Paradox world

紅 匠

文字の大きさ
18 / 26
三章 さあ行こう。この世界の真実を知るために

官邸への道のりは遠く、険しい。

しおりを挟む
 荒川さんの死で完全に意気消沈した僕らはただまた強まった雨がおさまるのをただただ待つのみだった。一時間、二時間と全く会話もなく、ただ黙り込んで時間が経過するのを眺めるだけだった。
やはり、仲間を失うというのは皆辛いものなのだ。


 あのまま何もせず、どれくらいの時間が経っただろうか。体感的には約2時間ほど。でも本当はもっと経っているのかもしれない。待機していたコンビニの外に降っている雨もまた落ち着き、気づけば止んでいた。「そろそろ動こう」と提案しようと瞼を閉じ俯いている冬樹さんに声をかけに行った。

「冬樹さん?冬樹さ~ん?」

とんとんと肩を叩く。でも反応はない。頬を触る。まだ暖かい。

「冬樹さ~ん?そろそろ動きましょう」

ゆっさゆっさと彼の体を揺らす。「んん...」と低い唸り声が聞こえたが、起きる素振りは見せない。どうした物かと僕は思考を巡らせる。色々考えたが、死んでいる可能性は無に等しいから無しにした。となると、疲れきって待機中に眠ってしまったのだろうと、そういうことにしておいた。よく周りを見渡すと、鰆さんも、瑞稀も沙綾も皆眠っていた。

「今の状況だけでも確認するか...」

ぼそっと呟いた僕はいつやらに手動になったドアを開け、外を確認する。


「嘘だろ...?」

ドアから覗いた風景は、朝とは打って変わって地獄のようだった。街路樹は根をこそがれ、皇居の堀は泥水になり、今にも溢れそうなほど増水していた。ところどころ泥のようなものが道端にあったことから、おそらく少し溢れたのだろう。

「本当にこの世界は、僕らを潰しに来ているな...」

そう確信した。
そして僕はカバンの中にしまっていたスマホを取りだし、時間を見る。唯一、時間を確認できる手段だ。充電器が無くなれば、それは終わりを示している。

「えーと...今の時間は...16時...?」

たしか僕らが駅を発ったのは10時頃。そして大雨で道を塞がれ約1時間。荒川さんを探して、ここに来たのが12時頃だと仮定すると、既に4時間が経過している。今日の行動はもう不能だと判断した僕も棚にもたれかかって眠るのだった。



 朝の日差しに目を突き刺され、僕は目覚める。周りの仲間はまだ眠っていた。

「まだ寝てるのか...」と少し不安になった僕は一人一人、体温を保てているか確認する。一通り確認したが、死んでいる者はいなかった。


 外はいい天気だった。今日のうちに頑張って官邸に向かいたいところだが、何せ他の仲間が起きて来ない。
僕は適当にノートとボールペンを取って、ノートに今日どう動くかを思案し、書き込んでいた。


「和泉、今、何時だ?」

少し掠れた声で目覚めたての冬樹さんが聞いてくる。

「今は、朝の8時です。」

咄嗟にスマホを確認し、時間を伝える。と、

「え?じゃあ俺たち、待機している途中で全員眠ってたってことか...?」

「はい。そうです」

「本当か?」

「本当です。」

まさかの状況に彼も軽くパニックになっている。

「とりあえず、皆を起こしましょう。」

「そうだな。」

とりあえず先に他の仲間を起こしてから、今日のことを話し合うことになった。

 みな起床し、集まった所で先に僕が渡しておいたノートを冬樹さんが読み上げる。

「本日は、官邸を目標に、遠回りにはなるが、気象庁本庁側を通って行く。皇居をぐるっと回るってことだ。道のり的に辛いものはあると思うが、頑張ってくれ。」

 全員納得したように頷き、移動の準備をする。

「みんな行くぞ」

そう冬樹さんが言い、コンビニを出る。それに追随して行動を開始した...



 数十分?いや、1時間ほど歩いただろう。ようやくして、気象庁本庁が見えてきた。だが、まだ道は遠い。

 でこぼこして、時折陥没して、崩れた建物の瓦礫に邪魔をされ、また1時間くらい。時折迷って、時折誰かがつまづいて。ようやく英国大使館が視認できた。まだまだ官邸までは遠い。


 休憩を挟み、またでこぼことした道を歩く。ひたすら歩く。六本木通りを通って、やっとこさ官邸に繋がる路地を見つけた。

「ここだな...」

冬樹さんは興奮交じりの声でつぶやく。あと少しだ。

 数メートル進んで、上を見上げる。そこには厳重な警備が施された門と一面ガラス張りの建物が目に入る。

「やっと...やっとだ...」

感動と達成感のあまり涙がこぼれそうだった。

「中に入ろう!」

これで1つ目の関門を超えることが出来た。
次はここの世界の真実を知ること、最後はこの世界から元の世界へ戻ることだ。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...