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本編
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ひゅー・・・っと訓練場の中を、さわやかな風が通り過ぎた。
地面に転がった団員(死んだふり)、キイチの背後からひょっこりと顔を出し全てを悟ったディト、そして睨み合う狼と羊の間で頭を抱える黒兎。
何とも忙しい光景が広がっている。
「なあ、あんた。離れろって。」
「わあ~!君、魔力量すごいね。・・・気を抜くと押し負けそう。」
「・・・ファベルさん、団員巻き込まれちゃって白目剥いてますよ。」
「ディトも居たの?あらら、本当。そりゃ可哀想だ。・・・ぷふっ、んふふふ、」
「・・・何笑ってんだよ。いい加減離れないと、」
「ファベル、遊ぶな。・・・キ、キイチは、こ、こっち来い。」
身体に巻き付いたファベルの両手をパチンっと、強めに叩き落とす。
「痛いなあ、もう」と、にやにや笑う羊を無視して、ノクスは少し顔を赤くしながらキイチを呼んだ。
約数メートル離れた場所にいたキイチは、ノクスの照れた声を聞くと、それまで放っていた魔力を瞬時に消し、ぶんぶんぶーーーん、と大きく尻尾を振りながら猛ダッシュ。
ノクスの元へ駆け寄ると、ファベルから引き離して距離をとり、ひょいっと縦抱きに抱え上げた。
この間、僅か数秒である。
「ぷふぁっ!あははっ、お腹いたっ、君面白いね!」
「・・・・・・・・・はあ?」
「キ、イチ、降ろせ・・・」
「嫌です。」
「・・・キイチ、一応紹介しとく。こちら、魔法師団副団長のファベルさん。」
「・・・どーも。ノクスさんのつ・が・いに、なりましたキイチです。よろしくおねがいします。」
「ばっ、おまっ、そ、そんなでけぇ声でっ、」
「わぁ!ノクスっ!君、そんな照れた顔もするんだね!!!初めて見たよ!可愛い~!!」
ふわりと白髪を揺らし、きゃっ、きゃっ、と喜ぶ羊の角を生やした大男。
キイチは先ほどまで自分の愛する番にちょっかいを出した相手=敵認定していたが、ファベルの立ち位置がよくわからなくなってきて、眉間に皺を寄せた。
とりあえずもう少し離れよう、とじりじり後退していく。
頭上に「???」を浮かべ、ファベルから距離を取るキイチに気付いたノクスはやや赤い顔をしたまま、ため息をついた。
「・・・ファベルは番持ちだ。俺のことをぬいぐるみと思ってる変態野郎。お前、揶揄われてんだよ、今。」
「は???!そ、そうなんですか!?でもノクスさんに抱きついてたのは許せないですけどね!!!」
「あはははっ!ぬいぐるみとは思ってないよぉ。大事な弟みたいなものさ。虫除け役に尽力してたのに、数時間油断しただけでこうなってたから、ちょっと・・・ねぇ?」
「お前の弟は別に居んだろ。気持ち悪ぃこと言うな。」
「つれないなぁ~、長年一緒にいるのにさぁ。・・・俺の大事なノクスを悲しませるような真似してみろ。聖者だろうが何だろうが、殺すからね、君。」
「御忠告ありがとうございます。俺の愛するノクスさんなので。悲しませるようなことは一切ありませんから、安心して弟離れしてください。」
ノクスの額にキスを落とし、ファベルを見てにっこりと微笑むキイチ。
そこに居た一同呆気に取られたが、一番動揺したのはノクスだった。
「~~~っ、ば、ば、ばっっか野郎!!!!ひ、人前で何してんだっ!!」
「?人前じゃなかったらいいんですか?じゃ、部屋に戻りましょ。」
「ぎゃっ!!そ、そういうこと、言ってんじゃ、ねぇ、わっ!止まれ!止まれって!!」
「振り回されるノクスは新鮮で、可愛いねぇ~~!!訓練終わったんでしょ?番ほやほやなんだから、帰っていいよ~!」
「は?!!え?!う、裏切ったな!!ファベル!!てめぇ!」
「・・・・・・他の男の名前ばっかり。覚えといてくださいね、ノクスさん。」
「ひぃ・・・・・・っ」
包帯が巻かれた喉仏に悪戯な顔で頬擦りをする狼の手綱を握る日は来るのだろうか。
黒兎は頭を抱えつつ、真っ赤な顔で困ったように笑うのであった。
