【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O

文字の大きさ
18 / 19

18

しおりを挟む
「ル、イーズ・・・、い、今何と・・・?」



静まり返った大広間。
玉座の現王チャーチルが大口を開け思わず立ち上がった。
その隣には口こそ開いていないものの、真っ青な顔をした王妃リリベット。

そして二人の視線の先には吸い込まれそうな美しい青い瞳が弧を描いていた。




「ですから、王位継承権を放棄すると言ったのです。アルジャーノに私の全てを譲ります。」

「なっ・・・、なぜ、突然、そ、のようなことを!?」

「突然、ですか。もうお察しなのでは?」

「・・・っ、」



アグリアとの二カ国間協議が終わったのは約三ヶ月ほど前。
滞りなく話は進み、ハザックは泣く泣く・・・・・・本当に泣く泣く帰路についた。

そしてルイーズはこれまで積み上げるようにして準備してきた計画を実行した。

個人的な資産でアグリアに屋敷を建て、商会をいくつか立ち上げた。
元々他国の貴族とも縁が強い。
アグリアも例外ではない。
アグリアに拠点を移したところでルイーズの莫大な資産と絶対的な地位は揺るがない。



「まさか・・・リシェルの一件、もお前の仕業か・・・?」



チャーチルの手が震え出す。
頭の片隅にあった恐ろしい結論を口に出すとこんなにも恐ろしい。


「こっ、こんな騒ぎを起こして、」

「何か制裁でもあるのですか?」

「っひ、」



地鳴りのような不気味な音が大広間全体に響き渡った。
外に控えていた騎士達の動揺する声が聞こえて来るが「中に絶対入って来るな」とルイーズから命令されている。

入ってこいと言われたところで、入る勇気があるかはまた別の話だ。




「私に魔力で敵うものがこの国にいるとでも?」

「ル、イーズ・・・お前っ、」

「リシェルはもうこの国に居ません。勿論、ご存知ですよね?」

「・・・亡命な、ど、あの子一人の力で、」

「出来ますとも。リシェルは誰よりも強く賢く、そして美しい。」



カツ、カツ、と大広間の出口に向かってルイーズは歩みを進め始めた。
床一面がルイーズから溢れ出す魔力で凍りついていき、チャーチルとリリベットの吐息が白く染まる。



「私の番を、これ以上好きにはさせません。」



ギィィィ、と扉が開く音がした。



「お二人ともお元気で。」



にこりと、天使の顔で微笑んだルイーズを国王と王妃は真っ白な顔でただ見つめることしかできなかった。




----------------⭐︎




花が咲き誇る庭に、きゃはははっと楽しそうに笑う声が響く。
まだその愛らしい姿が見えないものの、声を聞くだけで自然と口角が上がるのを抑えられない。

そんな幸せを噛み締めているのはあの青い瞳の持ち主だった。



「ま、待って!ムーったら、ちょっ、そんなに、顔舐め、あはははは!え?!わあああ!」

「ただいま、リシェル。」

「お、お、お帰りなさい!あのっ、僕、重、重いので、おろ、し、」「だめ。リシェルを補給させて。」

「ほ、補給・・・?」

「うん。補給。」

「・・・・・・?」



こてん、と首を傾げるのは少し髪が伸び、より中性的な面持ちのリシェル。
リシェルを軽々抱え上げ、顔が綻ぶのは勿論ルイーズだ。
ムー、と呼ばれた大きな白い犬は、主人がもう構ってくれないことを理解したのだろう。
庭の奥にいるマーシャルの元へ吠えもせず颯爽と走っていった。

