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1日目 《出会いと契約》
しおりを挟む(サイアク……! ほんっと、サイアクッ!)
月曜日から本当にツイてない。なんでオレがこんな目に遭わなければならないのだ。
泣きそうになるのを堪えながら、オレは勢いよく校舎の影から飛び出した。中庭にある花壇の前で、はたと足を止めて慌てて近くにある木の影に隠れる。
うちの高校のプリンスこと、桐生悠晴。同じ2年生でありながら接点はない。
桐生は入学当時からその容姿で注目を集めていた。優しげで爽やかな王子さま顔の、スラリとした美形。影で密やかにどころか本人の目の前でも『プリンス』と呼ばれるようになるのに、そう時間はかからなかったらしい。
そのプリンスと、こちらに背を向けているのは制服からして女子だ。たぶん、告白の現場に、うっかり乗り込んでしまいそうになったらしくて慌てた。
小さく吐息してこっそり様子を窺って見れば、やはり女子からの告白のようだ。
プリンスは困ったように笑って、ごめんね、と言う。
「ごめんね。気持ちは嬉しいんだけど、俺、好きな人いるんだ」
聞こえてきた言葉に、驚いた。
そんな噂、ただの一度も聞いたことがなかったからだ。まあ、オレには関係のない話だし、早くどこかへ行ってくれ、と願いながら2人が去るのをぼんやりと待っていると。
たぶん、女子が走り去る足音が聞こえた。
それから、ため息。そのまま居なくなると思ったプリンスは、なぜかこちらの方に歩いてくるようだった。
(バレたか……?)
偶然とはいえ、覗きのようなことをしてしまっている。
サクリ、サクリ、と音を立てて近付いてくる彼に、さてどう謝ろうと考えていたところへ。
「クイーン、だよね?」
ひょい、と顔を見せたプリンスは、オレの不名誉極まりない2つ名を口にした。
「……その呼び方やめろ」
不機嫌丸出しで、オレはプリンスを睨みつけた。
誰がクイーンだ、と内心で毒づいた。
本当に不名誉な2つ名を付けられた上に、本人であるオレを目の前に言ってくるヤツは初めてだ。
それもそのはず、オレ自身がその『2つ名』を嫌っていることも有名だからだ。それなのに呼び方を変えないヤツらにも問題はあると思うが。
「ごめんごめん。小日向葵くん、だよね?」
「……そうだけど」
ちゃんと本名知ってるなら最初からそっちで呼べよ、と思ったのは内緒だ。
「あのさ、何かあった?」
「……は?」
「なんか顔色悪いし、こんな所に居るのに上履きのままだし」
「……なんでもない」
そんなに顔色悪いか? と思いつつ、上履きなのは突発事項があったからだとも言えずに、なんの気なしに手の甲で口を覆っていた。そっと視線を逸らせば、プリンス──桐生は、そんなオレの視線の先へと回り込む。ギョッとして身を引けば背中が木に当たって、ギクリと身体が強ばった。
「なんでもないって顔じゃないし、どう見ても今の状況はおかしいと思うけど?」
ぐ、と言葉に詰まる。
その時だった。
「小日向先輩……?」
声が聞こえて、うげ、と思った。
1年だけど、中学では運動部だったらしくて綺麗に筋肉がついてガッシリとした、見た目はそれなりにいい男。
だけど。
「……ねぇ、小日向。なにあれ」
「ちょっとめんどくさいストーカー」
ひそり、と聞かれてこちらも小さく返した。
「なんかフラついてるけど?」
「男の急所蹴り上げてやったからな」
「うわぁ……」
桐生は自分がそうされたかのように痛そうな顔をした。
「小日向先輩、さっきは……」
「もうオレの前に姿を見せるなって言ったよな?」
何かを言い募ろうとする男を、バッサリと切り捨てる。
それでも、最前の出来事は脳裏から消えてくれなくて。少し恐怖を感じていたオレは無意識に桐生の制服の裾を掴んで小さく震えていたことに自分では気付いていなかった。
「すみません! もうあんなことは……」
「関係ない。お前の顔はもう見たくない」
ああもう。堂々巡りだ。いつになったらコイツは諦めてくれるんだ。
「えっと、お取り込み中ごめんね?」
「桐生……」
桐生がなぜか口を挟んできたけれど、むしろその事にホッとした。
「そっちのキミはさ、葵にどんな用件なの?」
「え、あの……」
「俺の恋人だと知った上で葵に手を出してくるなら、こっちにも考えがあるよ?」
にこり、とどこか黒い笑顔の桐生がめちゃくちゃ怖いことを言う。
ん? 葵? 今、葵って呼んだか?
「あ……、すみませんでした!」
ストーカーがなぜか慌てた様子でくるりと回れ右して去って行くのを、オレはぼう然と眺めていた。
「え、なん、なに……?」
何が起こったのか、よく分からない。
「あのさ、葵」
「ちょっと、名前……」
「うん、だから。そうだな、1週間。付き合ってみない?」
「は?」
何が『だから』なのかとか。そんなことさえ吹き飛んだ。
付き合う? 桐生とオレが?
「……冗談だよな?」
「本気。お互いの利益のためにさ。俺は告白を断る理由になるし、あのストーカーからも俺が葵を守るから。期間限定の恋人役、やってくれない?」
びっくりした。こんな条件を持ちかけられるなんて思ってなかった。
ええと、つまり。
恋人契約、とかっていうやつか。
「……1週間だな?」
「うん」
「わかった。よろしく頼む」
こうして、桐生とオレの期間限定の恋人生活が始まったのだった。
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