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永き旅路
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それは、未来の物語──。
科学技術こそ進歩したが環境維持が困難となった地球人類は、破壊されてしまった環境を修復する為に最低限の人材を残し一度星から離れることが国際会議で決定した。
反対する国は少なからず存在した。しかし、異常気象により生活や食料の維持が難しいと判断し最終的には全世界が『地球再生計画』に賛同することとなった。
とはいうものの、地球人口規模の移住となると問題は山積み……。以前から長い時間を費やし推進されていた火星のテラフォーミング計画は八割方完成していたものの、移住の為の地が足りないのである。
同時に進行していた木星のパラテラフォーミング化は道半ば……そして月に完成していた居住区を合わせても全人口の四割を賄えるかといった状態となっていた。
地球に残り再生労働にあてる人口を増やしても五割……つまり、人類の残り半数はどうしても星間移住計画に組み込むしかない。
そこで新たなテラフォーミング計画の地を選ぶ為人類が選択したのは、島宇宙航行計画──地球圏の外への移住地探査である。
但し、これは賭けでもあった。
「五木君。我々に残された猶予はあとどれくらいかね?」
島宇宙航行船『あかつき』船橋──白い制服を身に纏う白髪混じりの齢五十程の男は、船内の端末を操作する女性に近付くとコーヒー入りのカップを差し出した。
女性は二十代後半程。白衣に眼鏡をかけた研究者といった風体だ。
「名取船長。お休みになったのでは?」
「このところ眠れなくてね……それで、専門家の見立てはどうなんだね?」
「……あまり芳しくは無いですね」
船長からマグカップを受け取った五木優花は、片手で端末を操作しデータを表示する。
「予定ではあと三年程は維持できる筈……でしたが、我々は見落としていたことがありました」
「子供……か」
「はい。出生率は計算よりも高くなってしまいました。考えてみれば、人間は危機にある程に子孫を残そうとしますからね……」
「かくいう私の孫も最近生まれている。申し訳無い話だな」
「仕方ありませんよ。ただ、現実問題としては何とか効率を調整しないといけませんが」
有機培養や資源再利用技術を使用し生活物資を賄う航行宇宙船は、それでもリサイクル率八割程……つまり、航行が長引く程資源や食料が減って行く。
航行自体は核融合エンジンにより余裕はある。しかし有機物はそうは行かない。特に食料を維持するには最低限の水と生産の為の時間が必要となるのだ。
島航行船は消耗との戦い……分かっていたことだが、安住の地が見付からねば宇宙幽霊船と成り果てる結末が待っている。
「搭乗数十万人の巨大船ですからね……。せめて冷凍睡眠装置が完成していれば違ったのでしょうが……」
「その時間も残されていなかったのだから仕方あるまい。これも人類の不始末から始まったこと……だが、せめて子供達には希望を遺してやりたいのだがな」
大小合わせ五百以上あった航行船は既に大半と連絡が取れないという。それも当然だろう。『あかつき』の乗員は既に平均七世代目──数百年宇宙を往く航行船で実際に地球を知っている者は知識を残す為の極僅かな冷凍睡眠対象者のみ。移民船団はそれ程に永き旅を行っているのだ。
恐らく航行船の大半は『あかつき』同様の消耗との戦いを続けている。或いは何らかの事情で既に存在していないと優花は考えていた。
「早く我々の楽園を見付けねばな」
「星系図では次の惑星までどれくらいですか?」
「一週間程だ。しかし、次こそは……と思う自分と、諦めている自分が居る。おっと……最高責任者がこんなことを言っては不安にさせてしまうな」
名取は人差し指を立て自分の口元に運びおどけて見せた。
「大丈夫ですよ。次こそは……」
「そうだな。信じよう」
「少し休んで下さい。惑星が見付かったらもっと忙しくなりますよ? 名取船長には頑張って貰わないと」
「ハッハッハ。確かに目まぐるしくなるな……。……。船内科学者統括とはいえ君には苦労を掛けて済まない、五木君」
