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僕は16歳になった。


六つ歳下の妹、ユイと並ぶと僕の方が小さい。
・・・なんでだ。
きっとユイがいつまで経っても食いしん坊だから、ユイに栄養をとられたんだ。

身体も細くて、色白。
それが少しコンプレックス。


人魚の中では珍しい真っ黒な髪を、王子様と同じように一つに結んでいる。





「兄様!今日もに行くの?ユイと遊ぼうよぉ。」

「ユイが木の実食べたいって言ったんだろ~!!要らないのか?」

「・・・いるぅ。いってらっしゃーい。」




ぷぅ、と頬を膨らませるユイ。
人魚が地上に上がっていいのは14歳になってから。
ユイはまだ10歳だ。地上には上がれない。
そもそも魔力がまだ足りないから、人間の姿になれない。

ユイはどこか不満げな顔で、僕に手を振り見送りをする。
・・・なんだよ、僕、ユイのために木の実探しに行くんだけど。










「・・・ぷはっ!うわっ!今日も良い天気!さすが、太陽の国クラート!」


燦々と注ぐ陽の光に目が眩む。
まだ朝なのに、もうすでに暑い。
これなら湖の水もすぐから、早く人間になれそう。







いつも決まった木の下で、僕はヒレを乾かす。
僕の鱗は、薄い灰色なんだけど、あの宝玉みたいな、不思議な光り方をする。

僕はそれがお気に入りだ。
だって、婆様が綺麗、っていつも褒めてくれていたから。








「うう~・・・やっぱりゾワゾワするなぁ、この瞬間。いつまで経っても慣れない。」




淡い光を発しながら、僕のヒレが人間のそれへと変化していく。
初めてこれを体験した時には、気持ち悪くて気持ち悪くて・・・・・・。
二年経った今では、ゾワゾワ程度になったけど、気持ち悪いのには変わりない。

用意しておいた人間の服をささっと着たら・・・




「はいっ!人間の男の子の完成!」



歩く練習も、最初の方は父様に手伝ってもらって何とか様になった。


今では、普通の人間に見える・・・はず。



「この黒い髪が、役に立ってるよなぁ、本当。人魚の中では浮いちゃうけどさ。」



人魚では珍しい黒い髪も、人間にはいくらでもいる。
むしろ、は人魚の色だ。



「あの人も人魚の血が入ってるんだろうな・・・王族だし。・・・さてと。」






僕は、湖のすぐ隣の森に向かって、片手を突き出した。



「今日もたっっくさん、木の実集めるぞーーー!」





そよそよと吹く風が心地いい。



まさか今日があんな日になるなんて、この時の僕は、まだ知らない。






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