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12:久しぶりの登校でございまして

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「カシス嬢、おはよう!」
「お、おはようございます…ですわ」

 あの日…断罪イベントから五日。少しの謹慎を経て、登校する日がやってきた。
 学校に行きたくない…と思っていても、行かないのもやることはないし……消えるのが一番の償いだと思ったけど、シャルトリューズもキールもそれはだめだと強く言ってきたので、卒業するまであと二年間通わなくてはいけない。
 とはいえ、やっぱり他の生徒と顔を会わせにくくて早めに寮を出た……のに、寮の門前には何故かシャルトリューズが居た。女生徒の制服ではなく、ちゃんと男の格好をして。

「随分と早い登校なんだね」
「殿下こそ…早いんですのね」
「ああ、私は精霊たちから君が準備をしていると聞いてね」
「え…ええ、そうですか…ははは……」

 さらっと言われたけど、それ日本だったら盗撮盗聴まがいだから!…とは言えなくて、乾いた笑いで返す。

「それじゃあ、行こうか」

 差し出された手を見下ろして、固まってしまう。これは…えーと、繋げということなんだろうか。
 シャルトリューズを見ればにこにことわたしを見詰めている。

「え、えっと……はい…?」

 そっと、手のひらを重ねれば嬉しそうに瞳が細くなって、でも耳はちょっとだけ赤く染まっていて。
 胸が高鳴ると同時に顔が熱くなってしまうのを感じた…。

***

「……」
「……」

 繋いだ手が熱くて、どきどきしてしまって上手く言葉が出てこない。歩く速度はわたしに合わせてとてもゆっくりだ。シャーリィの時からだけど、とても紳士的な人なんだな。こんな人に色んな嫌がらせをしてしまっていたことに胃がきりきり痛むよ……。

 それよりも、この黙ったままの空気を何とかしなければ。いつも他の令嬢といるときって、どんな話をしたかしら…男性となんてルシアンくらいとしか関係を持っていなかったし……。
 ああ、こういう時何をしゃべればいいの!?と、困っていれば、隣からふっと笑うのが聞こえた。

「この頃天気が優れないね」
「そろそろ雨季に入りますから」

 シャルトリューズが空を見上げて、ちょっと困った顔で空を見上げていた。目線を追って、わたしも上を見れば黒い雲が空を覆っている。

 ネーブル国は、一年の間に二回雨季がある。じめじめしていて、ちょっと癖っ毛のわたしにはつらい時期なのよね。髪はぼさぼさになっちゃうし、お化粧のノリも良くないから夜会の日はいつも不機嫌だったっけ…。

「…あ」

 ぽつ、と上から雫が垂れてくる。鼻に当たって、思わず声が漏れてしまった。

「大変ですわ!殿下、急ぎましょう!」
「あ、いや、このくらいなら――」

 手を引っ張って、あと少しの校舎を目指してちょっとだけ早い足で向かう。
 しまった。王子の手を引っ張るなんて物凄く失礼だわ。いやでも濡れてしまうのは良くないし…!
 そう言い訳をしている間に、校舎へと着いた。
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