おしまい
番外編も投稿します。
読んでいただけると嬉しいです。
ありがとうございました。
地面に転がった団員(死んだふり)、キイチの背後からひょっこりと顔を出し全てを悟ったディト、そして睨み合う狼と羊の間で頭を抱える黒兎。
何とも忙しい光景が広がっている。
「なあ、あんた。離れろって。」
「わあ~!君、魔力量すごいね。・・・気を抜くと押し負けそう。」
「・・・ファベルさん、団員巻き込まれちゃって白目剥いてますよ。」
「ディトも居たの?あらら、本当。そりゃ可哀想だ。・・・ぷふっ、んふふふ、」
「・・・何笑ってんだよ。いい加減離れないと、」
「ファベル、遊ぶな。・・・キ、キイチは、こ、こっち来い。」
身体に巻き付いたファベルの両手をパチンっと、強めに叩き落とす。
「痛いなあ、もう」と、にやにや笑う羊を無視して、ノクスは少し顔を赤くしながらキイチを呼んだ。
約数メートル離れた場所にいたキイチは、ノクスの照れた声を聞くと、それまで放っていた魔力を瞬時に消し、ぶんぶんぶーーーん、と大きく尻尾を振りながら猛ダッシュ。
ノクスの元へ駆け寄ると、ファベルから引き離して距離をとり、ひょいっと縦抱きに抱え上げた。
この間、僅か数秒である。
「ぷふぁっ!あははっ、お腹いたっ、君面白いね!」
「・・・・・・・・・はあ?」
「キ、イチ、降ろせ・・・」
「嫌です。」
「・・・キイチ、一応紹介しとく。こちら、魔法師団副団長のファベルさん。」
「・・・どーも。ノクスさんのつ・が・いに、なりましたキイチです。よろしくおねがいします。」
「ばっ、おまっ、そ、そんなでけぇ声でっ、」
「わぁ!ノクスっ!君、そんな照れた顔もするんだね!!!初めて見たよ!可愛い~!!」
ふわりと白髪を揺らし、きゃっ、きゃっ、と喜ぶ羊の角を生やした大男。
キイチは先ほどまで自分の愛する番にちょっかいを出した相手=敵認定していたが、ファベルの立ち位置がよくわからなくなってきて、眉間に皺を寄せた。
とりあえずもう少し離れよう、とじりじり後退していく。
頭上に「???」を浮かべ、ファベルから距離を取るキイチに気付いたノクスはやや赤い顔をしたまま、ため息をついた。
「・・・ファベルは番持ちだ。俺のことをぬいぐるみと思ってる変態野郎。お前、揶揄われてんだよ、今。」
「は???!そ、そうなんですか!?でもノクスさんに抱きついてたのは許せないですけどね!!!」
「あはははっ!ぬいぐるみとは思ってないよぉ。大事な弟みたいなものさ。虫除け役に尽力してたのに、数時間油断しただけでこうなってたから、ちょっと・・・ねぇ?」
「お前の弟は別に居んだろ。気持ち悪ぃこと言うな。」
「つれないなぁ~、長年一緒にいるのにさぁ。・・・俺の大事なノクスを悲しませるような真似してみろ。聖者だろうが何だろうが、殺すからね、君。」
「御忠告ありがとうございます。俺の愛するノクスさんなので。悲しませるようなことは一切ありませんから、安心して弟離れしてください。」
ノクスの額にキスを落とし、ファベルを見てにっこりと微笑むキイチ。
そこに居た一同呆気に取られたが、一番動揺したのはノクスだった。
「~~~っ、ば、ば、ばっっか野郎!!!!ひ、人前で何してんだっ!!」
「?人前じゃなかったらいいんですか?じゃ、部屋に戻りましょ。」
「ぎゃっ!!そ、そういうこと、言ってんじゃ、ねぇ、わっ!止まれ!止まれって!!」
「振り回されるノクスは新鮮で、可愛いねぇ~~!!訓練終わったんでしょ?番ほやほやなんだから、帰っていいよ~!」
「は?!!え?!う、裏切ったな!!ファベル!!てめぇ!」
「・・・・・・他の男の名前ばっかり。覚えといてくださいね、ノクスさん。」
「ひぃ・・・・・・っ」
包帯が巻かれた喉仏に悪戯な顔で頬擦りをする狼の手綱を握る日は来るのだろうか。
黒兎は頭を抱えつつ、真っ赤な顔で困ったように笑うのであった。
おしまい
番外編も投稿します。
読んでいただけると嬉しいです。
ありがとうございました。
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