【完結】俺のストーカーは、公爵家次男。

N2O

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あの後、俺は魔物数体を倒し、合計魔石を十二個、ブローチを一個(歯型男の)、そして自分の首飾りは死守した。


鬼役にはあの三つ編み歯型男以外に四人程見た。
ブローチはもっと欲しかったが、鬼役がみんなあいつみたいな面倒くさい奴だったら嫌だし、本来の【かくれんぼ】らしく隠れてやり過ごした。
と言うか、鬼役がみんなあのレベルなら、並大抵の出場者は残れない。自分の首飾りを死守しとけば、第二課題に行けるんじゃねーの?知らんけど。


二時間なんてあっという間で、また課題発表のときと同じような耳を劈く火花の音と共に、空にデカデカと  お し ま い と文字が浮かびあがり、第一課題は終了。・・・気が抜ける終了合図だったな。


終了と同時に俺は太陽の位置から方角を確認して、南へ向かった。
参加者は全員森の南側にある古い塔に集合して、それぞれのパートナーと合流することになっていたからだ。
自分のパートナーの無事をそこで確認して、点数を集計するためなんだとか。
・・・まあ、フィンリー・エバンズは十中八九無事だろうし、なんなら断トツで点稼いでそうだし。大丈夫だろ。


走りながら向かっていると、忘れていたあの歯型のところがジンジンしてきて、あの三つ編み歯型男のことを思い出してしまった。

・・・そういや、あの野郎歯型これを「ご褒美」って言ってたよな?
歯型これのどこをどうすればご褒美になんだよ。
・・・やっぱめんどくせぇけど、学校中探して見つけ出した暁には、一発殴ろう。いや、炎の妖精フレアに尻焼いてもらおう。そうしよう。



俺が復讐心をメラメラ燃やしながら、集合場所である塔の近くまで来ると、遠くからこちらに走ってくるやつが見える。

金髪を揺らす、菫色の瞳。
避けようか迷う時間の猶予もなく、勢いそのままで抱きつかれ、鼻腔いっぱいにあの花の匂いがした。



「・・・っ、アル、よかった、無事で・・・!」

「おっ、まえなぁぁあ・・・っ!人前でだ、抱き付くのやめろっつってんだろうがぁ・・・っ!」


フィンリー・エバンズは許可なくぺたぺたと俺の体のあちこちを触りまくる。
異変がないか確かめてるんだろうけど、俺は怪我なんかしてない。
なんなら結構魔石だって集めたんだぞ、コラ。お前何点稼いだんだよ。


「も、もういいだろ!?お前、魔石何個集めたんだよ、見せてみ、い゛ぃ゛っっ?!」


少し冷たいフィンリー・エバンズの手が、俺の首元に触れた瞬間、あのジンジンする痛みが一気に強くなって、思わず声を上げてしまった。


「・・・・・・・・・・・・アル、どうしたの、これ。」

「あ゛あっ!?そうだよ!噛まれたんだよ!!お前の知り合いに三つ編みの変な男、」
「噛まれた?」

「え?」

「今、噛まれたって言った?」

「・・・は?あ、ああ、なんか噛まれ、て、血が・・・・・・、あっ、いや、その、べ、別にそんな、痛・・・・・・いけど、ほら、ええっと・・・」




やばい、やばい、やばい・・・・・・!
このは、絶対やばい。
菫色が少し濃くなってないか?そんなことある?
鬼ぐらい、いや、あのドラゴン寮長(仮称)ぐらい・・・いや、その比じゃなく怒ってる。

俺は今までの人生で、孤児院の婆ちゃんシスターが一番怖い人物だと思っていた。が、それを更新するレベルで怒ってる。怖。
俺に怒ってる訳じゃない・・・のは分かるけど、・・・やばい。
俺の語彙力死ぬぐらいには、何かやばい。

ほ、ほら、だって、地面が尋常じゃないぐらい凍ってるし、土が盛り上がってるし、風まで吹いてきたし、そこら辺の木めっちゃ揺れてるし。


周りの奴らもやっと課題が終わって、パートナーと合流できて、ホッとしてただろうに、こいつの不穏な空気を感じ取ってざわつき始めた。
・・・こいつの評判は知ったこっちゃないが、この流れは非常に良くないぞ・・・・・・ど・・・どうする、俺。どうするのが正解、

「それ俺が付けたから~♪どうせエバンズ達は第一課題突破でしょ~。よかったね~。」

俺が打開策を必死に考えていたのにも関わらず、ひょこっと、呑気な雰囲気を醸し出しながら現れたのは、にやにやと笑みを浮かべたあの三つ編み歯型男。
何ならこの不穏な空気の原因(歯型)を作り出した張本人だ。

一方で、その言葉を聞いた途端何も言わなくなったフィンリー・エバンズ。
俺はゆっくりとそちらに視線を戻した。
・・・す、少し怖かったから、ぎ、ぎ、ぎ、という効果音付きで。



うわぁ・・・
目で人を殺せるって、今のこいつのことだ。

美しい菫色が、真っ直ぐ、真っ直ぐに、三つ編み歯型男を射抜くような目つきで捉え、全身から魔力が溢れ出している。
無意識なのか、俺の二の腕を掴む両手にも力が入ってきて、少し痛くなってきた。


「・・・ニコロ・アガッツィ。僕の・・・・・・僕の、一番大切な人に傷をつけて、君は無傷でいられると思ってるのかな・・・?」


穏やかにも聞こえるフィンリー・エバンズの声に合わせ、ビリビリと空気が揺れた。
例えじゃなくて・・・本当に。揺れている。
こいつの・・・フィンリー・エバンズの、とんでもない魔力が溢れすぎて。

周りの参加者の中には、そのあまりの威圧的な魔力に腰を抜かし、ガタガタ震えながらその場に座り込む奴までいた。
俺も・・・気を抜くとそいつらと同じになりそうでぐっと、腹と足に力を入れて必死に耐える。



「ええ~~?そんなに怒っちゃうんだ~?じゃあもっと噛んどけばよかったなぁ。」


ひひっ、と笑いをこぼす灰色の瞳の男は、余程、フィンリー・エバンズを怒らせたいらしい。
陽気に言い放ったその一言に、フィンリー・エバンズの方から、ぷちっと、何かが切れる音がしたような気がして。

俺は体が、ぶるりと震えた。




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