呉れ呉れ

灰寂

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「そろそろ行くか。」

だんだんと賑わってきた食堂を横目にヒュドが言う。ヒュドと僕は食べ終わっていたが、アルは席に着いたばかり。まだ食べ終わっていないのだ。そう思ってアルの方を見る。

「俺のことは気にしないで~。」
そう言って、アルは笑いながら手を振った。

「うん、ごめんね。先に行ってる。」
僕はそれだけ言って、既に食堂を去ろうと歩いているヒュドを追った。

「そんなにレイのことが好きなのかよ。」
アルの呟きは、レイには聞こえなかった。


食堂を出て、やっとヒュドに追いついた。
「ヒュド、声もかけないで友人を置いていくなんてひどいんじゃないか?」
ヒュドは意味がわからないといった風な顔をして、歩みを止めた。

「レイに声をかけただろ。」

レイも意味がわからなかった。僕じゃなくて、アルに声をかけるべきだろうが。

「アルに先に行くって言ってなかったけど?」

納得したような顔をしてヒュドは、レイから視線を外した。

「ああ、あいつは別にいいだろ。それより、さっさと行くぞ。」

再び歩き始めたヒュドに置いて行かれないよう、レイも歩き出した。
ところで、どこへ行くのだろうか。教室に向かうにはまだ早い。
学園にいたころの記憶を思い出そうとしても、約十年前のことなどほとんど思い出せない。考え込んでいると、ヒュドの背中に当たった。

「っと、ごめん。よそ見してた。」

ヒュドは呆れたような顔で僕を見て、手を出した。

「ほら。手つなげば危なくないだろ。」

確かに、学園にいた頃はよく人と手をつないで歩いていたけど、さすがに精神年齢二十九歳には厳しいものがある。中々手を握らない僕を見て、不思議そうな顔で見てくるヒュド。
その視線から目をそらしながら、ヒュドの疑問に答えた。

「あのー、えっと、そのさ、ちょっと手をつなぐの恥ずかしいなぁって思って、その・・・」
「・・・急にどうしたんだ?朝も少しおかしかったし。」
「ど、どうもしてないよ!朝はちょっと寝ぼけてただけだし!朝のことは忘れてよ。手つなぐの本当はずっと恥ずかしかったんだよ。ただそれだけだから!」
「・・・それならいいけど。レイが嫌なら手つながないけど、またどっかぶつかったりすんなよ?」
「わかってるって。」

とりあえず、手つなぎは回避できた。羞恥で死んでしまうところだった。
ほっと胸をなで下ろした。
ヒュドがじっと見つめていたのも知らずに。
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