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最初侍女視点です
――――――――――――
一人の少女が屋敷にやって来てから初めての太陽が昇った。
昨晩その少女は身の丈に合わない豪華な純白のドレスを身にまといベールを被り一人の使用人も引き連れないでこの屋敷が送り出した馬車に乗って真夜中にやって来た。
ベールを被っていたので顔はあまり見えなかった。
けれども聞いていた年齢よりもずっと大人びていて驚いた。けれどもそれ以上に肌が見えている箇所に驚いてしまった。
手先は骨と皮だけ。首も化粧を塗って隠しているつもりの様だけれども無数の傷が透けて見えていた。
彼女が着ていたドレスは胴体部分はシルクの布で出来ているけれど、襟元から袖口までは白のレースで出来たもの。
そのレースで出来た部分は赤や黄色などに酷く変色していた。
彼女を出迎えたのは私を含める他三人居たけれどその内の一人は彼女を部屋まで送ると泣き出してしまい、もう二人はあまり流血などの耐性が無かったのか吐いてしまった。
私たちはこの屋敷の主から彼女の世話を任されていた。
けれども私以外はこれ以上見ていられないと降りてしまった。
その子達の代わりに他の人員を入れようにも、屋敷はとても広く屋敷の管理だけでも人員を食われてしまうのに、屋敷には主の愛人が三十八名いる。その愛人達の世話でも人を取られ、今彼女の世話が出来るのは私しか居なくなってしまった。
まあ、一応これでもこの屋敷には三十年ほど働いているので、子供一人の世話ぐらい私一人でも出来ると思い深く考えないで彼女と主がいる扉の前で主が出て来るのを待っていた。
主から伝えられていた彼女の詳細は十四の男爵家生まれの令嬢で、実兄が起こした事が原因でこの家に嫁いでくる事になったらしい。
十四で自分の親よりも歳が離れた愛人まみれの男に嫁がなければいけないなど、自由がないなとは思う。
けれども、貴族間では歳の離れた相手に嫁ぐなどよくある話で今回も別に珍しくも何ともない。
可哀想だとは思うけれど、これからは金に困る事も無ければ、むしろ贅沢出来るのだから良かったのではないかと思ってしまう。
朝日が昇りしばらくした頃、主が部屋から出てきた。
バスローブ一枚を身にまとい、ふくよかなお腹を揺らし、気味の悪い笑みを浮かべながら出てきた。
「片付けとけ。また今晩部屋に向かう」
「畏まりました。」
頭を下げ主の足音が聞こえなくなるまで扉の前まで下げ続け、足音が聞こえなくなり頭を上げ、姿が見えなくなったのを確認してから部屋の中に入った。
昨晩付けたランプの火は消えており、カーテンが空いていない部屋は朝だと言うのに暗く、カーテンの隙間から零れる朝日がえらく明るく見えた。
その朝日は丁度彼女の顔を照らしていて、化粧が崩れたぐちゃぐちゃな顔が見える。
床に散らばる白い布切れを避けカーテンを開けながら彼女の元へ向かえばうっすらと聞こえてくる「なんで」と問う声や「助けて」と願う声が聞こえてきた。
彼女が横たわるベッドのシーツは彼女の髪色と同じ色に染まっていた。
流れ続ける涙と声が辛かった。
この家に嫁いでこれて良かったではないかと思ってしまった自分を殴り飛ばしたい。
私が十四の時は一体何をしていた?
