呉れ呉れ

灰寂

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「おい、ばか騒ぐな。寝てるやつがいるんだ。」

「は?俺も一応けが人なんですけど!」

「はいはい、さっさと治療してやっからよ。」

「いった!もっと優しくやってよ!」

「お灸据えも兼ねてんだよ、まったく。起きちまうだろうが。」


カーテンの外で騒がしい声が聞こえる。
目が覚めてぼーっとしていたら、カーテンの隙間から二つの目が覗いていた。
起きてすぐに声を発するなんて行為は僕にはできない。
なにせ寝起きが最低最悪とまで言われ、それがきっかけでフラれた男だ。フラれても特に落ち込みもしなかったのは、きっとその子のことをそれほど好きではなかったのだろう。

じーっと先生を見つめて何も言わず動かない僕を確認して、先生はそっとカーテンを閉じた。


「・・・起きてた。」

「え、お、俺のせい!?」

「いや、うーん・・・」

「ってかさ、誰が寝てんの?」


またカーテンが開く。今度はシャーッと音を立てて。
僕を見て驚いているみたいで目を大きく開けている。
僕はこの顔に覚えはないんだけどな。なんで驚いてるんだろう。


「何してんだお前は。すまんな、勝手に開けて。」


先生は軽く生徒の頭を叩いた。


「いや、だって気になるじゃん。それより、君の名前ってレイだよね?」

戸惑いながら首を縦に振った。するとなんだか微妙な表情になってしまった。僕なにかやったかな。


「声出せないの?」

「・・・寝起きにしゃべるのは嫌い。」


僕にしては恐ろしく低い声が出る。
寝起き早々楽しくおしゃべりなんて芸当できやしない。
話しかけてくれた子が固まってしまったのがわかる。さすがにひどい対応だったかな。


「これでも飲んでな。」


先生が目の前にマグカップを持ってきたので、素直に受け取って飲んだ。
はちみつ柚茶だった。あたたかい。少し喉が痛かったのもあって、ありがたく思った。


「ちょっとごめんな?」


先生が僕の額に触れる。


「んー、さっきよりは下がったか?それ飲み終わったら一応薬は飲んでおけよ。・・・あと、お前は病人に無理をさせるな配慮しろ配慮。」


僕に告げた後、振り返ってもう一人の生徒に注意していた。
僕が大人げない対応をしてしまっただけだと思うのだが。
歳を取るごとに寝起きの悪さは比例して悪くなっていった。直すことが難しくて休日の朝はとにかく人に会わないように予定を組んでいたのを思い出す。
柚茶を飲み切って自分の機嫌も気分もよくなってきたので、先生と生徒に対して謝罪をした。


「ごめんなさい。寝起きが悪くて・・・態度よくなかったですよね。先生もお茶ありがとうございます。」


先生と生徒は互いに顔を見合わせている。えーと?


「気にするな。誰にでも欠点はあるもんだ。あとこのクッキー食ってから薬を飲め。」

「あー・・・まぁびっくりはしたけど、レイのことが知れて嬉しいから別に気にしてない。俺の方こそ寝起きにごめん!」


なんで僕の名前を知っているんだろう。首を傾げると、それだけで意図が伝わったのか自己紹介をしてくれた。


「あ、俺の名前はクーガっていうんだ。よろしく!レイは有名人だからね、名前くらい知ってたってわけ。」


有名人・・・?首を傾げすぎて床についてしまいそうだ。


「僕が有名人・・・?」

「え?自覚ないの???」


なぜか先生も微妙な表情をしている。うーん?


「まぁ、とりあえずクッキーを食べて薬を飲め。」


そう言って、クッキーが置かれたお皿を押し付けてきた。
僕がお皿を受け取る前にクッキーを一枚つかむ手があった。


「一個もーらい!」


クーガがクッキーをもぐもぐと食べてしまった。ラッキーと嬉しそうに食べる様子が可愛らしい。
先生はお怒りのようだが、それを気にも留めていない。
僕も食べなきゃなと口に含んだ。サクサクでちょっと硬めの食感が僕の好みだった。美味しい。

お腹が減っていたらしく、クッキーを食べる手が止まらなかった。先生とクーガに生暖かい目で見られていたことなど露知らず。
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