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「そーっと、そーっとよ、リト。」
「婆様、分かってるってば!僕もう十歳!ユイじゃないんだから。」
「はい、はい。あ、ほら、あの人間じゃないかい?」
「・・・わぁ・・・っ」
婆様が指差した先に見えたのは風に靡く銀の髪。
周りにいる人間と比べると少し背が低く線が細い。
僕よりも歳上だろうけど"大人"ではない。
一つに束ねられた銀のそれは陽の光を浴びてきらきらと輝いていた。
「・・・僕の宝玉みたい。」
「あら、あら。お顔が真っ赤だねぇ、リト。」
「っ、こ、れは、お日様にあたったからなの!」
「ふふ、そうなのね。まだあちらに嫁ぐまでは時間があるから、それまで婆様のリトでいてちょうだい。」
「・・・うん、婆様。」
婆様は俯いた僕の頭を優しく撫でる。
昔から僕は婆様に敵わない。
優しくて、怒ると怖い。
そんな婆様が僕は大好きだった。
「さて、そろそろ帰りましょう。皆心配しているわ。」
「うん。僕、お腹すいた。さっきユイにオヤツとられたんだもん。」
「ユイは食いしん坊だものね。リトが優しいことを分かっているから、甘えているのよ。」
「・・・・・・優しくなんかないし。」
「優しいわ。自信を持ちなさい。さ、行きましょう。」
ぱしゃん、と婆様が先に潜ると小さく水飛沫があがる。
僕は帰る前にもう一度だけあの銀の髪を見たくて、後ろを振り返った。
「・・・・・・っ!」
ぱち、と目が合った気がした。
岩の影に隠れているから気が付かれないと思っていたのに。
驚いたように見開かれた瞳は、輝く黄金色。
血色のいい唇が何か言葉を紡ごうと開きかける直前、僕は慌てて湖へ潜った。
どくん、どくん、と激しく心臓が動く。
顔も耳も手だって熱い。
胸も苦しいし、これって────・・・
「・・・・・・ぼっ、僕、病気?!」
急いで泳いで向かった先は、湖の底の大きなお城。
僕は必死にヒレを動かして自分の部屋に戻った。
しばらくじっとしていてもなかなか落ち着いてくれないこの心臓が怖くなって、婆様の部屋へ向かう。
僕の頭を撫でながら「それは、恋をしたってことだよ」と婆様はにこにこしながら教えてくれた。
きっとこのふわふわした気持ちは素敵な出来事の始まりなんだ、と思ったことを今でもまだ鮮明に覚えている。
────四年後、婆様は病気で亡くなった。
泣いて、泣いて、泣いて。
僕に残ったものと言えば、婆様の優しい手の感触と、銀の髪の王子様に抱いた小さな恋心だった。
これは僕、人魚のリトの恋の話である。
「婆様、分かってるってば!僕もう十歳!ユイじゃないんだから。」
「はい、はい。あ、ほら、あの人間じゃないかい?」
「・・・わぁ・・・っ」
婆様が指差した先に見えたのは風に靡く銀の髪。
周りにいる人間と比べると少し背が低く線が細い。
僕よりも歳上だろうけど"大人"ではない。
一つに束ねられた銀のそれは陽の光を浴びてきらきらと輝いていた。
「・・・僕の宝玉みたい。」
「あら、あら。お顔が真っ赤だねぇ、リト。」
「っ、こ、れは、お日様にあたったからなの!」
「ふふ、そうなのね。まだあちらに嫁ぐまでは時間があるから、それまで婆様のリトでいてちょうだい。」
「・・・うん、婆様。」
婆様は俯いた僕の頭を優しく撫でる。
昔から僕は婆様に敵わない。
優しくて、怒ると怖い。
そんな婆様が僕は大好きだった。
「さて、そろそろ帰りましょう。皆心配しているわ。」
「うん。僕、お腹すいた。さっきユイにオヤツとられたんだもん。」
「ユイは食いしん坊だものね。リトが優しいことを分かっているから、甘えているのよ。」
「・・・・・・優しくなんかないし。」
「優しいわ。自信を持ちなさい。さ、行きましょう。」
ぱしゃん、と婆様が先に潜ると小さく水飛沫があがる。
僕は帰る前にもう一度だけあの銀の髪を見たくて、後ろを振り返った。
「・・・・・・っ!」
ぱち、と目が合った気がした。
岩の影に隠れているから気が付かれないと思っていたのに。
驚いたように見開かれた瞳は、輝く黄金色。
血色のいい唇が何か言葉を紡ごうと開きかける直前、僕は慌てて湖へ潜った。
どくん、どくん、と激しく心臓が動く。
顔も耳も手だって熱い。
胸も苦しいし、これって────・・・
「・・・・・・ぼっ、僕、病気?!」
急いで泳いで向かった先は、湖の底の大きなお城。
僕は必死にヒレを動かして自分の部屋に戻った。
しばらくじっとしていてもなかなか落ち着いてくれないこの心臓が怖くなって、婆様の部屋へ向かう。
僕の頭を撫でながら「それは、恋をしたってことだよ」と婆様はにこにこしながら教えてくれた。
きっとこのふわふわした気持ちは素敵な出来事の始まりなんだ、と思ったことを今でもまだ鮮明に覚えている。
────四年後、婆様は病気で亡くなった。
泣いて、泣いて、泣いて。
僕に残ったものと言えば、婆様の優しい手の感触と、銀の髪の王子様に抱いた小さな恋心だった。
これは僕、人魚のリトの恋の話である。
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