初恋の人との結婚を夢見て、家族と一緒にご飯を食べて、友達と遊んで、勉強して、
なのに、なのに、彼女は好きでもない男の元に嫁がされて、傷物にされて、その上、身体中に酷い傷まで。
私は貴族でもなければ良家出身の人間でもない。ただの雇われ侍女。
そんな私が出来るのはどうか彼女がこれ以上傷付かないように全力でサポートするだけ。
それぐらいしか私に出来る事はない。
けれども自分でできることが有るのであれば例えそれが茨の道であろうとも光が無くとも進んでやる。
◆◆◆
「シャーロット様おはようございます」
女の人の声がした。昨日聞いた声。
声がした方を見ると確かに昨日出迎えてくれた侍女さんの一人が居た。
侍女さんの後ろから差す朝日が眩しかった。
でも何故か凄く安心できた。長い長い夜はもう終わったんだって。
「今シーツ変えますね。起き上がれますか?」
そう言って侍女さんが身体をゆっくり起こしてくれた。
起き上がって見たシーツは化粧やら涙やらでかなり汚れている。
侍女さんは私の身体を熟れた果物を扱うように丁寧に優しく扱い近くのソファーまで運んでくれた。
私のペースに合わせてゆっくりゆっくりと進んでくれて、久しぶりの人の暖かさが少しこそばゆかった。
侍女さんは私をソファーに移すとシーツの取り替えなどに移ってしまった。
一人でいると昨晩の事を思い出してしまう。
何故侯爵様は私を「レベッカ」と呼び続けたのか。
何故よりにもよってレベッカと、祖母の名前を……。
私が唯一愛していた人を、穢れなく美しかったあの人を。
昨晩侯爵様は私を通して祖母を穢し続けた。
何度も何度も。醜い図体で。
「シャーロット様、お風呂の準備が出来ましたので向かいましょうか」
侍女さんは私を丁寧に体の隅々まで綺麗に荒い、実家で付けられてしまった傷口は濡らした布で優しく拭いてくれた。
自分でも見るのが嫌になってしまうほど醜い傷なのに嫌な顔一つせず手当をしてくれた。
こんな汚い私でも見捨てずに優しく接せてくれて、侍女さんが一瞬祖母と重なってしまった。
誰からも大切にされなかった私の傍にいてくれた人。
「あり……がとう……」
「!! どういたしまして」
暖かいその笑みに自然と救われた。
もしよろしければ感想や評価よろしくお願い致します┏○┓
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一人の少女が屋敷にやって来てから初めての太陽が昇った。
昨晩その少女は身の丈に合わない豪華な純白のドレスを身にまといベールを被り一人の使用人も引き連れないでこの屋敷が送り出した馬車に乗って真夜中にやって来た。
ベールを被っていたので顔はあまり見えなかった。
けれども聞いていた年齢よりもずっと大人びていて驚いた。けれどもそれ以上に肌が見えている箇所に驚いてしまった。
手先は骨と皮だけ。首も化粧を塗って隠しているつもりの様だけれども無数の傷が透けて見えていた。
彼女が着ていたドレスは胴体部分はシルクの布で出来ているけれど、襟元から袖口までは白のレースで出来たもの。
そのレースで出来た部分は赤や黄色などに酷く変色していた。
彼女を出迎えたのは私を含める他三人居たけれどその内の一人は彼女を部屋まで送ると泣き出してしまい、もう二人はあまり流血などの耐性が無かったのか吐いてしまった。
私たちはこの屋敷の主から彼女の世話を任されていた。
けれども私以外はこれ以上見ていられないと降りてしまった。
その子達の代わりに他の人員を入れようにも、屋敷はとても広く屋敷の管理だけでも人員を食われてしまうのに、屋敷には主の愛人が三十八名いる。その愛人達の世話でも人を取られ、今彼女の世話が出来るのは私しか居なくなってしまった。
まあ、一応これでもこの屋敷には三十年ほど働いているので、子供一人の世話ぐらい私一人でも出来ると思い深く考えないで彼女と主がいる扉の前で主が出て来るのを待っていた。
