【完結】俺のストーカーは、公爵家次男。

N2O

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番外編

53 ※

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熱気で白く曇った窓の向こうに月が浮かぶ。
差し込む月明かりは時間の経過とともに傾いて、さっきまで見えなかった月の形がよく分かった。


今日は満月だ。



今から数分前、ベッド上で息も絶え絶えの俺に『少しだけ休ませてあげる』と超絶上から目線の発言をした張本人は、俺に薄手の夜具を掛け額にキスをしてどこかへ消えていった。


「・・・んっ、」


甘い余韻のせいで、起き上がることさえ儘ならない俺はシャワーを諦め、大人しく夜具を羽織り直す。



それにしても鬼畜野郎フィンはどこへ消えてしまったのか。
服を着て消えたから、おそらく部屋の外だろうけど・・・・・・あんな色気ムンムン状態の奴が、果たして外に出ていいものだろうか。捕まりやしないだろうかと、少しだけ心配になる。



あー・・・腰が重い。喉が渇いた。声がカスカスだ。
夜具で隠れた部分を除いても、無数の赤い痕が体を染めている。首もジンジンするから、多分噛み跡だらけだな。
こりゃあ、夜会での俺の一連の言動がよほどお気に召さなかったとみた。



「・・・ガキかよ。」

「アルのこと?」

「んひっ!!!!?」



悪態をついた時に限って、タイミングよく現れるのは何でだろう。そういう呪いの類でもこいつに掛けられてるのかもしれない。

不敵に笑うフィンはベッドサイドに腰掛けていて、手には飲み物と果物が入った籠を持っていた。
いつのまにかサイドテーブルにグラスも二つ用意されている。手際のいい奴だ。


「全く反省してないところがアルっぽくて好きだよ。」

「・・・喉乾いた。」

「この部屋何もなかったから、取りに行ってたんだ。ごめんね、待たせて。」

「・・・・・・誰かのせいで起き上がれん。責任とれ。」

「・・・勿論です、愛しい人。」



何故か嬉しそうにふわりと笑ったフィンは、グラスに薄紅色の液体を注ぎ、俺の体をゆっくりと起こす。
そのグラスに口をつけたのは俺ではなくフィンで、液体を口に含むと何の躊躇いもなくそのまま俺に口付けた。

少しずつ流れ込んでくる冷たい液体の正体は、あの夜会で俺が飲んでいた甘い果実酒だった。
一口分を俺へ移し終え、口の端から垂れた酒を舌で舐めとるフィンからは、壮絶な色気が漂っている。



「これは・・・かなり甘いね。」

「グラスくれ。自分で飲む」

「へえ。まだそんな元気あるんだ。」

「・・・・・・やっぱり飲ませてください。」

「ふふ。いいよ。」


甲斐甲斐しく世話を焼かれる雛鳥のように、俺は口移しで喉を潤した。チェイサー代わりにカットされた酸味の強い柑橘も食べ、蕩けた頭も少し落ち着いた頃。
ふと、部屋を見渡す。
この部屋には壁掛け時計があったはずだが、外されていて今何時なのか確認できない。
まあ、腹のすき具合から見て、日付が変わって少し経ったぐらいの時間だろう。

フィンは今日仕事かな。
俺も学校だし、そろそろーーー・・・


「俺寮に帰るわ。さすがに寮長も寝てるだろうし、裏門から入れば大丈、」
「こんな真夜中に帰すわけないでしょう。」

「・・・は?だから俺朝から学校だって言っ、ゔおっ、」

「僕が朝送っていくよ。安心して。外出申請してるし。」

「?!よ、用意周到すぎない?!しかも、お、押し倒す奴が、あ、安心してって、いう言葉か?!」

「あー・・・・・・いつ見ても可愛い。少し髪伸びたね。」

「お、俺の話を聞、んあっ!」

「本当に帰る気で居たの?甘いなぁ、アルは。」

「・・・・・・、~~~っ!!」



するりと首筋を撫でられて、簡単に反応する俺。その反応を見て、目の前の菫色は満足気に弧を描く。
酒のせいも勿論あるだろうけど、全身が熱くなっていくのを、俺は自分で止めることができない。
繰り返し、繰り返し、体の至るところ撫でられて、俺の体はぴくん、ぴくん、と小さく跳ねた。




「そういえばさっきの・・・ジョエル君、だっけ。」

「んんっ、な、撫でるか、喋るか、ど、どっちかに、ん、あうっ、」

「どこも触られてないよね?」

「・・・は、はあ?」

「やけに距離が近かったから気になって、ね。」

「ばっ、馬鹿か!?別にどこも・・・・・・あ゛」

「・・・・・・は?」



フィンとしては恐らく冗談混じりに聞いたんだろう。
それなのに、俺、やばい。
やばい、まずい、やばい、完全にやらかした。
あの手汗びしょびしょの手を思い出して、迂闊にも反応してしまったがために・・・っ!


俺、
間違いなく、
今、絶体絶命だ。



「ねえ・・・今の、何。」

「い、いや、べ、べ、別に、その、」

「触られたの?」

「え、えっと・・・あ、握手を・・・さ、ほ、本当ちょっと、だけ、」

「人付き合いの悪い愛想も無いアルが年下の学生に握手を求められて、しかも初対面の喋ったこともない相手に易々と返すとは到底思えないんだけど?」

「あー・・・・・・ほら、誰にだって、い、勢い?ってやつがあって、ですね、その・・・んあっ、」

「ねえ、アル。」



押し倒された手のひらに少し冷たいフィンの手が重なると、すぐに指が絡んだ。
優しい動作に見えて、実際はグッと力が入った恐ろしい指。
どんどん近づいてくる顔と、太腿を縫い止めるように割り込んでくるフィンの足。



ああ・・・・・・俺、朝起きられない・・・!




「良い知らせもあるから、さ。今日は一緒に登校しよう。」

「・・・い、良い・・・し、知らせ・・・?」

「その前にアルが誰のものなのか、すぐに分かるように仕上げておかないと駄目だね。」

「は?!も、もう!!じゅ、十分に、」
「アル?」

「んひぃっ!!」



ピアスをした右耳を甘噛みされて、背中が大きくしなる。ビリビリ電流が走るようなこの感覚は、いつか俺を駄目にするんじゃないかと、不安になるくらい。


甘い痺れだ。





「たった"これくらい"で僕の愛が表現できるわけないから。」

「は、はあ??!俺、全身もうこんな痕だらけで、ピノに見られでもしたら、んあ゛あっ、」

「・・・・・・この期に及んで他の男。お仕置き決定。」

「フィ!フィン!!馬鹿!!と、止まれ!!」

「歩ける程度には回復魔法かけてあげるね。じゃあーー・・・」



















「いただきます。」










----------------------------⭐︎


あと一話で番外編終わります。
もう少し、お付き合いください。















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