【完結】竜討伐の褒賞は、鹿角の王子様。(志願)

N2O

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煌びやかな広間の中央に立たされて、まだ気絶せず正気を保っている自分を褒めたい。
左右には随分と身なりのいい老若男女が揃っていて、皆一様に前方中央に向かって頭を下げた。

俺も同じようにした方がいいのかオロオロしているうちに突然楽器の音が鳴り響き、ピーンと体が突っ張って結局何もできないまま一人問答は終了。

そして登場したのは白髪混じりの男性。
さっきまで甲斐甲斐しく俺の世話を焼いていた、あの美しい鹿角男とよく似た色の瞳をしていた。


「《東の森の守護者ヨルダン》殿、此度の竜討伐、心より感謝する。」

「・・・・・・いえ・・・その・・・、ハイ・・・」


ああ、なるほどそういうことね、と俺はようやく自分の置かれた状況を理解できた気がする。
変態鹿男は俺のこと"英雄"と言ったけど、竜倒した件のことか。
あいつらよりによって王都を襲撃しようとしてたわけ?
馬鹿だな~、それに首突っ込んだ俺も馬鹿だな~。


そしてこの人・・・、間違いなくこの国の王様じゃん。
しかも今立ってるこの場所、《東の森の守護者ヨルダン》継承前にババアと一緒にきたわ。
区切りの挨拶はちゃんとせんといかん、とか言って、ほぼ引き摺られながらだけど。

俺はフード被ってずっと下向いてたけど、今聞いた声で分かった。
声は低く柔らかいのに、やっぱあれだ。
《一国の王》っていう、威厳がある。


「リオから聞いた話では怪我をされたそうだが・・・、もういいのか?」

「・・・ハイ・・・、っ!、あ!はい!こ、この通りもう大丈夫ですっ、ので、お、おれ、家に帰らせていただ、っ、ひぃっ!?」

「駄目に決まってます。」

「・・・リオ、気配を消して近づくのはよしなさい。」

「はい、以後気をつけます。」

「・・・・・・」



そんなこと言って絶対こいつ、またやるぞ。
親ならもっと強く注意しろよ・・・と、口に出せるはずがない。
俺の隣に立ち、凛とした表情で真っ直ぐ玉座を見つめるのは、この国の第一王子《リオ・クロード・オヴィリオン》。
紛れもなく、この《オヴィリオン王国》の王位継承権を持つお方。


さっきまでの変態っぷりは一体どこへ?
それにこの王様は息子の奇行っぷりをどこまで知ってんだ?
あんたの息子、アラサーの可愛くもないおっさんに猛烈なキスかましてきましたよ。
そういう嗜好でこの国これから大丈夫ですか?

・・・・・・とまあ、言いたいことは山ほどあるけど、俺は場をわきまえられる大人だ。
ここは黙っておいてやる。
と言うか、むしろ、今日以降今後関わることもないだろう。


この変態王子とそのお付きのヒトの話によると、王様は王都を襲おうとした竜を倒した俺に、褒賞とやらを贈りたいらしい。
即答で辞退を申し出たが、そう言うわけにもいかないんだとか。
権力者も、いろいろ大変だね。

とにかく俺は早く森に帰りたい、となれば、その褒賞とやらをさっさと受け取って帰ればいい。

それで、全部終わりだ。


多分、俺には不相応な宝飾品とか、多額の金品だろ?
後日必要な場所に匿名で寄付してまわればいい、と早々に切り替えて、俺はここまで来た。
謁見の間までぴったりくっついて離れなかった変態王子は『用意するものがあるので』とか言って、突然いなくなったけど、俺としては逃走の大チャンス到来。(懲りない男、それが俺)

耳飾りをぐいぐい引っ張ってみた・・・が、結局取れず、ただ痛いだけ。
何故か損した気分になったのは、ここだけの話。




「────して、《東の森の守護者ヨルダン》殿。褒賞の件だが・・・」

「っ、は、はい!」

「それが・・・その~・・・、急なことで私もまだ飲み込めていないんだがなぁ・・・」

「・・・はい?」


頭をぽりぽり掻きながら、打って変わって挙動不審の王様。

・・・・・・ああ!なるほど!そういことなら、早く言ってください!
さては、この国も実は財政難なんですね?
大丈夫!大丈夫ですよ、王様!俺、褒賞いらないです!

そんなモジモジしなくても、早く本当のことを言ってくれ────────、


「僕です。」

「・・・は?」

「ですから、褒賞は、僕です。」

「・・・は?」


腰に伸びてきた手を反射的に叩き落とした俺を、王様はきっと唖然として見ているだろう。
でもそちらに視線は送れない。
今、目の前のから目を逸らしたら、多分、いや絶対、面倒なことになるからだ。


「おーじ様、いきなり何言ってんですか?」

「僕のことはリオ、とお呼びください。これから貴方様の手となり、足となるのですから。」

「・・・それ、本気で言ってる?」

「勿論です。あ、ちなみに僕はこう見えて、家事全般できます。身の回りのお世話は全てお任せください。」

「・・・・・・」

「《東の森の守護者ヨルダン》様?」



こいつじゃ話通じないと判断した俺は、変態王子の親を見た。
さっきまでの威厳はどこへ?
ごめんね、と言わんばかりに茶目っ気のある顔で、苦笑いしている。

俺に体を寄せる人物へ、再び視線を戻す。
悔しいことにこの輝く薄黄色の瞳から一切の悪意を感じない。



「・・・俺んち、森ん中なんだわ。」

「はい!」

「・・・ほぼ自給自足で、」

「素晴らしいことです!狩猟はお任せください!」

「毎日森の見回りあるし、」

「手を繋いでお供します。」

「・・・・・・」 


この瞳はダメだ、真っ直ぐすぎる。
まるで純粋な子どもみたいに頑なで、一度決めたらきっと譲らない。

その証拠に、ほら、見てみろよ。
満面の笑みで俺の目の前に差し出したのは、血が滴る血判付きの紙。
王位継承権を放棄し、第二王子に全て譲る旨が明記されている。

血判は先ほど押したばかりのようだが、不思議なことに紙自体はかなり古い物に見える。
直筆のサインも随分と辿々しい字で・・・、まるで子どもの頃に書いたものを引っ張り出してきたかのよう────────。



「リオ、魔力多いよな?」

「はい!」

「歳は?」

「十八歳です!」

「っ、成人したてじゃねぇか・・・」

「やっっと正式に婚姻が結べる歳になりました!」

「・・・なるほど。」



棚ぼたで、継承者問題解決の道筋が見えた。
歳の差がもう少しあればなお良かったけど、とにかくこれからリオを後継者に仕立て上げて、俺が死んだ後のことは丸投げしよう。

そもそも獣人は人間より寿命が長いってババアから聞いたことがあるし、基本的な身体スペックが高い。

しかも見るからに・・・いや、触ったからわかるけど、こいつは体が丈夫そうだ。
この顔面なら嫁候補はいくらでもいる。
王族の血筋で獣人、更に優れたDNAを持った子どもが生まれたら、例えババアだって文句の付け所がないはず・・・!


「分かった。褒賞、受け取る。」

「っ、本当ですか!?」

「俺は嘘つかない。だから・・・耳飾りこれを外せ。」

「わかりました!」


清々しいほど元気な返事が広間に響く。
鹿だから犬みたいに尻尾では感情が分かんないけど、リオの耳はピクピク忙しなく動いている。

あまりに素直な反応に、俺は思わず笑ってしまった。
するとリオは花が綻ぶように破顔して、耳飾りを外そうと伸ばした手を一旦引っ込め、代わりに俺の体を抱きしめた。


人前で何してんだ!と叫ぶ俺に、抱きしめた腕を緩めないまま今度はリオが声を出して笑う。
それはかなり珍しいことらしく、周囲に居た人達からどよめきが起こった。

ドスドスと胸元を叩き、ようやく離れたリオは手際良く俺の耳飾りを外した。
すかさずそれを奪った俺は今度こそ《粉々に砕く魔法アストリューゼ》を使い、魔石を破壊。
目をぱちぱちとさせ、魔法の発動速度をひたすら褒め称えてくれたのは、懲りもせず俺の体を引き寄せた鹿角のリオだった。


────ついでにと言っては何だが、血判のためにどんだけ深く切ったんだと心配になる指にも魔法を使ったのは、俺のほんの気まぐれからである。



翌日、東の森へ出発したのはまだ日が昇る前の早朝。
騎士を数名引き連れ、見送りに来たのは昨日よりも幾分父親の顔をした王様。
そして戸惑う俺に手を伸ばし、握手を求めてきたのも彼だった。



「息子をよろしく頼む。《東の森の守護者ヨルダン》殿。」

「・・・あの、俺が言うのも何ですけど・・・、」

「何だ?」

「随分とあっさり我が子を手放しますね・・・?」

「・・・・・・それが彼女との最期の約束だったからな。」

「・・・や、くそく・・・?」

「父上、余計なことを言わないでください。《東の森の守護者ヨルダン》様、行きましょう。」

「え、あ、う、うん。」



用意してもらった馬車に乗り、俺はようやく家路につく。
馬車の中で大きな欠伸を何度も繰り返す羽目になったのは、同じベッドで寝ることを断固として譲らなかったリオのせい。
あまりにもしつこくて、一緒に寝るくらい別にいいか・・・と許した俺が甘かった。



「っんだよ、これはぁああ!!」

「・・・ああ・・・、とてもお似合いです・・・ッ!」

「キ、キ、キスマークがお似合いって、表現おかしいだろ!!?」


貸してくれた肌触りのいいガウン。
袖丈、股下、胸周り。
妙にジャストサイズなのが怖かったけど、超着心地良くて俺は人様の家(しかも宮殿)で、驚くほど爆睡。
ババアに追いかけ回された頃なんて、森の中で野宿は当たり前だったから自然とどこでも寝られる体質────獣を警戒するために音には敏感────になったんだけど・・・それが今回仇となった。

あまりよくない寝相によりガウンがはだけたであろう、腕、ふくらはぎ、首周り・・・に、おびただしい赤い痕。

朝になるまで気づかない俺も俺だが、さすがに限度ってもんがある。


「お、お、お前っ!寝てる間、他にも俺の体に、へ、変なことしてないだろうな?!」

「・・・・・・ええっと、」

「・・・したな?」

「少々唇を舐めただけで、っ、もう、叩くならもっと思いきり叩いてください、《東の森の守護者ヨルダン》様。」

「っ、ひぃい・・・っ、」


──────という本日早朝のやりとりを思い出し、隣で鼻歌混じりのリオの肩に頭突きを入れる。
どうしましたか?と菩薩のような微笑みで返され、俺はチッと舌打ちをして馬車の外を見た。


家に帰ったら、俺の大事な睡眠時間を守るため、まずは新しいベッドの用意から。
ババアが使ってた家財は一通り残してあるからそれを整えて・・・、いや、でもこの俺の足に絡んでくる長い足はみ出るか・・・?
まあ、そんくらい我慢させよう。

そもそもだな、俺のファーストキスを奪った罪は重いんだ。


「《東の森の守護者ヨルダン》様ぁ・・・」

「・・・どうした。」

「もしこれがまた夢だったらどうしましょう・・・。僕、立ち直れそうにありません・・・」

「・・・お前、何言ってんだ?」



突然弱々しい声で意味のわからないことを真顔で問うてくるリオの顔は本当に不安げで、この世の終わりみたいな雰囲気を漂わせている。
冗談を言っているわけでもなさそうだ。
だから俺はリオの手をとり、ぎゅうっと力を込めて握った。

俺だって、男だ。
渾身の力を込めれば、リオのこめかみをピクつかせるくらいには刺激を与えられる。

そしてもう片方の手を誰も座っていない前方の座席の方に伸ばし《花を出す魔法フィアット》を唱える。
あっという間に目の前がメルヘンな花畑状態で、馬車の中が甘い香りで満たされた。



「手、痛いだろ?」

「少~~しだけ。」

「言い方・・・。お前、花は好きか?」

「・・・え、ええ。まあ、それなりに・・・」

「じゃあちょっと目つぶっとけ。」

「・・・は、い。」


困惑しながら目を閉じたのを確認し、俺はリオの手を離すと花の方へ手を伸ばした。
宮殿の部屋にあった花をイメージしただけあって、現れたのは高級そうな花ばかり。
薄桃色、赤色、黄色、白色・・・、どれも綺麗で、香りがいい。



「・・・もう開けていいぞ。」

「・・・これは・・・?」

「花冠。リオにやる。」



────こちらの世界にまだ、なれない頃。
ババアの修業に嫌気がさして、俺は何度も逃げたことがある。
逃げて、逃げて、逃げた先々で、俺は特段することもなく、その辺に生えた草花で暇を潰していた。
田舎育ちなら誰でも作れるシロツメクサの花冠を応用して、いろんな花を花冠にした。

作った花冠を血迷って自分の頭に乗せて帰ったこともあるし、獣の頭や木の枝に掛けたこともある。

これが夢であれば、と何度も願ったけど、結局全て現実で元の世界には戻れなかった。
だから俺の中で花冠は、夢を消し去り、現実を突きつける力を持ったものだ。

・・・そんなことリオに話したこともないから、花冠を渡されたところで何も伝わらない。

でもなぜか、花冠を乗せたリオは嬉しそうで、それでいて今にも泣いてしまいそうな、難しい表情を浮かべていた。



「まじない、ってやつだ。これは夢じゃない。」

「・・・はい。」

「いい加減、手離せ。」

「夢じゃないかしばらく確かめたいので、お断りします。」

「・・・ああ、そう。」


はい、と嬉しそうに指を絡めるこの男を、拒めない俺は一体どうしてしまったのか。
こんなことになるなら、もう少しババアに弟子との距離の取り方と躾の仕方を習っておくべきだったかもしれない。



「愛の巣まで、もうすぐですね。」

「・・・ここで降りるか?」

「またまたご冗談を。ふふふ。」

「・・・・・・」


まずはリオのペースに飲み込まれないよう、ある程度の"無視"を覚えよう。
そんなことを考えている間に森の入り口まで到着。
送ってくれた騎士に別れを告げ、家の方へ歩き始めた俺の手に大きな手が重なった。

早速無視をかまそうとした俺の顔を覗き込み「おかえりなさい」と微笑むあたり、リオはすでに俺の扱いを心得ているのかもしれない。


「・・・ただいま。」


返事をした俺の頬に遠慮ないキスをしてから、リオは真っ直ぐ歩き始めた。
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