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バタン、と、部屋の扉が閉まる。
睨み合っているが、今はそんなことをしている場合ではない。
すぐ近くで愛する番が苦しんでいるのだから。
「私は先祖返りだ。見た目はこのように人間だが、中身は狼の獣人だと思ってくれていい。」
なかなかリシェルの部屋に戻れずヤキモキしていたハザックが呼び戻されたのはもう日が沈みかけた頃だった。
王宮にいるサリュー達には今日は王宮に戻らないことをグラッツに伝えてもらい、ルイーズに何を言われても今夜はリシェルの側にいるつもりだった・・・が。
ルイーズから唐突にそんな話をされ、ハザックも思考が追いつかない。
「ちょっと待て。先祖返りなんて聞いたことねぇよ。」
「数十年に一人、だそうだ。母や弟でさえ知らない。」
「で、それが今のリシェルと・・・、ってことは、私の番って、本当に、本気でそう言ってるってことか?」
「私は本当のことしか言っていないと話しただろう。・・・国王と、リシェルが成人するまで近寄らないと約束していたんだ。」
「は?意味わかんねぇ。番から引き離すなんか頭イカれてんのか。」
「口を慎め。リシェルは母親を亡くし、立場も危うかった。そこに加え私からの寵愛と来れば・・・、だから必死に、耐えてきたのに・・・っ!」
「ハッ、で、お前がそれなりの権力と地位を手に入れたから自由にし始めたってことか?じゃあ、尚更リシェルのこと譲れねぇ。マジで殺していいか、ルイーズ。」
「私だってそうだ!!いっそのこと殺してやりたい・・・!しかし、それではリシェルが・・・!」
「だからなんだよ?!リシェルがどうしたって言うんだ!??」
ソファから苛立ったように立ち上がり、ルイーズを睨みつける。
美しい顔が何故かずっと悔しそうに歪んでいるがハザックだって同じ。
リシェルの状態も分からないし自分より先に番にしようとしていた相手が目の前にいるんだから、色々我慢ならない。
相手が一国の王子でなければ、本当の、本当に、この場で殺していた。
ギリギリのところでお互い耐えているだけで、何か起こればすぐに・・・・・・。
そんな状態だった。
ルイーズは小さく諦めたようなため息をつく。
引き締まった長い足を組み直し、今度は挑発するような目線をハザックに向けた。
「リシェルは、番の魔力に当てられて疑似的な発情状態だそうだ。」
「・・・はぁぁあ?」
「番になるのは私だけで良かったって言うのに・・・っ、何でお前まで・・・!」
「は、発情・・・?リシェルは人間のはずだろ?!」
「・・・ああ、リシェルは人間だ。だが私達の・・・、番の強い魔力にあてられて、疑似発情らしい。」
「・・・・・・頭回んねぇ・・・」
ハザックは再びソファに腰を下ろし、頭を抱える。
リシェルは隣の部屋で今、薬で強制的に眠っていた。
身体に負担がかからないよう、かなり少ない薬量だから声をかければすぐにでも起きるだろう。
そして寝ている間も隣の部屋から獣人にしか分からないリシェルの甘い、甘い、何とも魅力的な香りが漂っていた。
「早く私が噛んでおくべきだった。」
「あ゛?恐ろしいこと言うなよ。」
「ダミアンによるとこういった疑似的な発情の症例が記録として残っているそうだ。」
「・・・・・・・・・どうすりゃいいんだ。」
「発情期の過ごし方くらい知ってるだろう。そちらの王族は学ばないのか?獣人が多い国なのに。」
「・・・・・・知ってるっつーの。・・・ってことは・・・・・・マジか・・・」
「・・・リシェルが私達二人を番だと認識しているのであれば、二人の魔力を馴染ませるしかないだろう。疑似的な発情だから、最後までする必要はない・・・させるつもりはないがな。」
「はああああ~・・・一人で堪能してぇ。」
「あまり軽々しくそう言ったことを言わないでくれ。殺してしまいたくなる。」
「・・・気が合うな。俺もだよ。」
美丈夫二人が、また睨み合う。
そして二人とも今日何度目か分からないため息をつき、頭を抱えたのであった。
