【完結】泡の消えゆく、その先に。〜人魚の恋のはなし〜

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僕は思わず、胸を押さえた。
どくん、どくん、と大きな胸の鼓動が手のひらに伝わってくる。


《 リト・・・やっぱ嫌だった?ごめん・・・僕・・・   》

「う・・・ううん、だ、いじょうぶ。」

《 ・・・ずっと黙ってたんだけどさ、あいつあれから毎日森に来てる 》

「・・・・・・えっ・・・」

《 でもここは入れなくなったんでしょ?それに・・・リトの気持ちは分かるから、黙ってようと思ってたんだけど 》

「・・・・・・・・・・・・」

《 あいつ、泣いてんだよ。毎日毎日毎日・・・情けないよね。自分のせいなのに 》

「泣、いてる・・・?」


人前で・・・いや、鹿の前か。
シエロさんが泣く姿を僕は想像できなかった。
いつも自信に満ちていたし・・・何たって王子様だし。
それに毎日って言ったよね。
もう、あれから二ヶ月経つのに・・・?


「そ、うなんだ・・・」

《 僕もたまたま通りかかったんだよ。そしたらあいつ、僕に気付いてさ。帰れよって言ったんだけど、僕の言葉分かんないしさ。なんかブツブツ独り言言うし・・・ 》

「ひ、とりごと・・・?」

《 ・・・・・・リトに会いたい、会いたいって・・・    》

「・・・へっ・・・?」

《 ・・・最近はその花・・・薔薇って言うんだろ。薔薇を毎日持ってきて、リトに渡してくれないかって・・・。いい加減、勿体ないと思ってさ。・・・勝手なことしてごめん 》


僕に、会いたい・・・?シエロさんが?
僕は久しぶりに涙が浮かびそうになる。
これがどういう意味を持つ涙なのかは自分でもよく分からなかった。


《 あいつも僕が本当にこうやってリトに渡してるなんて思いもしてないだろうけどさ。人間で言う藁にもすがる思いってこんな感じだろ 》

「・・・・・・ふ、ふふ、難しい言葉なのによく知ってるね、鹿くん。」

《 ・・・リト。リトはあいつに・・・・・・ううん、ごめん。何でもない 》

「鹿くん・・・伝わってきてるよ。ふふ、ふ、あはは、」


ポロリ、ポロリ、と腕を乗せた岸辺に宝玉が落ちる。
突然笑いながら泣き始めた僕に鹿くんはびっくりしたのか右往左往し始めて、それがまたおかしくて、僕はまた笑いをこぼす。


「何で泣いてるのか、自分でもよくわかんない。ふふ、自分の気持ちと頭の中がちぐはぐで、笑っちゃった。ふはっ、」

《 り、リトが壊れた・・・っ!あいつのせいだ!噛みついてくる! 》

「わあっ!だ、だめ!噛みついちゃ・・・って・・・まさか、今森にいるの?」

《 ・・・・・・いる 》

「・・・そっ、かぁ・・・」

《 ・・・会いたいんだね、リト 》

「え゛っ!?な、な、な、ん、」

《 顔に出てるよ。まだまだだね 》


鹿くんに伝わらないように心は抑えたつもりなのに、顔に出ちゃったらしい。
僕は慌てて、バチャン、と湖に顔をつけた。
湖の中にいると、自分の鼓動の早さがよく分かった。

ああ・・・・・・心が、乱れてしまう。

僕は湖からそっと顔を出す。
じと、っと何か言いたげな鹿くんが僕に狙いを定め見つめていた。


「・・・・・・・・・鹿くん。あ、あのね、お願いがあるんだけ・・・ど。」

《 ふふ。勿論いいよ。リトのためなら 》

「・・・・・・ありがとう。」


僕はきゅっと口を閉じる。
こうしないとまた涙が出そうだったから。
湖の岸辺に転がった光り輝く小さな粒を一粒手に取る。


「・・・渡してくれる?」

《 ・・・また泣くよ、あいつ。もううんざりなんだけど 》

「ふっ、ふふ、」

《 リトが笑うなら、我慢するよ 》

「ありがとう。」

《 じゃ、行ってくるね。突撃してこられたら困るでしょ?もう帰ったら? 》

「・・・そうする。また呼ぶね。」

《 お礼は水草十本かな 》

「・・・探しておくよ。」


鹿くんは、ふんっ、と鼻を鳴らし森の奥へと進んでいく。

この後どうなっていくのかは分からない。
でもやっぱり僕はどこかであの人と繋がっていたかった。


「・・・・・・帰ろう。」


ポツリと呟き、僕は外の風より温かい湖の中へと潜っていった。
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