1週間の恋人契約

七海さくら/浅海咲也(同一人物)

文字の大きさ
2 / 10

1日目 《出会いと契約》

しおりを挟む

(サイアク……! ほんっと、サイアクッ!)

 月曜日から本当にツイてない。なんでオレがこんな目に遭わなければならないのだ。
 泣きそうになるのを堪えながら、オレは勢いよく校舎の影から飛び出した。中庭にある花壇の前で、はたと足を止めて慌てて近くにある木の影に隠れる。
 うちの高校のプリンスこと、桐生悠晴きりゅうゆうせい。同じ2年生でありながら接点はない。
 桐生は入学当時からその容姿で注目を集めていた。優しげで爽やかな王子さま顔の、スラリとした美形。影でひそやかにどころか本人の目の前でも『プリンス』と呼ばれるようになるのに、そう時間はかからなかったらしい。
 そのプリンスと、こちらに背を向けているのは制服からして女子だ。たぶん、告白の現場に、うっかり乗り込んでしまいそうになったらしくて慌てた。
 小さく吐息してこっそり様子をうかがって見れば、やはり女子からの告白のようだ。
 プリンスは困ったように笑って、ごめんね、と言う。

「ごめんね。気持ちは嬉しいんだけど、俺、好きな人いるんだ」

 聞こえてきた言葉に、驚いた。
 そんな噂、ただの一度も聞いたことがなかったからだ。まあ、オレには関係のない話だし、早くどこかへ行ってくれ、と願いながら2人が去るのをぼんやりと待っていると。
 たぶん、女子が走り去る足音が聞こえた。
 それから、ため息。そのまま居なくなると思ったプリンスは、なぜかこちらの方に歩いてくるようだった。

(バレたか……?)

 偶然とはいえ、覗きのようなことをしてしまっている。
 サクリ、サクリ、と音を立てて近付いてくる彼に、さてどう謝ろうと考えていたところへ。

「クイーン、だよね?」

 ひょい、と顔を見せたプリンスは、オレの不名誉極まりない2つ名を口にした。

「……その呼び方やめろ」

 不機嫌丸出しで、オレはプリンスを睨みつけた。
 誰がクイーンだ、と内心で毒づいた。
 本当に不名誉な2つ名を付けられた上に、本人であるオレを目の前に言ってくるヤツは初めてだ。
 それもそのはず、オレ自身がその『2つ名』を嫌っていることも有名だからだ。それなのに呼び方を変えないヤツらにも問題はあると思うが。

「ごめんごめん。小日向こひなたあおいくん、だよね?」
「……そうだけど」

 ちゃんと本名知ってるなら最初からそっちで呼べよ、と思ったのは内緒だ。

「あのさ、何かあった?」
「……は?」
「なんか顔色悪いし、こんな所に居るのに上履きのままだし」
「……なんでもない」

 そんなに顔色悪いか? と思いつつ、上履きなのは突発事項があったからだとも言えずに、なんの気なしに手の甲で口を覆っていた。そっと視線を逸らせば、プリンス──桐生は、そんなオレの視線の先へと回り込む。ギョッとして身を引けば背中が木に当たって、ギクリと身体がこわばった。

「なんでもないって顔じゃないし、どう見ても今の状況はおかしいと思うけど?」

 ぐ、と言葉に詰まる。
 その時だった。

「小日向先輩……?」

 声が聞こえて、うげ、と思った。
 1年だけど、中学では運動部だったらしくて綺麗に筋肉がついてガッシリとした、見た目はそれなりにいい男。
 だけど。

「……ねぇ、小日向。なにあれ」
「ちょっとめんどくさいストーカー」

 ひそり、と聞かれてこちらも小さく返した。

「なんかフラついてるけど?」
「男の急所蹴り上げてやったからな」
「うわぁ……」

 桐生は自分がそうされたかのように痛そうな顔をした。

「小日向先輩、さっきは……」
「もうオレの前に姿を見せるなって言ったよな?」

 何かを言い募ろうとする男を、バッサリと切り捨てる。
 それでも、最前の出来事は脳裏から消えてくれなくて。少し恐怖を感じていたオレは無意識に桐生の制服の裾を掴んで小さく震えていたことに自分では気付いていなかった。

「すみません! もうあんなことは……」
「関係ない。お前の顔はもう見たくない」

 ああもう。堂々巡りだ。いつになったらコイツは諦めてくれるんだ。

「えっと、お取り込み中ごめんね?」
「桐生……」

 桐生がなぜか口を挟んできたけれど、むしろその事にホッとした。

「そっちのキミはさ、にどんな用件なの?」
「え、あの……」
俺の恋人、、、、だと知った上で葵に手を出してくるなら、こっちにも考えがあるよ?」

 にこり、とどこか黒い笑顔の桐生がめちゃくちゃ怖いことを言う。
 ん? 葵? 今、葵って呼んだか?

「あ……、すみませんでした!」

 ストーカーがなぜか慌てた様子でくるりと回れ右して去って行くのを、オレはぼう然と眺めていた。

「え、なん、なに……?」

 何が起こったのか、よく分からない。

「あのさ、葵」
「ちょっと、名前……」
「うん、だから。そうだな、1週間。付き合ってみない?」
「は?」

 何が『だから』なのかとか。そんなことさえ吹き飛んだ。
 付き合う? 桐生とオレが?

「……冗談だよな?」
「本気。お互いの利益のためにさ。俺は告白を断る理由になるし、あのストーカーからも俺が葵を守るから。期間限定の恋人役、やってくれない?」

 びっくりした。こんな条件を持ちかけられるなんて思ってなかった。
 ええと、つまり。
 恋人契約、とかっていうやつか。

「……1週間だな?」
「うん」
「わかった。よろしく頼む」

 こうして、桐生とオレの期間限定の恋人生活が始まったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

雪色のラブレター

hamapito
BL
俺が遠くに行っても、圭は圭のまま、何も変わらないから。――それでよかった、のに。 そばにいられればいい。 想いは口にすることなく消えるはずだった。 高校卒業まであと三か月。 幼馴染である圭への気持ちを隠したまま、今日も変わらず隣を歩く翔。 そばにいられればいい。幼馴染のままでいい。 そう思っていたはずなのに、圭のひとことに抑えていた気持ちがこぼれてしまう。 翔は、圭の戸惑う声に、「忘れて」と逃げてしまい……。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん

315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。  が、案の定…  対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。  そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…  三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。  そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…   表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

処理中です...