そんなムーを見送るリシェルの髪がさらりと動き、白い頸が現れた。



「・・・はあ。いい匂い。」

「ひゃあっ!な、舐めっ、?!ル、ル、ルイーズ兄さ、」「リシェル?やり直し。」



少し意地悪な顔でリシェルの額に自分の額を当てるルイーズ。
みるみるうちにリシェルの耳が赤くなっていくが、ルイーズはにこにこと笑ったままだった。



「ル、ルイーズ?」

「・・・ふふ。なぁに。私の愛しいリシェル。」

「・・・こんなとこで舐め、ちゃダメ、です。」

「それは人目のつかないところでならいいってことかな?」

「~~~~っ、も、もうっ!!」



目が潤んだリシェルの姿がルイーズには堪らない。
ニヤける顔を抑えもせず・・・いや、抑えられず、またリシェルの頸に顔を寄せ、思いっきり深呼吸した。


甘くて、優しい、リシェルの匂いがする。




「・・・おい、コラ。てめぇ、そろそろ本気で潰すぞ。社会的に。」

「空気を読むって言葉を、君は知らないのかな?」




舌打ちをしながら登場したのは鮮やかな刺繍入りのジャケットを羽織ったハザックだった。
この巨大な屋敷はルイーズの所有物。
とは言え、ほとんど毎日ハザックはここで寝泊まりしているし、何ならここが本当の城なのでは?とも思える程。



「ハザック、おかえりなさい!今日はお城じゃなかったの?」

「・・・俺が来ちゃまずかったか?」

「当たりま」
「そんなことないです!大事な、つ、番に会えるんだから、嬉しいです・・・よ?」



自分で言った言葉につい顔を赤くするリシェル。
本音が思わず出てしまった。
この甘い甘いやりとりに多分リシェルはずっと慣れないのだろう。
リシェルが恥ずかしさで俯き二人の男が牽制し合うように睨み合っていたその時。
優しいふわりとした風が吹き、髪に隠れたリシェルの頸が露わになった。

大きさの違う二つの噛み跡がくっきりと残っている。



「今日も心の底から愛らしいな、リシェル。」

「・・・チッ。さっさと城に戻れ。」

「次期国王に楯突くなんていい度胸だな。"元"王子。」

「国王になる前に凍らせてやろうか。」

「あ゛っ?望むところだっての。」

「二人とも!!喧嘩しないでくださいって言ってるでしょ!!」

「「・・・・・・・・・」」

「あのー・・・・・・御取り込み中に申し訳ありません・・・、そろそろ食事の時間ですが、後にされますか?」



屋敷の玄関からどこか申し訳なさそうな声がする。焦茶の髪をくるりと一つにまとめたサーシャだ。



「サーシャ!僕ちょうどお腹すいて、」


ぐぅー・・・・・・・・・


「・・・・・・・・・っ、ご、ごめんな、さい・・・!」

「さっさと飯食おう。」

「可愛いリシェルのお腹が鳴る前に私が気付くべきだったね。ごめんよ、リシェル。」

「へ?ル、ルイーズが謝る必要ないです!一緒に食事できるのが楽しみで、おやつ少しにしてて・・・」

「リシェル?俺のことも待ってたよな?」

「?はい。勿論です!」

「「・・・・・・・・・」」



『何だ、この可愛い生き物は』と犬猿の仲である男二人は思わず目を合わせる。

今日は一体どちらが先にリシェルを愛でることができるのだろうか。
戦いはすでに始まっている。



「二人とも、早く行きましょう!聞いての通り、僕お腹空きました!ふふふ。」



きっとリシェルはこれから益々愛らしく、そして美しく育っていくのだろう。
そう思うだけでルイーズもハザックも、リシェルを守り愛すためにどこまでも強くなれる。



時折吹く風は柔らかく、三人の周りを舞うようだった。




おしまい


----------------⭐︎


初めまして。N2Oと申します。
なかなか思うように更新できないままだったこの作品。
ここで完結、とさせてください。 
力不足をひしひしと感じておりますが、読んでくださった方の娯楽に少しでもなれば幸いです。

ありがとうございました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。

水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。 国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。 彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。 世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。 しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。 孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。 これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。 帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。 偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。