「いいえ。……。お休みなさい、船長……良い夢を」
「ありがとう。おやすみ」
科学技術こそ進歩したが環境維持が困難となった地球人類は、破壊されてしまった環境を修復する為に最低限の人材を残し一度星から離れることが国際会議で決定した。
反対する国は少なからず存在した。しかし、異常気象により生活や食料の維持が難しいと判断し最終的には全世界が『地球再生計画』に賛同することとなった。
とはいうものの、地球人口規模の移住となると問題は山積み……。以前から長い時間を費やし推進されていた火星のテラフォーミング計画は八割方完成していたものの、移住の為の地が足りないのである。
同時に進行していた木星のパラテラフォーミング化は道半ば……そして月に完成していた居住区を合わせても全人口の四割を賄えるかといった状態となっていた。
地球に残り再生労働にあてる人口を増やしても五割……つまり、人類の残り半数はどうしても星間移住計画に組み込むしかない。
そこで新たなテラフォーミング計画の地を選ぶ為人類が選択したのは、島宇宙航行計画──地球圏の外への移住地探査である。
但し、これは賭けでもあった。
「五木君。我々に残された猶予はあとどれくらいかね?」
島宇宙航行船『あかつき』船橋──白い制服を身に纏う白髪混じりの齢五十程の男は、船内の端末を操作する女性に近付くとコーヒー入りのカップを差し出した。
女性は二十代後半程。白衣に眼鏡をかけた研究者といった風体だ。
「名取船長。お休みになったのでは?」
「このところ眠れなくてね……それで、専門家の見立てはどうなんだね?」
「……あまり芳しくは無いですね」
船長からマグカップを受け取った五木優花は、片手で端末を操作しデータを表示する。
「予定ではあと三年程は維持できる筈……でしたが、我々は見落としていたことがありました」
「子供……か」
「はい。出生率は計算よりも高くなってしまいました。考えてみれば、人間は危機にある程に子孫を残そうとしますからね……」
「かくいう私の孫も最近生まれている。申し訳無い話だな」
「仕方ありませんよ。ただ、現実問題としては何とか効率を調整しないといけませんが」
有機培養や資源再利用技術を使用し生活物資を賄う航行宇宙船は、それでもリサイクル率八割程……つまり、航行が長引く程資源や食料が減って行く。
航行自体は核融合エンジンにより余裕はある。しかし有機物はそうは行かない。特に食料を維持するには最低限の水と生産の為の時間が必要となるのだ。
島航行船は消耗との戦い……分かっていたことだが、安住の地が見付からねば宇宙幽霊船と成り果てる結末が待っている。
「搭乗数十万人の巨大船ですからね……。せめて冷凍睡眠装置が完成していれば違ったのでしょうが……」
「その時間も残されていなかったのだから仕方あるまい。これも人類の不始末から始まったこと……だが、せめて子供達には希望を遺してやりたいのだがな」
大小合わせ五百以上あった航行船は既に大半と連絡が取れないという。それも当然だろう。『あかつき』の乗員は既に平均七世代目──数百年宇宙を往く航行船で実際に地球を知っている者は知識を残す為の極僅かな冷凍睡眠対象者のみ。移民船団はそれ程に永き旅を行っているのだ。
恐らく航行船の大半は『あかつき』同様の消耗との戦いを続けている。或いは何らかの事情で既に存在していないと優花は考えていた。
「早く我々の楽園を見付けねばな」
「星系図では次の惑星までどれくらいですか?」
「一週間程だ。しかし、次こそは……と思う自分と、諦めている自分が居る。おっと……最高責任者がこんなことを言っては不安にさせてしまうな」
名取は人差し指を立て自分の口元に運びおどけて見せた。
「大丈夫ですよ。次こそは……」
「そうだな。信じよう」
「少し休んで下さい。惑星が見付かったらもっと忙しくなりますよ? 名取船長には頑張って貰わないと」
「ハッハッハ。確かに目まぐるしくなるな……。……。船内科学者統括とはいえ君には苦労を掛けて済まない、五木君」
「いいえ。……。お休みなさい、船長……良い夢を」
「ありがとう。おやすみ」
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