主から伝えられていた彼女の詳細は十四の男爵家生まれの令嬢で、実兄が起こした事が原因でこの家に嫁いでくる事になったらしい。
十四で自分の親よりも歳が離れた愛人まみれの男に嫁がなければいけないなど、自由がないなとは思う。
けれども、貴族間では歳の離れた相手に嫁ぐなどよくある話で今回も別に珍しくも何ともない。
可哀想だとは思うけれど、これからは金に困る事も無ければ、むしろ贅沢出来るのだから良かったのではないかと思ってしまう。
朝日が昇りしばらくした頃、主が部屋から出てきた。
バスローブ一枚を身にまとい、ふくよかなお腹を揺らし、気味の悪い笑みを浮かべながら出てきた。
「片付けとけ。また今晩部屋に向かう」
「畏まりました。」
頭を下げ主の足音が聞こえなくなるまで扉の前まで下げ続け、足音が聞こえなくなり頭を上げ、姿が見えなくなったのを確認してから部屋の中に入った。
昨晩付けたランプの火は消えており、カーテンが空いていない部屋は朝だと言うのに暗く、カーテンの隙間から零れる朝日がえらく明るく見えた。
その朝日は丁度彼女の顔を照らしていて、化粧が崩れたぐちゃぐちゃな顔が見える。
床に散らばる白い布切れを避けカーテンを開けながら彼女の元へ向かえばうっすらと聞こえてくる「なんで」と問う声や「助けて」と願う声が聞こえてきた。
彼女が横たわるベッドのシーツは彼女の髪色と同じ色に染まっていた。
流れ続ける涙と声が辛かった。
この家に嫁いでこれて良かったではないかと思ってしまった自分を殴り飛ばしたい。
私が十四の時は一体何をしていた?
初恋の人との結婚を夢見て、家族と一緒にご飯を食べて、友達と遊んで、勉強して、
なのに、なのに、彼女は好きでもない男の元に嫁がされて、傷物にされて、その上、身体中に酷い傷まで。
私は貴族でもなければ良家出身の人間でもない。ただの雇われ侍女。
そんな私が出来るのはどうか彼女がこれ以上傷付かないように全力でサポートするだけ。
それぐらいしか私に出来る事はない。
けれども自分でできることが有るのであれば例えそれが茨の道であろうとも光が無くとも進んでやる。
◆◆◆
「シャーロット様おはようございます」
女の人の声がした。昨日聞いた声。
声がした方を見ると確かに昨日出迎えてくれた侍女さんの一人が居た。
侍女さんの後ろから差す朝日が眩しかった。
でも何故か凄く安心できた。長い長い夜はもう終わったんだって。
「今シーツ変えますね。起き上がれますか?」
そう言って侍女さんが身体をゆっくり起こしてくれた。
起き上がって見たシーツは化粧やら涙やらでかなり汚れている。
侍女さんは私の身体を熟れた果物を扱うように丁寧に優しく扱い近くのソファーまで運んでくれた。
私のペースに合わせてゆっくりゆっくりと進んでくれて、久しぶりの人の暖かさが少しこそばゆかった。
侍女さんは私をソファーに移すとシーツの取り替えなどに移ってしまった。
一人でいると昨晩の事を思い出してしまう。
何故侯爵様は私を「レベッカ」と呼び続けたのか。
何故よりにもよってレベッカと、祖母の名前を……。
私が唯一愛していた人を、穢れなく美しかったあの人を。
昨晩侯爵様は私を通して祖母を穢し続けた。
何度も何度も。醜い図体で。
「シャーロット様、お風呂の準備が出来ましたので向かいましょうか」
侍女さんは私を丁寧に体の隅々まで綺麗に荒い、実家で付けられてしまった傷口は濡らした布で優しく拭いてくれた。
自分でも見るのが嫌になってしまうほど醜い傷なのに嫌な顔一つせず手当をしてくれた。
こんな汚い私でも見捨てずに優しく接せてくれて、侍女さんが一瞬祖母と重なってしまった。
誰からも大切にされなかった私の傍にいてくれた人。
「あり……がとう……」
「!! どういたしまして」
暖かいその笑みに自然と救われた。
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