睨み合っているが、今はそんなことをしている場合ではない。
すぐ近くで愛する番が苦しんでいるのだから。
「私は先祖返りだ。見た目はこのように人間だが、中身は狼の獣人だと思ってくれていい。」
なかなかリシェルの部屋に戻れずヤキモキしていたハザックが呼び戻されたのはもう日が沈みかけた頃だった。
王宮にいるサリュー達には今日は王宮に戻らないことをグラッツに伝えてもらい、ルイーズに何を言われても今夜はリシェルの側にいるつもりだった・・・が。
ルイーズから唐突にそんな話をされ、ハザックも思考が追いつかない。
「ちょっと待て。先祖返りなんて聞いたことねぇよ。」
「数十年に一人、だそうだ。母や弟でさえ知らない。」
「で、それが今のリシェルと・・・、ってことは、私の番って、本当に、本気でそう言ってるってことか?」
「私は本当のことしか言っていないと話しただろう。・・・国王と、リシェルが成人するまで近寄らないと約束していたんだ。」
「は?意味わかんねぇ。番から引き離すなんか頭イカれてんのか。」
「口を慎め。リシェルは母親を亡くし、立場も危うかった。そこに加え私からの寵愛と来れば・・・、だから必死に、耐えてきたのに・・・っ!」
「ハッ、で、お前がそれなりの権力と地位を手に入れたから自由にし始めたってことか?じゃあ、尚更リシェルのこと譲れねぇ。マジで殺していいか、ルイーズ。」
「私だってそうだ!!いっそのこと殺してやりたい・・・!しかし、それではリシェルが・・・!」
「だからなんだよ?!リシェルがどうしたって言うんだ!??」
ソファから苛立ったように立ち上がり、ルイーズを睨みつける。
美しい顔が何故かずっと悔しそうに歪んでいるがハザックだって同じ。
リシェルの状態も分からないし自分より先に番にしようとしていた相手が目の前にいるんだから、色々我慢ならない。
相手が一国の王子でなければ、本当の、本当に、この場で殺していた。
ギリギリのところでお互い耐えているだけで、何か起こればすぐに・・・・・・。
そんな状態だった。
ルイーズは小さく諦めたようなため息をつく。
引き締まった長い足を組み直し、今度は挑発するような目線をハザックに向けた。
「リシェルは、番の魔力に当てられて疑似的な発情状態だそうだ。」
「・・・はぁぁあ?」
「番になるのは私だけで良かったって言うのに・・・っ、何でお前まで・・・!」
「は、発情・・・?リシェルは人間のはずだろ?!」
「・・・ああ、リシェルは人間だ。だが私達の・・・、番の強い魔力にあてられて、疑似発情らしい。」
「・・・・・・頭回んねぇ・・・」
ハザックは再びソファに腰を下ろし、頭を抱える。
リシェルは隣の部屋で今、薬で強制的に眠っていた。
身体に負担がかからないよう、かなり少ない薬量だから声をかければすぐにでも起きるだろう。
そして寝ている間も隣の部屋から獣人にしか分からないリシェルの甘い、甘い、何とも魅力的な香りが漂っていた。
「早く私が噛んでおくべきだった。」
「あ゛?恐ろしいこと言うなよ。」
「ダミアンによるとこういった疑似的な発情の症例が記録として残っているそうだ。」
「・・・・・・・・・どうすりゃいいんだ。」
「発情期の過ごし方くらい知ってるだろう。そちらの王族は学ばないのか?獣人が多い国なのに。」
「・・・・・・知ってるっつーの。・・・ってことは・・・・・・マジか・・・」
「・・・リシェルが私達二人を番だと認識しているのであれば、二人の魔力を馴染ませるしかないだろう。疑似的な発情だから、最後までする必要はない・・・させるつもりはないがな。」
「はああああ~・・・一人で堪能してぇ。」
「あまり軽々しくそう言ったことを言わないでくれ。殺してしまいたくなる。」
「・・・気が合うな。俺もだよ。」
美丈夫二人が、また睨み合う。
そして二人とも今日何度目か分からないため息をつき、頭を抱えたのであった。
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