流刑王ジルベールは新聞を焼いた 〜マスコミの偏向報道に耐え続けた王。加熱する報道が越えてはならない一線を越えた日、史上最悪の弾圧が始まる〜

五月雨きょうすけ

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第三話 これは趣味ですか? いえ使命です。

3−4

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 隠し通路から自室に戻り、ウイッグや女物の衣服、胸に詰めたパッドを取り外し化粧を落とす。

「趣味の時間はご堪能されましたか?」

 私の背後で意地悪そうに笑うレプラ。
 本当に離れたところから見ていただけだったな、こやつ。

「これは趣味じゃない。
 何度も言ってるだろう。
 市井の様子を肌で感じるために必要な調査で」
「ふーん……
『おやめなさい!娘を蹴り倒すなど父親のやることですか!』」

 私のセリフを丁寧に再現するレプラ。
 声真似上手いな……
 裏声気味に喋った私の声にそっくりだ。

「どうして正体を明かさなかったのです?」
「王が女装して城下を徘徊しているなど、それこそ言い訳ができん。
 こればかりは捏造だと反論できんからな……」
「心配なさるならそんな変態趣味は辞めてしまえば良いのに」
「だから趣味じゃない! あと変態と言わないでくれ!
 これはマスコミを欺く策略なのだ。
 いくら奴らがめざといと言ってもまさか白百合のような麗人に王が扮しているとは夢にも思わんだろう。
 理に適っている」
「成程。実益を兼ねた趣味ということですね」
「……お前が私を痛ぶるのも趣味の内か?
 ああ、それにしても危なかった。
 シウネとかいう学士はなかなかに目敏い。
 私が女装していることを見抜くとは。
 まあ王だということまではバレてはいるまいが」
「いや、バレてるでしょう。
 だってシウネ・アンセイルですよ」

 レプラは私を笑う。
 どういう意味だ?
 シウネ・アンセイルが何だって………………シウネ?

「あ……あ、あれ?
 シウネってたしか」
「半年ほど前、陛下も御出席された王国総集学会の論文発表において唯一学生の身分で登壇した天才女性学者ですよ。
 陛下も握手されて『君のような天才を産んでくれた両親に感謝したい』なんてこと言ってたじゃないですか。
 マスコミに曲解されて『美人女性学者を陛下が孕ませたいと懇願』なんて記事を書かれて」
「あああああああっ!!
 それだっ!
 嫌な記憶と共に忘れようとしたあれだ!
 って、シウネとやら全然見た目違ったぞ!
 あの時はもっと煌びやかで」
「そりゃ陛下をはじめ貴人が多数参られるような会場に粗末な格好はしていけませんよ。
 彼女は良くとも大学側が許しません。
 おそらく、指導に当たっている教授あたりが身なりを整えさせたんじゃないですか」
「いや……それにしても化け過ぎだろ……
 女って怖い」
「女装して周りを化かそうとしていた陛下もかなり怖いですよ。
 ま、彼女はそんな天才ですので陛下の顔をキッチリ覚えてらっしゃるでしょう。
 だから女装も見破られていると見て間違い無いかと」
「……またマスコミに苛められる」
「自業自得です。
 どうせ何やったって好き放題書かれるんですから、気になさらない方が良いですよ」

 この国で面と向かって私にここまで物を申せるのはレプラだけだろう。
 昔はもっと優しかった気がするんだが、まあ今は今で気楽で接しやすいな。
 陰口を叩く輩ばかり相手にしていると歯に絹着せぬ物言いとは心地良いものだ。

 だが、レプラの言うことも一理ある。
 そしてシウネの姿を見て思ったこともある。

 誰になんと言われようと、やらねばならないことを私はやっているのだ。
 シウネが学問に理解なき父親に暴力や暴言を受けようとも今はまだ役に立たない研究に取り組み、未来の役に立てる事を夢見ている。
 臣民がそうであるのに王である私が傷つく事を恐れていてどうするというのだ。

「レプラ。王国教養大学について調べてくれ」
「早速えこ贔屓ですか?」
「たわけ。我が国を代表する最高学府を卒業した人間が貧乏学者になるしかないなど国家の損失だ。
 事実確認と問題の洗い出しを頼む。
 王国の未来を築くのは彼らの知の積み重ねだからな」

 そう伝えるとレプラは一瞬だけニッコリ笑い、かしこまりましたと言って下がった。
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