Paradox world

プロローグ

Paradox World

　大型モニターに表示された数字は、とっくの昔に000を表していた。
　担当者が自身の時計を確認した後、大月首相の方を見て頷いた。

「無事PX現象は通り過ぎたものと思われます」

会議室中に歓声が上がった。各省庁の責任者の顔にも笑顔が浮かんだ。
　大月は田上官房長官を見上げた。

「ここ直近の間で死亡事件や底が起こっていないか調べてくれ。」

「了解しました。。」

　田上が警察庁の人間と打ち合わせるのを見届け、大月は腕組みをして瞼を閉じた。どうやら天変地異のようなこと誇らなかったようだ。だがまだ安心はできない。I-PXが起こっている間に知性が消滅すれば。－つまり人が死ぬようなことがあれば、タイムパラドックスが起き、部分的に歴史が変わる恐れがある、というのが専門家たちの見解だった。ただしそれがどの程度のものなのかは誰にもわからないらしい。

「総理」

　耳元で声がした。横には田上がいた。

「現時点で確認できるのは事故が一件、事件が一つです。」

「事件というのは？」

「強盗殺人犯を追っていた警官が一人、殉職しました。警視庁の管理官だったそうです。」

「警視庁？よりにもよって警官か」

大月は口元をゆがめた。

「事故というのは、交通事故か。」

「はい。中野区で、会社員の運転する車が歩道に突っ込みました。乗っていた会社員二人と、歩道にいた会社員が死亡したとのことです。」

「すると、全部で四人か。まあ仕方ないか。というか、四人も死んで、特に何の影響も出ていないようなら、パラドックスなんて起きてなかったんじゃないか？」

「いえ、それはわかりません」

宇宙航空研究開発機構JAXAからきている担当者が言った。

「以前ご説明したように、これから二週間後に現象の振り戻しが来ます。それが過ぎてからではないと、なんとも言えません。」

「振り戻しか。その時にも、人を死なせちゃならないのだな」

「そういうことですね。」

担当者は頷いた。

「次の現象が起きた時に、今回のパラドックスによる影響が判明するはずです」

「そうか...」

ぼそっとつぶやいた大月はまた瞼を閉じ、何かを考え始めた。