業」だった!
覚醒した彼は、虐げられていた聖女ルナを救い、辺境で悠々自適なスローライフを開始する。壊れた伝説の剣を直し、ゴミから最強装備を量産し、やがて彼は世界を救う英雄へ。
一方、彼を捨てた勇者たちは没落の一途を辿り……。
最強の職人が送る、痛快な大逆転&ざまぁファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる