【完結】木の実のお菓子屋さん 〜リスと狼の獣人の話〜

N2O

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8 ジル視点

この見た目から、男女問わず言い寄られることが多かった。
それが嫌で、無表情を突き通していたら、それまでどんな顔をして周りと付き合っていたのかも忘れていった。

人と付き合わない分、鍛錬を続けていたらいつの間にか騎士団の副団長にまでなっていた。


俺のことはそれで大体伝わるだろう。
大して面白みもない狼の獣人だ。




父も母も狼の獣人で、番同士だ。
狼は特に番には敏感で、一生一人の番を大切にする。

俺はなかなか「この人」と思う人物に出会えなかった。
獣人の中には番にそこまで執着せず、人間と同じように結婚という手段をとり、添い遂げる者もいると聞く。
その者達にとってそれが幸せならそれでいいとも思う。



そもそも番になれる獣人、もしくは稀に人間らしいが、都合よく会えるとは限らない。
相性がいい相手からは良い匂いがすると両親から聞いた。
俺はその匂いがする相手に今まで出会ったことがなかった。

母が俺を生んだ歳になっても、その相手には出会わず、最早この国にはいないのではないか、そんなふうにも考えていた。
騎士という仕事にはとてもやりがいを感じるし、両親には申し訳ないが、一生独身でもいい。
兄や弟、妹もいるから、血縁の孫の顔は見せられるだろう。


そんなことを考えていたある日のことだった。





若手騎士に指導をした後、普段はあまり立ち寄らない詰所の休憩室に寄った。
その日、外はとても蒸し暑く、たまたま水筒も寮に忘れてしまった。
俺がこんなところで倒れてしまっては、他の騎士に示しがつかない。
水分補給をしようと休憩室に入った。
ここには水ならいつでも置いてある。

中にはハイエナの獣人が何やら菓子を食べようとしているところだった。
テーブルに置かれた袋から香ばしい匂いがする。
糖分補給は大事なことだ、別に攻める理由もない。



彼は手を洗おうと入り口に背を向けていたため、俺が入ってきたことに気付いていないようだ。
手を雑にバシャバシャと洗い、制服のポケットの奥から皺だらけになったハンカチを取り出す。


その瞬間。




俺の全身が急激に熱くなった。
「これは俺のものの匂いだ!」と頭でガンガン警報のようなものまで鳴っている。

俺はそのハイエナ獣人の腕を思わず掴み、そのハンカチのことを問いただしていた。
ハンカチを持っているという事は、まさかこいつの恋人なのか?
そんなわけ無い!その匂い者は俺の番だ!
頭の中はそんな言葉ばかり浮かんでいた。




フィードと言ったその獣人は、怯えた目で俺の質問に答えた。

ハンカチは隣の村にいる友人から借りたもので返し忘れていたこと。

クッキーもその友人から分けて貰ったということ。




その話を聞いている最中も、俺の心臓がドクドクと煩い音を立て、脳内は「会いたい会いたい会いたい」ということで埋め尽くされていた。

フィードをさらに問い詰めると、一週間後の自分の非番の日にまたそのハンカチを借りた人の家に行くのだと言う。
俺は通常勤務の日だったが、使いたくない手まで使って、何とか半日時間を作った。




そして一週間後、こじんまりとした可愛い家の前でカチコチになったフィードと共に家主の帰りを待っていると、2人のリスの獣人が籠を背負い、大きくこちらに手を振っているのが見えた。

1人は焦茶のふわふわした髪、もう1人は黒のふわふわした髪だった。
顔はあまり似ていない。
ピコピコと、先の尖った耳がこちらの様子を窺うように動いている。



俺はその一瞬で黒髪のリス獣人から目が離せなくなった。

「この子が俺の番だ」と全身が喜びに溢れている。
名前もまだ知らないのに。
言葉がうまく出てこない。
向こうからしたらさぞ感じの悪い奴に見えたはずだ。



小さいリス獣人の2人は俺とフィードを家の中に招き入れてくれた「こんなにも簡単に男を家にあげては危ない!」と注意したくなったが、これからは俺がいる。
危険な目になど遭わせない。

そして俺の番の名前は、ラピ、と言うらしい。何とも愛らしい名前だ。
すぐにでも抱きしめたくなった。

くりくりで大きな目に白く弾力がありそうな肌、赤みが強い小さな唇。
身長は俺と50cmくらい差がありそうだ。
今まで持ち合わせたことがなかった、俺の庇護欲をかきたてる。


ラピより背がやや高い焦茶色の髪を持つ少年は、どうやら弟らしい。
俺のことをじっと観察しているようだった。
ラピに対する俺の感情に気づき、大事な兄を守ろうとしているのだろう。
甘んじてその視線を受け入れた。




早く番になりたい。
ラピのそばにいたい。
その細い頸に噛みつきたい。




必死に無表情を取り繕ったが、うまく隠せていただろうか。

抑えきれず、帰り際手の甲に口付けた。
それだけでもラピの匂いが溢れていて、我慢の糸がすぐにでも切れそうだった。



「絶対、番になってみせる。」



そう固く決心し、その数日内に両親へ番が見つかったと報告を済ませた。

そして次は丸一日の休みをもぎ取り、あの可愛い森の家へ向かったのである。

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