無愛想な君から笑顔が消えた

明星杏

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第12話

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「この団子最高すぎるね、抹茶ソースがち天才だわ」
テラスにシートを敷いてコンパクトな座椅子に腰かけ空を見上げている。めちゃくちゃ晴れてる。
「そいえばさ、ふと思ったんだけどクレーターがうさぎに見えるのって奇跡的だよな!」
「確かに!2人はいつも星だけしか見ないの?」
「だな。去年も一昨年も真っ暗。月を見るタイミングというか、きっかけというか、がなかったんだよ」
そっか。俺もそうだ。弟たちを寝かせた後のこの時間は毎日課題に追われていた。お月見の日に月を見るなんて考えもなかった。というかお月見がいつなのか知らなかった。
「秋だね…ちょっとひんやりする」
「優真寒がり?ひざ掛けいる?慧は?」
俺と慧はひざ掛けをお願いした。まだ9月なのに風が冷たく、乾燥している。昼は結構暑かったのに。寒暖差激しいから弟たちの服装も考えないとな。
「ごめん、ひざ掛け篠宮が持って行ってんのと爽一郎が使ってて1枚しかねぇわ。まぁでかいから許して」
俺らは3人で少しだけくっついて一緒にひざ掛けを使った。温かい。運動会での疲れもあり、今すぐにでも眠ってしまいそうだった。
「優真今日頑張ってたもんな。今日だけだぞ。少しの間だけだぞ。肩使っていいぞ。」
「じゃあ、俺も~!」
「10分で起こすからな。」
月島さんが肩を貸してくれるとは思わなかった。2人が寄りかかったら月島さんが寝られないから。月島さんも今日はずっと立っていてくれて声も出して応援してくれて絶対に疲れているはずなのに自分を犠牲にして俺らを甘えさせてくれる。兄弟みたいな関係だ。月島さんが少し強気だけどいざという時は守ってくれるお姉ちゃんで俺と慧は双子の弟。一昨年、進路と末っ子の世話で忙しくしていた時、担任の先生から突き放されるように「お前もう就職すれば?」と言われたことがあった。でも高校大学みたいに就職先からの求人が学校に来るわけでもない、言い出しっぺの先生が探してくれるわけでもない、中卒の就職先は限られている中俺は進学を選びたかった。中学生という精神的に不安定になりやすい時期、周りの人たち何人かは反抗期で親と喧嘩したとか、家に帰るのが嫌で友達の家に泊めてもらうとかしてた中俺は妹や弟たちのために嫌な事があっても頑張って家事をやってきた。時には"俺が長男じゃなければ…" "親がちゃんとしてれば…"なんて考えた事もあった。だけど2年経った今ではお姉ちゃんのような存在もいるし、爽一郎さんは歳は割と近いけど俺を可愛がってくれている親のような存在だ。

「おい、起きろよ」
月島さんの声がして、目が覚めた。
「少し曇ってきたし、風も結構強いからもう中入ろうぜ。風邪引くぞ。」
家の中に入っても俺たちはまだくっついていた。家の中も結構寒かった。寝起きだし、急に寒くなったからそう思うだけかもしれないが、暖房をつけたいくらい空気はひんやりとしていた。今日は篠宮さんの部屋と来客用の部屋を借りてみんなで泊まることになっていた。月島さんの部屋で小学生の妹2人、篠宮さんの部屋で中1の妹と弟2人、来客用の部屋で俺と慧が寝ることになった。
「ベッドでかすぎぃ…」
来客用の部屋のベッドはキングサイズだ。両親と子ども2人は余裕で寝られるだろう。
「なぁ優真、先に謝っとくわ。ごめん。」
「え!なんだよ、急に」
「いや俺さまーじで寝相悪いのよ。ごめん。」
まあキングサイズだし慧の足が俺の上に乗っかるくらいなら弟たちもそんな感じだし大丈夫だろう。
…と思っていたが
「イッッタッ!」
蹴られた。慧に蹴られた。痛すぎ。どんな夢見てんの。まじで。時計を見るとまだ朝の4時半。まだ早いかなと思いつつトイレにも行きたくて部屋を出た。すると
「優真おはよう、早いな!」
「あ!爽一郎さんおはようございます!さっき慧に蹴られちゃって起きたんです笑」
「それは災難だったな笑 俺もさっき両親からの電話で起こされちった。慧の寝相そんなに悪いなら今から俺の部屋で一緒に2度寝するか?」
「え!いいんですか!ならお言葉に甘えて…」
爽一郎さんのベッドはふわふわで寝心地が良く、すぐに寝ることができた。
「あ!優真こんなとこにいた!びっくりした。帰っちゃったかと思ったじゃん」
「ん…あ、月島さんおはよ…」
「慧めっちゃ焦ってたよw 起きたら優真いなくなってて怒らせちゃったかもとか言ってw」
そうだった。俺は慧と一緒に寝てたんだ。慧が起きる前にリビングに行こうと思っていたのにしっかり寝坊している。慧には謝り、爽一郎さんにはお礼を言い、俺たちは昼頃帰った。月島さん家はホテルのようで自分たちの家に帰ると急に現実を突きつけられるような感覚に陥る。それは夢のような時間でもあったが確かに現実だ。という不思議な気持ちになる。妹弟たちの顔つきも全く違い、星のようにキラキラと輝いていた。俺も星みたいに輝いているかな。そこまで自分の表情管理は得意じゃないから、もし今輝けているならとても嬉しい。
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