鬼神と恐れられる呪われた銀狼当主の元へ生贄として送られた僕、前世知識と癒やしの力で旦那様と郷を救ったら、めちゃくちゃ過保護に溺愛されています

水凪しおん
BL
東の山々に抱かれた獣人たちの国、彩峰の郷。最強と謳われる銀狼一族の若き当主・涯狼(ガイロウ)は、古き呪いにより発情の度に理性を失う宿命を背負い、「鬼神」と恐れられ孤独の中に生きていた。 一方、都で没落した家の息子・陽向(ヒナタ)は、借金の形として涯狼の元へ「花嫁」として差し出される。死を覚悟して郷を訪れた陽向を待っていたのは、噂とはかけ離れた、不器用で優しい一匹の狼だった。 前世の知識と、植物の力を引き出す不思議な才能を持つ陽向。彼が作る温かな料理と癒やしの香りは、涯狼の頑なな心を少しずつ溶かしていく。しかし、二人の穏やかな日々は、古き慣習に囚われた者たちの思惑によって引き裂かれようとしていた。 これは、孤独な狼と心優しき花嫁が、運命を乗り越え、愛の力で奇跡を起こす、温かくも切ない和風ファンタジー・ラブストーリー。

虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした

水凪しおん
BL
貧しい村で育った隠れオメガのリアム。彼の運命は、冷酷無比と噂される『銀薔薇の公爵』アシュレイと出会ったことで、激しく動き出す。 強大な魔力の呪いに苦しむ公爵にとって、リアムの持つ不思議な『浄化』の力は唯一の希望だった。道具として屋敷に囚われたリアムだったが、氷の仮面に隠された公爵の孤独と優しさに触れるうち、抗いがたい絆が芽生え始める。 「お前は、俺だけのものだ」 これは、身分も性も、運命さえも乗り越えていく、不器用で一途な二人の成り上がりロマンス。惹かれ合う魂が、やがて世界の理をも変える奇跡を紡ぎ出す――。

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

「禍の刻印」で生贄にされた俺を、最強の銀狼王は「ようやく見つけた、俺の運命の番だ」と過保護なほど愛し尽くす

水凪しおん
BL
体に災いを呼ぶ「禍の刻印」を持つがゆえに、生まれた村で虐げられてきた青年アキ。彼はある日、不作に苦しむ村人たちの手によって、伝説の獣人「銀狼王」への贄として森の奥深くに置き去りにされてしまう。 死を覚悟したアキの前に現れたのは、人の姿でありながら圧倒的な威圧感を放つ、銀髪の美しい獣人・カイだった。カイはアキの「禍の刻印」が、実は強大な魔力を秘めた希少な「聖なる刻印」であることを見抜く。そして、自らの魂を安定させるための運命の「番(つがい)」として、アキを己の城へと迎え入れた。 贄としてではなく、唯一無二の存在として注がれる初めての優しさ、温もり、そして底知れぬ独占欲。これまで汚れた存在として扱われてきたアキは、戸惑いながらもその絶対的な愛情に少しずつ心を開いていく。 「お前は、俺だけのものだ」 孤独だった青年が、絶対的支配者に見出され、その身も魂も愛し尽くされる。これは、絶望の淵から始まった、二人の永遠の愛の物語。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

オメガだと隠して地味なベータとして生きてきた俺が、なぜか学園最強で傲慢な次期公爵様と『運命の番』になって、強制的にペアを組まされる羽目に

水凪しおん
BL
この世界では、性は三つに分かたれる。支配者たるアルファ、それに庇護されるオメガ、そして大多数を占めるベータ。 誇り高き魔法使いユキは、オメガという性を隠し、ベータとして魔法学園の門をくぐった。誰にも見下されず、己の力だけで認められるために。 しかし彼の平穏は、一人の男との最悪の出会いによって打ち砕かれる。 学園の頂点に君臨する、傲慢不遜なアルファ――カイ・フォン・エーレンベルク。 反発しあう二人が模擬戦で激突したその瞬間、伝説の証『運命の印』が彼らの首筋に発現する。 それは、決して抗うことのできない魂の繋がり、『運命の番』の証だった。 「お前は俺の所有物だ」 傲慢に告げるカイと、それに激しく反発するユキ。 強制的にペアを組まされた学園対抗トーナメント『双星杯』を舞台に、二人の歯車は軋みを上げながらも回り出す。 孤独を隠す最強のアルファと、運命に抗う気高きオメガ。 これは、反発しあう二つの魂がやがて唯一無二のパートナーとなり、世界の理をも変える絆を結ぶまでの、愛と戦いの物語。

異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました

水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。 世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。 「見つけた、俺の運命」 敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。 冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。 食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。 その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。 敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。 世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。

処理中です...