無愛想な君から笑顔が消えた

明星杏

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第16話

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「おーい!そろそろ11月になるぞ~、制作発表の準備始めろよー!あ、月島はアンコール作品考えとけよ。みんな考えてるんだからな。そいえば藤澤は初めてだったよな?」
「大丈夫です!もう月島さんと虎谷くんに教えてもらったんで!」
「おう、そうか、じゃあみんな今日も授業頑張れよー!」
アンコール作品ってなんだろ。その話は聞いてなかったな。慧も言ってなかったし、忘れてるだけかも。後で聞いてみよう。
「紫織ちゃん、もし良かったらなんだけど発表時間少しだけ分けてくれない?」
「あ……ごめん。ギリギリまで使っちゃうんだよね。慧に協力してもらったら時間余りそうな人見つかるんじゃない?慧!協力してくんね?」
「おう!みんなに聞いてみるね!田中さんはどんな発表するの?」
「えー…まだ内緒かな」
田中さんは照れながらそう言った。というかいつから"紫織ちゃん"呼びになったんだろう。みんな本格的に準備を始め出す時期になるのか。俺も頑張らないとな。今とりあえず1曲目の歌詞は全部覚えて振り付けも何となくできてる。予想以上に早く覚えられて不安は少しだけなくなった。
「なんでこんな面倒臭いことやんなきゃなんだよぉ~」
クラスからそんな声がちらほら聞こえた。何を言ってるんだ。こんな楽しいこと一生できないぞ!?体育祭も学園祭も自分の好きな事はできない。でもこの学校は大好きな仲間や同じ趣味の仲間と好きな事をしてそれをみんなの前で発表する。それ繋がりで知り合ったり友達になったりもできるだろう。このイベントは控えめに言って最高だ。
「みんななんでこのイベント嫌がるの?」
「人の前に立って発表するって結構勇気いるからな」
「家庭環境良くなかったり、小中の時にいじめられてたりする子もいるから自分の好きな事否定された人も多いだろうし。でもそれを受け入れるのがこの学校の良さだよね。しかも俺は色んな人を見るのが好きだから普通の人にはできないその人の個性が溢れ出てる発表大好きなんだよな!」
俺は何にも分かってなかったんだ。色んな人がいる。この2人といると価値観や考え方が変わる。この2人と友達でよかった。
「そいえば今日紫織ちゃんって言われた」
「あれ?俺らの知らないとこで仲良くなったんじゃないの?紫織ちゃん呼び俺も気になったけど…」
「まあ嬉しかったしいっか」
嬉しいのか。俺もいつか下の名前で呼べたらな…

今日は久々に星を見た。2曲目を聴き流しながら。広く深い空に鳴り響く力強い歌声を聴くと自分まで強くなれたような気がする。
「あ、そういえばアンコール作品って何?」
「あ~、1位になった人がもう一作品発表すんだよ。去年は1位になるのはダンスだろうなって思って作らなかったんだよ。しかもあれできたのも結構ギリギリで」
「今年は一応用意しとこうよ!来年のビデオ作りにもなるし!」
「そうだな。優真の言う通りだよ、今回は結構早めに取り掛かれてるしもう1曲くらいなら…ね?紫織?」
「まあいいけど」
アンコール作品は2曲目、3曲目を練習しながら考えることにした。2曲目は少しだけ決まった振り付けはあるが簡単だし、3曲目はステージから降りて走りながら歌うだけ。振り付けはないがどこに行ってどこで止まってとか降りるタイミングなどを話し合う。これもそこまでは難しくないだろう。アンコール作品も練習できる期間が十分に取れるため、難しくても心配はいらない。とりあえず頑張るだけだ。

俺らは3人で交代ごうたいでカメラを回した。特に決まったタイミングはなく、なんなら練習以外でもビデオを回していた。月島さんに授業中ウトウトしている姿を撮られたり、俺たち3人の弁当が何もかも一緒なこと、雨の日に慧の傘に大きな穴が空いていたうえ大きな水溜まりに足を突っ込んで泥だらけになったこと、時には篠宮さんや爽一郎さん、俺と慧の家族も一緒に写ってくれた。月島さんはあんまり写りたがらない。カメラを向けると背を向ける。スマホで撮った動画も編集してくれるって言ってたし今度バレないように撮ってみようかな。カメラは基本的に使わない。時間割りとシフトだけしか撮ったことがないが初めて思い出としての写真や動画が撮れるかもしれないとワクワクした。
「そういえば紫織ってなんでカメラなんて持ってんの?最近持ってる人少なくない?スマホだってあるし」
「爽一郎とは少しだけ歳が離れてるから爽一郎の年代はビデオカメラはみんな当たり前のように持ってたんだよ。その映像みてスマホじゃこの感じ作れないなって思って。手ブレとか画質とか音質とか全てが懐かしさを感じさせてくれて、スマホで撮るよりもなんか今を大事にしなきゃなって今っていう時間は限られてるって思わせてくれるんだよな。だからカメラの最新は絶対に買わない。手ブレ修正してくれるし画質も良くて気になってるんだけどな」
「お前やっぱ変わってるわ」
「だから何回も言うけどお前ほどじゃないって」
「はぁ!俺変じゃないだろ!え!俺って変じゃないよな!?なぁ優真教えろよぉ~😭」
「変じゃないよ。2人とも。個性が輝いててかっこいい」
「それ遠回しに変って言ってるだろ!?」
「え~?違うよ~笑」
意味深な顔をしてそう言ったが、かっこいいのは本当だし2人の個性は大好きだ。言い方を換えれば"変わってる"になるだろうが本当に羨ましい。俺も何か才能見つけたいな。
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